【双子】学校を休みがちなので、次は東洋医学に頼ってみた
乾燥したヨモギを、揉んでいた。
ただひたすら無言で。
雑居ビルの1室。
その鍼灸院の治療用ベットを机にして、私と双子の娘たちと三人横並びで座り、乾燥ヨモギを揉みながら、時々葉っぱに混じる茎を取り除く。
「こんな感じの太い茎があると刺さっちゃうから上手に取ってね。」
目の前に座っている作業着姿の女の先生が言う。
「ほら、お母さんも手動かして。」
ふと思った。
えーと、…これは今、何してんだろ?
鍼治療って聞いてたんだけどな。
その日は結局鍼どころか、先生は一度も二人の体に触ることもなく、診療を終えた。
我が家には、中3の長女と中1の双子の次女三女の三姉妹がいる。
双子は去年の4月に中学校に入学して以来、二人とも学校に行こうとするたびにおなかが痛くなり、吐き気や嘔吐、時には頭痛やめまいで、学校を休みがちになった。
毎日行かない訳ではないが、
次女も三女も、週に1~2日休むペースだ。
そして学校に行った日でも、早退してきたり、保健室で休んだりすることも多い。
初めて三女が朝トイレで嘔吐した日、これは家で出来る対処療法じゃもうだめだと気づき、小児科を訪れた。
診察では「過敏性腸症候群」と言われた。
次女も同じだった。
過敏性腸症候群用の薬と、整腸剤を2週間分づつ出してもらい、朝昼晩、毎日飲み忘れないようにする生活がスタートした。
ちなみに我が家には中3の長女もいるが、長女は学校が好きすぎて「夏休みも冬休みも全部登校日になれ」と願う程で、陸上部部長なだけあって、体力もメンタルも鬼だ。
三姉妹がこうも全然違うと、いつも私はそれぞれ別の種の生き物を産んだと思う事にしている。
爬虫類と魚類と鳥類だ。比べなくて済む。みんな違ってみんないいだろ?雑な金子みすゞスタイルの母。
…とはいえ、長女の子育てを経て、最近まで子どもはみんな学校が好きなんだと思っていたので、双子の学校行き渋りには正直面食らった。
特に1~2学期は、母としてかなり思い悩んだし、
「何としてでも学校行ってほしい期」と
「まぁどっちでもいいや期」を繰り返しながら、母も日々葛藤に重ねる葛藤を経て、今は第三次「まぁどっちでもいいや期」に入っている。
前置きが長くなったが、朝になると体調が悪くなり学校を休む双子は、薬は毎日飲むようにはしていたものの、一向に改善する様子はない。
メンタルの調子が良い時は体調も少しは良くなるが、本人が「今日は学校に行きたい!」と強く思った日でも、体調が悪くて行けない日もある。
そんな時は、これが病気なんだなと思い知らされる。
最初は腹痛だけだった症状も、次第に吐き気も加わり、そのうち三女は毎朝トイレで吐くようになった。小児科に行くと、吐き気止めの薬を追加された。
「これって、いつまで飲み続けるものなんでしょうか?」私は小児科の先生に聞いた。
「まぁ、1年以上飲んでる子もいるよね。飲むだけで安心する子もいるしさ。それで学校行けるなら、飲んでたらいいよ。」
そうしてまた、薬の種類が増え、過敏性腸症候群の薬も一緒に1ヶ月分の薬を出された。
私はだんだん心配になってきた。
たしかに薬は有効だ。
西洋医学は対処療法だから、飲んでいる時は多少症状は治まる。でも、これっていつまで続くの?
改善しているという実感はない。そして新しい症状が出れば、新しい薬が増える。このままでは、薬の量だけが増え、薬を飲まないと安心できない生活になるんじゃないのだろうか?
そんな不安を抱えていた時、たまたま親友に会った。
小中高一緒の、まごうことなき私の親友。
同じ市内に住んでいるので、しょっちゅう会う。その日は、帰省した男友達(さとし)からもらったお土産のキムチを渡すために銀行の駐車場で立ち話をしていた。
彼女は、これから鍼灸院に行くところだった。彼女も、そして彼女の息子も赤ちゃんの頃からお世話になっている治療院だ。
その鍼灸院に行った時、うちの双子の事を先生に相談したら、その先生が「一度診てあげるよ」と言ってくれたらしい。
「もしよかったら一度行ってみて!」
とLINEで鍼灸院の連絡先をくれた。
鍼、か。
うちの二人が全力で拒否しそうな響き。
うちの子たちは全員注射が大キライだ。
そりゃ注射が好きな子どもなんていないけど、たまになんだから耐えられる、という子はいると思う。
でも、うちの双子は本当に耐えられないらしい。アトピー性皮膚炎の治療のために通うアレルギー外来でも、何度も先生に最新の注射治療を進められている。そしてそれを毎回全力で断る双子。
いつも先生に何を聞かれても、ボソッ…としかしゃべらない二人が、この前ついに「注射、死んでも嫌なの?」と先生に聞かれ、二人そろって
「死んでも嫌です。」
とハッキリ答えて、横にいた看護師さんが吹きだしていた。
何度説得しても毎年インフルの予防接種も拒否だし、今のところ採血するアレルギー検査も拒否中。アレルギー外来なのにさ。
「鍼治療」なんて言ったら、絶対嫌がる。
もう中学生だし、本人が嫌がるなら連れて行けない。本人が嫌がる治療をしても、やっぱり効かないじゃん。
それでも、これは一筋の光になる気がする。
西洋医学ももちろん頼りになるけど、双子の体調不良は主に、思春期特有の自律神経の不調が理由だ。自律神経には、東洋医学が効きそうな気がしない?知らんけど。
親友いわく、小児治療なら最初は鍼を刺したりはしないらしい。簡単なおうちのセルフケアを学んだり、マッサージ程度だと思うから大丈夫と言ってくれた。それを双子に伝える。二人は、渋々だが、まずは一回行ってみると了承してくれた。多分、本人たちもこのままじゃいけないと感じていたのだと思う。それに、やっぱり、自分が具合悪いのって辛いし、それを見てる親だって結構辛いんだ。
クリスマスに、その鍼灸院を予約した。
50代の女の先生が一人でやっているその鍼灸院は、朝から夜20時までやっているのに、予約フォームは予約済の「×」でいっぱいだった。
なんとなく、信頼できる気がした。
さて、冒頭に戻ろう。
なぜ私たちは今、本来は横になり治療を受けるべき鍼灸院のベットの上でカッサカサに乾燥したよもぎをひろげ、3人無言で揉んでいるのか。
それは「玄米よもぎカイロ」を作らされているからである。
初めて訪れた雑居ビルの1室に、その鍼灸院はあった。予約時間に行くと、眼鏡をかけた丸顔の女の先生が出迎えてくれた。
「初めましてー!」
なんとなく雰囲気は学校の先生っぽい。わかるかな?多分この人、優しそうだけど、きっと強くて怖い。怒られないようにしよう。
「お二人とも、まずはこちらへどうぞ。お母さんも一緒に。」
私たちは奥の診察台のベットの横に3人通された。一人ずつ横になるのか?それとも先に着替えたりするのか?
ドギマギしていたら、先生に椅子を出され、診察台を机に先生と私たち3人が向かい合って座る。
「まずは、お話を聞かせてください。」
そう言って先生は、うちの双子に一人ずつ、
・いつどんな症状が出るのか
・いつからそれを感じるようになったのか
・それはどんな時に出やすいのか
・朝は何時に起きて夜何時に寝るのか
・寝てる部屋はどうなっているのか
・スマホはどのくらい使うのか
・学校では部活に入っているのか
・習い事はしているのか
などなど、本当に細かくめちゃくちゃたくさん質問してくれた。二人の体を、生活スタイルを理解するために。それにぼそっ、ぼそっと答える二人。
そして、こう言った。
「おそらく自立神経の不調によるものかと思います」
やっぱり。
「それを改善するために、今日からお二人にやって欲しい事をいくつか言うので、メモして、次に来るまで、この年末年始に実行してみてください。」
母は必死でメモった。概要はこんな感じだ。
「まずは、良質な睡眠を取ることからスタートしましょう」
先生が話してくれたそれをする理由や、その行為がどう体に作用するのかに関しては割愛するが、実際はとても細かく丁寧に説明してくれた。実はこれ、私が以前読んでいた自律神経の本にも書いていた。二人にもよく言い聞かせていたことだ。
でも、ここで一番の問題は、
思春期真っ盛りの我が娘たちは、
母のいうことを聞かない、という事である。
母の「本に書いてたからやってみて」は聞かない。だから、こうして「先生」と言われる人に言ってもらえるとありがたい。説得力も全然違う。
そして、もう一人。
本と、鍼の先生と、まったく同じことをずっと言い続けてくれている人がいる。私の母だ。
74歳のうちの母は、孫たちが遊びに来ると「悪の根源はスマホにあり」と、真っ先にスマホを預かり、それを棚の中、植木鉢の裏、時には炊飯器の中に隠す。
そんな母は、年始にうちの三姉妹に「夢ノート」なるものを配った。そして「願いを100個書け」と課題を出し、うちの実家でお雑煮食べさせながらやらせていた。アットホームなタイプの自己啓発セミナーだ。おやつ、ときどき昼寝付き。
その夢ノートの1ページ目に書いているのがこちら。
うわー…。
こわい。宗教感がすごい。
※ヨガを習っている母の独自の見解です
と注釈を入れたくなる。
この宗教はインド系なのかアニマル浜口系なのか。
でも、普段からこれを聞かされている双子は「やっぱり、祖母が言っていることも先生が言っていることも正しいんだ」と思うには十分だったようで、先生に「先生の言ったこと、やってくれますか?」と聞かれ、めずらしく二人とも素直に「はい。」と答えていた。
おお!
この手ごわい二人に、いうことを聞かせるとは!
「では早速、首元や目を温めるカイロを今日は作っていきましょう。」
へ?カイロ?それなら、うちにもあるよ。
貼るカイロも貼らないカイロも。箱で買ってある。あとレンチンするだけの「あずきのチカラ」もある。
「今日作るのは、”玄米よもぎカイロ”です。これは、湿気を含むカイロなのでより熱が体に浸透しやすいし、電子レンジで温めて使うので、繰り返し使えて便利です。あずきを使ったものもありますが、玄米は粒が小さくより熱を効率よく放射します。よもぎにもたくさんの効能があります。ということで、ここにある巾着袋、好きな柄選んでいいよー!どれがいい?」
巾着袋?
これに玄米とよもぎを入れるってことなのか??
よくわからないまま、次女はシマエナガ柄の巾着を、そして三女はパンダ柄の巾着を選んでいた。
巾着を選んだら、次に乾燥よもぎを渡され、揉みながら茎を取り除き、巾着に入れる作業だ。
三人でもくもくと作業する。
そのよもぎを入れた巾着に、更に玄米を入れてひもを結んだら完成。
「玄米よもぎカイロ」がでけた。
冬休みが明け、学校が始まって、二人とも、
毎朝恒例の「なんか具合悪い」が再開した。
ただ、ちょっとだけ、母の体感だけど、なんとなくちょっとだけ、体調が良くなってる気がする。以前みたいに、おなかが痛すぎてうずくまって動けない…、みたいな日が減った気がする。
クリスマスに初めてその鍼灸院を訪れて以来、今日までに3回通った。ちなみにお値段はリーズナブル。
2回目は、先生が初回から今までの経過を聞いてくれたあと、先生は二人の身体を初めて触り、脈を診ただけで、二人の体質と特徴を当てた。
三女が緊張しぃな事、次女のガードが堅い事、そんなことも見事に当てた。その上で、お家で出来るセルフケアを教えてくれた。スプーンや歯ブラシを使って身体のツボを刺激するのだ。それを毎日おうちで取り組むことになった。
3回目には、ついに治療らしいことが行われた。
鍼ではなかったが、双子が鍼よりも怖がっていたお灸をされた。ちなみに、熱くはなかったらしい。
3回通って、先生には色々「おうちでこれをやってみて」と提案された。しかし、相手は思春期女子2名。しかも、多分素直じゃない部類の女子。
自分で作った玄米よもぎカイロは、最初「くさい」と使うのを嫌がった。それでも、母は諦めきれなかったので、最初は部屋に置くことで匂いに慣れるところからスタートした。
今では次第に匂いも薄まり、最近は自分で寝る前に温めて使ってくれるようになった。玄米よもぎカイロを目の上に乗せて寝ると、ぐっすり寝付けるらしい。最近は朝も「ママこれ温めて~」と言って、おなかを温めながらご飯を食べている。
寝る前の、”携帯見ない運動”のために、携帯電話の休止時間も21:00を20:30に変更してくれた。本当は20:00にシャットダウンにしたかったが、話し合いの末、20:30にした。しかし、声をかけないと寝室に携帯を持ち込もうとする。それでも、最近少しづつリビングに置いてってくれるようになった。
朝日を浴びてる様子はない。
よって、早朝に朝日に向かって「ハッハッ!!」と笑っている双子も今のところまだ見てない。ま、それは最悪やらなくてもいいけど。こわいし。
おうちでやるセルフケアも、最初は「スプーンが冷たい」だの「歯ブラシが痛い」だの文句を言っていたが、それでも、TVを見てる時なんかにやらせてもらってたら、1ヶ月経った今では、私にされるがまま結構やらせてくれるようになった。
自宅で出来るせんねん灸も手に入れたが、それだけは嫌だと今は拒否されている。鉄分が足りないと指摘され買ったサプリも、現在拒否されている。ま、受け入れてもらえるものから、一歩一歩ね。
そんな感じで、今は鍼灸院に通いながら、おうちで出来るケアを色々試している。過敏性腸症候群の薬はほぼ飲んでいないが、それでも、鍼灸院に通う前よりは、少しだけ、体調が辛くないように見える。
とはいえ、学校に行きたくない理由や、体調が悪くなる理由は複合的で、原因も一つではないから、病院行ったら不登校は治る、ということではない事は重々承知している。すぐには全てが改善しないだろう。
それでも、今のところはこの方法が今出来るベストで、長い目で見た時にはヘルスケアの方法として薬を多用するよりはなんとなく正しい気がするので、しばらく続けてみようと思っている。
あぁ、母って、ついやり過ぎちゃうよね。
特に私は先回りしちゃうし、押しつけちゃうし、やりすぎちゃうので、それだけ、気を付けていきたい。
また、進捗、報告しますね!