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大学生の頃から部屋にあった群青色の革のソファを棄てた。近所のリサイクルショップで見つけ…
風呂から上がると、親父が換気扇の前で一服しながら俺を待っていた。K、これ地図な、お前の…
西口に出た。高架通路の下で、二人組の若者がギターを弾いていた。ちょうどイントロか、…
朝から雨が降っている。俺は雨音だけが聞こえる静かな部屋で在る短篇小説にとりかかっている…
すぐそこまで春が来ているようだった。夜勤に出るのに手袋をしなくなり、昼過ぎに起きると花…
店から出ると、確かに景色は霞んでいて、空港や高層ホテルの輪郭が薄ぼやけて見えた。それに…
アパートに帰ってくると、玄関に見知らぬ汚れたズック靴があった。父親は仕事に出ているはずだし、靴もふた回りは大きかった。中に入ると、作業着の男が缶コーヒーを呑んでいるところだった。男は俺に気がつくと黙ったまま会釈した。見たところ同年代らしい、坊主頭の寡黙そうな男だった。男は缶を潰してポケットにねじ込むと、これから焼き切るんで、ちょっと響きます、とボソリと言った。大家の指示で、劣化した給湯器を交換して廻っているらしかった。業者が勝手に上がりこむのには馴れっこだった。俺は男の為に
週の真ん中だというのに駅前の繁華街は異様に賑わっていた。ソープ街の串焼き屋に一時間、ド…
牛みたいだね、と二週間ぶりにアパートにやってきた女が言った。顔も丸くて、髭も剃って…
この店には女の客がほとんど来ない。カウンターに並ぶのは、物流施設の作業員、工事現場の肉…
憂鬱な冬の時期だった。その頃の俺は女に棄てられた苦しみに喘いでばかりいて、あまり周りが…
だめでした、途中で心が折れちゃって、せっかく勧めて下さったのに、すみません……。厨房に…
或る夏の朝、夜勤を終え部屋で服を脱いでいると、ソファで寝ている女がクックと肩を顫わせて…
女がドアの隙間から顔を出した。鼠色のマフラー越しにはしゃいだような笑い声をだす。俺は原稿から顔を上げようとしない。ねえ、三日間も連絡がなくて淋しかった? 色々聞きたい? 俺はまっさらな画面から目を離さないまま、微苦笑だけを浮かべてみせる。女が部屋に入ってくる。コートを脱ぎながら俺の背後にあるソファに坐ろうとする。白紙を見られるのが癪で、しかたないから聞いてやるというふうに原稿を畳んだ。淋しかった? と繰り返しつつ女はコートに芳香剤を吹きかける。そんなもんつけたら勘ぐられるん