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#006 『もえぎ草子』(2) ~紙についての物語~

Radiotalk『架空の本屋ラジオ』
#006 『もえぎ草子』(2) ~紙についての物語~

『架空の本屋ラジオ』第六回をお届けします。
いらっしゃいませ、ごきげんよう。えまこです。

前回に引き続き、『もえぎ草子』のご紹介をしていきます。
前回はどういうお話なのか・どういう時代のお話なのかということを、さっと触れる程度ですけどご紹介しました。

私の信条として何回かお伝えしてきているんですけど、「ネタバレは罪だ」っていうのがありますので。
どの程度触れていいのか、踏み込んで話していいのかっていうのはもう迷い迷いずっとやってるんですけれど。
やっぱり、読んでみたいなって思って手に取った方が、『自分で読んで初めて受ける感動』っていうのの邪魔はしたくない、っていうのがありますので……
やっぱり、ふんわり・漠然とっていう感じのご紹介になってしまいますね……はい。
著者の先生にはもう少し詳しい感想をちゃんとお届けしたいなと思います。はい。
というわけで、皆さまがこれから読まれるということを想定して、言い過ぎないようにふわふわ―っとしゃべろうと思います。
わき道にそれつつ、雑談挟みつつ、連想ゲーム的に、はい。参ります。

この物語には、主人公は萌黄(もえぎ)ちゃん、12歳の女の子です。
それから『枕草子』が出てきますけども、その著者の清少納言さんも登場人物として描かれています。
他にも一緒に……萌黄ちゃんと一緒に働いている人、平安京の人たちが何人か出てきますが。
このお話の面白いところのひとつっていうのが、平安時代の人々の暮らしとか、生活の雰囲気とかを、結構つぶさに描写していらっしゃることだと思います。

創作界広し、その中で『平安時代もの』っていうのはひとつのジャンルみたいな感じで人気があるんじゃないかなと思います。
自分が今まで触れてきた『平安時代もの』って結構あるんじゃないかなーと思って、リストアップしてみたんですけど、まぁ結構ありました。
その中で、前回しゃべった通りで、私は『源氏物語』寄りのものに好んで触れてきたので、『枕草子』関連のものっていうのは実はそんなに知らなかったりします。

結構触れる機会がある、たとえば『あさきゆめみし』、マンガですね。
『陰陽師』、これもマンガですね。
ジブリの映画の『かぐや姫の物語』とか。
あとは、瀬戸内寂聴さんが書かれた源氏物語の女性たちの本とか、私読んだりしていました。
少女小説とかにもあります。
で、著者の女性の作家さんお二人は、やっぱり伝記・マンガ伝記などにも題材としてよく採られてるかなーと思うので、『イメージとして膨らませることのできる平安時代』っていうのはまぁまぁあるような気がします。
国語の便覧なんかでも見たような、そういう影響もあると思いますけど。
ただそういうものの多くは、貴族社会について、都の内裏の中とか、貴族のお屋敷の中とかは結構細かに見ることができるかなーと思うんですけれど。
でも、一歩大内裏を出た外の京の都の庶民の皆さんの生活の様子っていうのは、今まで自分が触れてきた平安時代ものの作品の中でそんなに見る機会がなかったということに気が付きました。

萌黄ちゃんはこのお話の中でちょっと苦しい目に遭って、最後はあらぬ誤解を受けまして、それを上手に解消することができずにお仕事を奪われ、出ていかなければならなくなる。
女の子ひとりで町に出ていかなければならなくなる。
そういう展開があるんですけれど。
そうやって今度は、貴族社会と距離を置いた下々の生活の、そういう町でどういうことが繰り広げられているかっていうことが描かれていきます。
その中で彼女は生きていくすべを見つけなければならないっていう。
頼れる人にも出会うんですけれど、その人の生きていく頼もしい姿を横で見ながら、自分がどうやって生きていこうかっていうことを考えて、少しずつ行動に移し始める。
そういうようなことが描かれていきます。

これが、なんかこう、初めて読んだなーって思いました。
うーん……こう、平安時代の人々のあいだで例えば今とリンクしますけど疫病が流行ったみたいなこととか、物の怪が出たみたいなこととか、そういう人々が恐怖におののいている様子みたいなのは描かれたことがあるんですけど、ここになんかこう、貴族方面の人からヒーローが出てきてヤアッと解決してくれたりとか、そういう話っていうのはわりとありますよね。
こう、平和なというか、雑多な生活の様子っていうのは、初めてこのお話からイメージを得たなぁというのが、ちょっと新鮮な感動のひとつでした。

さて、このお話には登場人物たちの他に主役級といえる大事なアイテムが登場します。
それが紙です。
ペーパーですね。
平安時代で紙っていうと、もちろん今のような製紙工場とかあるわけではないので、全部手作業の手漉きの和紙だと思います。
これが物語の中で、萌黄ちゃんを時に助け、時に誤解を受ける原因にもなり、彼女を励ましたり、生活する術として出てきたり。
最後にやっぱり、これが彼女の未来を決めるひとつのきっかけになるという……
全体にこの『紙についての物語』っていうふうにも言うことができると思います。

で、職人さんの手仕事による和紙ですから、手間暇がかかっています。
それで、萌黄ちゃんはお父さんが紙漉きを仕事にしている方のようで、物語の最初で育ての親の叔母さんとお別れしなきゃいけないときに、お父さんから預かっているっていう、真っ白い厚地の紙の束っていうのを渡されます。
これが、当面の萌黄ちゃんの財産っていうことになるんですね。
で、この紙を元に、交換することで萌黄ちゃんが買い物をするシーンとかがあるんです。
紙は高価なものだっていうのは実際に文字で書いてあって「なるほど!」って思うんですけど、そんなことまでできるほど高価とはちょっと思わなくて、これもまた驚きでした。はい。

ただ、お金はお金で存在するみたいなんですね。
作中でも「銭」っていう言葉は出てきます。
その銭の話をしたのは、萌黄ちゃんのお仕事の先輩にあたる瑞木ちゃんっていうしっかりした女の子です。
彼女は出世欲が結構前面に出てる女の子で、気が強くて、上にのぼっていくために・いい暮らしをするために、テキパキと、ちょっと図々しくも思えるくらいテキパキと仕事をする、かなり勝気なお嬢さんですけど。
その瑞木ちゃんが、銭をチマチマ数えて、自分で数えて買い物したりとかするよりも、高貴な方々っていうのは対価を布とかものとかで支払う。
私が目指すのはそういう暮らしなんだっていう話をします。
これは、現代のものとお金の価値が真逆なんじゃないかって思うくらいの衝撃でしたね。
なので、こう、要するに物々交換のほうが高貴なことっていうふうに彼女は考えている。
そういうことが語られていました。

こういう、平安時代の考え方とか価値の違いとか、風俗とかっていうのがこう、淡々と書かれてるんですけど。
それを見てエーッて思うことが結構あるので、時代背景とか舞台とかを見て楽しむ余地っていうのがすごくありましたね。

で、ちょっと余談でそれるんですけど。
私の好きなマンガ『落第忍者乱太郎』、『忍たま乱太郎』の原作ですけれども。
これは忍者の物語で、時代の設定は室町時代後期というふうになっています。
時代考証がかなりしっかりとしていて、尼子先生がかなり調べて描かれているので、とっても厳密でかなりお勉強になるんですけれども。
そこにも、紙についてっていうのの描写があります。
それが、この平安時代の『もえぎ草子』に書かれているような、同じような価値なのかっていうことまではちょっとわからないんですけど、やっぱり「高級なもの」というふうな位置づけで語られます。
ちょっと書き損じを出したくらいでは捨てないで、隙間まで書くし、裏返して使うし……っていうふうに、使われていますね。

こういうふうに、平安と室町までっていうのも時代の開きはかなり年数があるはずなんですけど、ずーっとそれなりに価値のあるもの、高価なものとして紙っていうのは、人々の間に存在してきたんですね。
時には文字を書いて気持ちを伝え、物語を伝え、人の心を動かす。
時には日に透けるようなうっすらとしたきれいな色の紙を、色を重ねることで気持ちや季節や何かを表現する。
それを渡された人がやっぱり何か感じ入るっていう、そういう役割を持っている。
その、何か表現文化の美しさっていうものには、何かやっぱ見ていて心ときめくものがありました。

萌黄ちゃんの紆余曲折の人生とともに、『紙を巡る物語』でもあります、『もえぎ草子』です。

まだ続きます。
お付き合いください。

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