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#005 『もえぎ草子』(1) ~枕草子と平安時代をあるく!~

Radiotalk『架空の本屋ラジオ』
#005 『もえぎ草子』(1) ~枕草子と平安時代をあるく!~

『架空の本屋ラジオ』
の、第五回配信をお送りいたします。
いらっしゃいませ、ごきげんよう。えまこです。

ここまで四回分の配信の時間をたっぷり使って、自己紹介・業務連絡・雑談などなど、あんまり本に関係ない話ばっかりしてきてしまったんですけど。
やっと本屋さんらしく『本のご紹介』という話題をお送りしようと思います。はい。
ずっと「この本を最初に取り上げよう」っていうふうに決めてたんですけど、先延ばしになってしまって。
満を持しての登場、という感じです。

この本を、本屋さんの棚のどこに置こうかなーってなりましたら、ジャンルで言うと『児童書』にあたります。
児童書も更にその中でいくつか、分かれていて。
まず『絵本』、それから『児童読み物』、あとドリルとかワークブックみたいなもの、とかがあります。
その中では『児童読み物』かなーっていう本です。

『児童読み物』っていうのも、たとえば絵本は絵が主体でときどき文章が入ったり、見開きで片方のページが文章、もう片方のページが絵、みたいなつくりになってます。
それと違って文章が主体になっていて、ときどき挿絵があったり、まるっきり挿絵ないのもあると思いますけど、それが『児童読み物』っていうふうに呼んでます。
たぶん小学校の中・高学年くらいからが対象の小説の本、という感じです。

たとえば、岩波書店の箱入りの児童書。
ミヒャエル・エンデの『モモ』とか、『ゲド戦記』とかがラインアップにある、あれとか。
それと、ハリポタとかも、ジャンルで言うと『児童読み物』と呼んでいいと思います。
この本も四六判のハードカバーのすごいきれいな装丁の本で。
これ、ブックデザインもお話の要素に絡めて作ってあると思われます。
すごいきれいです。
これについても後々時間を使ってご紹介したいと思います。はい。

著者・久保田香里さん
挿絵・tonoさん
監修・赤間恵都子さん
くもん出版から出ています、『もえぎ草子』という本を、ご紹介いたします。

これは平安時代が舞台の物語です。
本の帯にも『枕草子から生まれた物語』というふうにアオリが入っています。
『枕草子』というと、知らない方はいないでしょう。
清少納言さんが書かれた有名な随筆です。

この『もえぎ草子』のお話の中で、『枕草子』が結構随所にちりばめられて登場します。
清少納言さんも、登場人物として出てくるんですけれども、この『もえぎ草子』自体の主人公はタイトル通り萌黄(もえぎ)ちゃんという12歳の女の子です。
彼女と清少納言さんとの間に、あんまり親しい感じの関わりはないんですけど、出会いがまぁ、あって。
萌黄ちゃんがお仕事の役割を果たしたりとか、そういう小さな関わりの積み重ねがあるんですけども。
そうやって、清少納言という人が『枕草子』を執筆しているという場所に近いところで過ごすことで、萌黄ちゃんはこれまでに縁遠かった「紙と文字で伝える文化」に触れていくことになります。
彼女は物語当初では文字の読み書きっていうのができないような子なので……
多分この時代は教育っていうのはそういう感じなんでしょうね。
で、このあと、でも、結構大変な目に遭って、苦労が続く……というようなお話です。はい。

それでですね、この時代の政治の状態とか時代背景みたいなものが、登場人物たちに影響してる・翻弄されてるっていうようなことが、お話を通して・物語を透かして、うっすら見えてきます。
これは作中でも人物相関図とか、京の都の内裏・大内裏の構成……どの位置にどういう場所があるっていうようなことが、ちゃんと図が入ってて。
平安時代の都の様子っていうのが、目で見て、図を見てわかるようになっています。
このあたりの作りはとっても親切です。

この時代は帝を筆頭に、エライ人のほうでいうと貴族がいて、結構はっきりした身分差があります、それが描かれています。
そういう、貴い人たちにお仕えする人たちがいて・お世話する人たちがいて。
さらにその下に庶民の皆さんがいて、帝たちの暮らしている内裏・それを囲む大内裏の外に広がってる都の裾野に住んでいるというような……そういう感じです。
その身分差によって起きる出来事が、結構つらいものが多く……
庶民の皆さんにはもうどうすることもできないような理不尽なことっていうのがあるんですけど。
主人公の萌黄ちゃんはもう、お話の初っ端からそういう目に遭っています。

彼女はもうご両親と一緒に暮らせないでいる女の子で。
お母さんは流行り病で亡くなっている。
お父さんは紙を作る職人さんのようなんですけれども、たぶん連絡も取れていないような、疎遠になってしまってる。
で、お母さんの妹さん……萌黄ちゃんにとっては叔母さんにあたる方と一緒に暮らしてたんですが、この叔母さんとの別れのシーンからお話が始まります。

で、この叔母さんも、たぶんどなたか身分のある人だと思うんですが、にお仕えしている人で。
このご主人様がちょっと遠国に旅立たなければならなくなった。
で、連れていく召使いに叔母さんも選ばれてしまったんですね。
萌黄ちゃんを一緒には連れてけないってことになったので、若干12歳の彼女が、大内裏の下働きの部署へ行って働くっていう。
ちょっと先行きに不安を感じるような、そういう別れのシーンから始まります。

このお話で萌黄ちゃんにこのあと襲い掛かってくる苦難の数々っていうのが、こういうふうに「エライ人の気まぐれとか命令とかによって、自分の意に沿わない状況に追いやられてしまう」っていう。
努力してなんとかなるようなものではない、そういう状況にやられてしまうっていうのが結構あります。
その理由とか発端に、実は政治の状況があるんだよね、っていうことが、たぶん『枕草子』を読んで元々知っているっていう人が『もえぎ草子』を読んだときには「あっ、なるほど」って思い当たるんじゃないかなぁっていうふうに感じます。

私自身は、平安時代についてっていうのは『源氏物語』寄りの勉強をしてきてしまったんです。
それはもちろん悪いことじゃないんですけど。
うちの祖母がですね、たまたまなぜか『紫式部のマンガ伝記』っていうのを持っていたんですよ。
私はそのへんにある本は手当たり次第に読むみたいな子どもだったので、持ち出してきて読んだんですけど。
そのマンガ伝記に、当時才女と名高かった清少納言さんについて、紫式部さんが「でもあの人にはこういう鼻につくところがあるわよね」みたいなことをちょっと呟いちゃった、二人はライバル関係、みたいなことを書いていたんです。
で、私わりと、読んだものをスッと鵜呑みにしてしまう、あんまりよくない癖がありまして(笑
まぁ、こういう人物考察っていうのは他の本でも見ないこともないんですけど。
改めて思うと、あとの時代に出てきたのは紫式部さんのほうなので、彼女がちょっと妬みみたいな気持ちも発揮して一方的にライバル視してたのかもなぁ、っていう流れにも感じます。
それを私が素直にのんで、「じゃあこの二人は対立しているんだね」って受け取ってしまったっていうことだろうなぁ、と今はまぁ、冷静に思えます。

なので、自分は紫式部の一生をそのマンガ伝記で読んで知った。
そのあとも『源氏物語』もそれ自体は読破はできていないんです、全然読めてないんですけど。
『源氏物語』に関わるエピソードとかを好んで読んだり見たりしてきたので、その対立する相手の清少納言さんと『枕草子』っていうのは、こう……避けるでもないんですけど。
教科書で読む以上には触れてこなかったっていう。
それがちょっともったいなかったかなぁ、とは思いました。

『春はあけぼの』の暗唱とかくらいはできたりするんですけど。
もっと豊かに、変なこだわりを持たないで読んで知って、自分の中にある世界を広げていたら、この『もえぎ草子』も読んだときに「あっ」て思える部分とか、想像・世界がまた広がった、そういう読み方・楽しみ方ができたんじゃないか、っていうふうに。
それがもったいなかったなぁっていうふうにはちょっと思います。

まぁでも、逆に言うと、たぶんこういう児童読み物の本っていうのは、さっき言った通りで小学校の中・高学年くらいの子を読者のメインのターゲットとして据えているんじゃないかなーと思うんですけど。
その年代の子が『枕草子』についてどっぷりと知っておりますってことは多分そんなに多くないだろうと思います。
なので、逆にこの『もえぎ草子』の世界に触れて、平安時代と萌黄ちゃんの歩んでいく大変な道、最後にちゃんと報われますけども。
そこまでの彼女に感情移入しながらこの世界を旅して歩くことで、『枕草子』っていう有名なこの随筆、これを書いたツワモノなキャラクターの清少納言さんという方、平安時代の貴族、働いている人、庶民の皆さん、したたかな女性も出てきます。
こういう方々の生活を見たときに、この平安時代の世界っていうものに興味を持って、古典のほうに親しんでいくっていうことが起きるかもしれない。
また、古典に触れる機会があったときに、変なアレルギーとか身構えを持たずに入っていけるかもしれない。

読書はそういうふうに、双方向に開く知の世界の扉です。
そういう連鎖が広がっていくっていうのは読書の大きな楽しみのひとつだと思ってます。
そういうふうに、何かのきっかけになってくれたら素敵だよなぁ、と思って読んでました。はい。

では、第一回のご紹介をここで終わります。
まだ続きがあります。
物語の大事なキーアイテムにまだ触れてないので。
これからまた取り上げていきたいと思いますので、ぜひお楽しみに。

では。続くっ!

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