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働き始めて、いつのまにか変わっていくものもあるんだろう。

 3月の6日ごろを日本では啓蟄と呼ぶらしく、その頃に虫たちが土から飛び出して活動を始めだすことから、日本人が働くことを意気込み始めるときとも考えられているらしい。しかし実際の3月6日はまだまだ寒さが残っていて、虫たちもほとんど姿を見せない。日本人だって、その頃に「さあ、やるぞ」という気持ちになるかと言われれば、それも違う気がする。

 本日4月1日は、ぼくと同い年の新卒社会人たちが一斉に働き始めるころである。我が家の庭にも蟻の列ができていて、本格的に虫たちが動き出したことを実感する。その一方で相変わらず自宅という名の穴に潜っているぼくはそれを多少の羨望をもって見守るばかりであるが、そろそろぼくも啓蟄するべきなのだろう。ある意味で、ほんとうの啓蟄は今日のような気がする。

 こどものときはセミでもダンゴムシでも平気で触れたのに、いつからか虫を毛嫌いするようになった。どんなに獰猛とされる動物でも安全が担保されていれば撫でてみたいと思うことができるのに、虫たちにいたってはちっともそんな気にならない。一体なにがぼくをこうさせたのかもわからない。

 ときどき、虫とかを平気で触れて、自らの身体に彼らを這わせることになんの嫌悪感も抱かない人を羨ましく思う。たとえ相手が虫であろうと、この世に仲良くできるものが多いというのは、それだけで魅力的なことだ。そういう人は、きっと虫を好きでいる努力みたいなものを、知らず知らずのうちにやってきた人たちだ。なにかを好きでいたり、嫌いにならないためには、無意識にでもいいから、触れ合い続けることが重要である。

 4月の終盤あたりまでは、みんなの中にも変化みたいなことはあまり実感するような形で現れないかもしれない。しかしこれから変化した環境のなかで過ごす時間が長くなるにつれて、自分でも実感していなような変化を、みんなは経験していくんだろう。

 ぼくがいつのまにか、虫を毛嫌いするようになってしまったように、変化というのは何か劇的な体験があって起こるものでもなかったりする。しばらく見たり触れ合ったりしないだけで、なにかを遠ざけたり、嫌いになったりすることもあるだろうし、逆に「なんかいいかもな」と思うようになったりするかもしれない。

 これからどんどん多忙になって、目の前のことに精一杯になることが増えるかもしれないからこそ、自分にとって、ほんとうに大事なものとは触れ合い続けていこうという気持ちが必要だと思う。

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