コロナ禍で加速する外食産業「これからの飲食店の形とは!?」
新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、外食産業は未曽有の厳しい状況が続いている。新型コロナウイルスによって外食産業市場は今後どのように変わっていくのかを紐解いていくことにします。
外食に対する期待は普遍的
新型コロナウイルスの感染症拡大により、外食市場は大きく縮小し、飲食店はテイクアウト、デリバリー、通販に活路を求めざるを得ない状況ですが、こうした状況が未来もずっと続くかと言えば、そうではないと考えています。しかしながら、外食産業がコロナ以前のような状態に戻るかと言えば、戻らないと私は思っております。この未曾有の危機を経験することでこれまでとは違った形に再生・進化していくと考えられ、同時にそれは新たな進化発展の契機となるのではないか……、そう考えています。以下、順に述べていきます。
外食市場の規模(首都圏・関西圏・東海圏)は4月、5月と前年比で約4分の1に縮小しています。飲酒主体業態については、4月は前年比16.1%、5月は19.1%、6月は51.5%(外食市場調査2020年4,5,6月度・ホットペッパーグルメ外食総研調べ)と、徐々に数値は上昇しているものの、依然として厳しい状況が続いています。
こうした状況の中では、まずは出血を止める(売上が上がらない中でキャッシュが出ていくのを抑える)、そして輸血(=資金の導入)が求められます。それによって命=経営を存続させることがまずは最優先であることは言うまでもありません。
一方で、消費者のマインドに関する調査を見てみると、緊急事態宣言解除(5月25日)後の外食の再開意向について聞いた結果、「以前と変わらない頻度で行く」と「頻度を減らして行くつもり」と回答した人を合わせると54.0%と半分以上を占めました。「当分は外食を控える」という外食自粛派は34.1%と約3分の1。「安全が公になるまで控える」「もう外食に行かない」と強い外食否定派は3.8%にすぎません(緊急事態宣言解除後の外食実態調査・ホットペッパーグルメ外食総研調べ)。
また、「外食を当分控える」という自粛派の人々の「控える理由」は、最も多い理由が「感染するか不安」で男女ともに6割超え。次いで多いのが「自粛すべきと思うから」でそれぞれ男性44.9%、女性61.6%。
ここでわかるのは、消費者が外食を控えるのは漠然とした感染への不安や自粛すべきというムード、空気感といったものであることということです。「どんな外食の体験が恋しいと思うか?」の質問には、上位から「自炊では難しい料理を食べること」「食事相手との会話」「食べたいタイミングで注文」「プロが作った料理」と続き、消費者は外食の価値そのものを否定的に考えているわけではないことがわかります。
コロナ禍においても消費者の「外食」への期待が高いことがわかる
一部報道では、外食産業の多くがテイクアウトやデリバリーという手段に取って代わるという論調もありますが、私はそうは思いません。外食に対する期待は普遍的なものだと思っています。
コロナ後の飲食店「価値」とは何か?
消費者の外食に対する期待は普遍的であっても、テレワークが進んだことや、衛生意識の変化など消費者の考え方や行動には変化が生じました。当然、こうした変化に外食産業は影響を受けることになります。
テイクアウト、デリバリーは、自粛期間に飛躍的に利用する機会が急増したわけですが、オンラインを通じて注文されるこうした食事の在り方は、消費者の中で定着したと言っていいでしょう。通販(EC)も同様で、家庭で専門店の料理が味わえるセットや、作る体験を楽しむことができるミールキットなども一気に拡大しました。こうした外食・中食・内食という従来のカテゴリーを超えた競争は、「食のボーダレス化」と呼び、近年加速していた動きと言えますが、コロナ禍を通じてそれがより一層加速すると私は考えています。
飲食店がテイクアウトやデリバリーに本格的に取り組み、またゴーストレストラン(実店舗なしにオンラインデリバリーのみに特化)やシェアリングブランド(ネット上で他店舗ブランドのメニューをデリバリーで販売)、家庭で自ら調理するミールキットなどの新しい形態も登場してきています。これらによって、外食・中食・小売のボーダレスはますます加速、コロナ終息後も様々な取り組みが増え、垣根がなくなっていくと考えられます。
食のボーダレス化は、コロナ終息後も続く
こうしたボーダレス化が進む中、あらためて「外食の価値は何か?」ということが問われます。オンライン(ネットでテイクアウト、デリバリー、通販)でも、オフライン(飲食店)でも、同じメニューが同等のクオリティで提供されるなら、飲食店の優位性はそこにはありません。
「5つの価値」+「提供態」がこれからの飲食店の価値
これまで飲食店には5つの価値があるとお話ししてきました。
新たに「提供態」という概念が加わった
この従来の5つに加え「提供態」という新しい概念を加えるべきだと考えています。消費者が食べたいスタイルに合わせ、テイクアウト、デリバリー、通販、ミールキット、ゴーストレストランなどの様々な提供の仕方=「提供態」を変化させて提供できることが、これからの店の価値になるということです。
店の経営観点でみても、その店に合った提供態を持つことによって、来客だけでなく多くのお客様に食べていただけるのであれば、積極的に複数の提供態を持つべき。一方、来店だけで十分稼働できるお店はその必要はないかもしれません。つまり、お客様の食べたい食べ方に合わせて「提供態」を選択し組み合わせることが、これからの飲食店経営には重要になってくると思います。
これからの外食産業進化のテーマ
今回のコロナ禍は、未来を加速させるものだと考えています。これまでもお話ししてきた「これからの外食の価値とは何か?」を再考することが、市場の回復ではなく新たな進化、再興につながると思います。そのテーマについて、以下ご紹介します。
■「食のモビリティ(移動性)向上」「EC、D2C」
テイクアウト、デリバリー、通販の進化は、遠隔地でもクオリティの高い食を提供することを可能にします。これからの世の中は、人口減少、高齢化が進みますが、特に郊外・地方において世帯数が減少することから、飲食店や小売店の閉店・撤退が今後進む可能性が高いと考えます。
そうすると「車が無い」「健康上の理由で遠くへ足を運べない」などといった人々の食のクオリティが低下してしまう可能性があります。こうした消費者にクオリティの高い「食」を届けることは、社会課題に応える意味で大変意義のあることになります。EC、D2C(direct to Customer=卸や小売などのプレイヤーを経由せず、メーカーから直接商品を提供する)といった取り組みも同様に、「食のモビリティ」を高める取り組みだと言えるでしょう。
■「孤食化、個食化」
孤食(1人で食べる)、個食(グループや家族で各々が別の物を食べる)は、日本の世帯構成の変化に伴う部分が大きいと思います。現在、日本の世帯の種類別シェアでは、単独世帯(ひとり世帯)が全体の約35%ほどを占めます(出典:総務省「国勢調査」より)。「ホットペッパーグルメ外食総研 外食市場調査2019」によると、特に女性の「ひとりめし」は増加傾向が著しく、3年前との比較で約14ポイント増、「働く女性」という括りで見ると31ポイント増という驚くべき伸び率となっています。
こうした市場の状況を背景に、近年人気の「ひとり焼肉」やファミリーレストランの「お一人様席」など、ひとり需要に対応した業態や店舗づくりが増えているのです。また個食は、回転寿司で提供される寿司以外の多様なメニューや、ファミリーレストランのメニューなどにその傾向がはっきり見て取れます。
■「パーソナル化」
例えば、栄養管理のアプリ、フィットネスクラブなどが提供する運動や健康のデータなど、個人が各々のデータを管理・活用する時代になってきました。個人の好みやヘルスケアニーズに合わせたテーラーメイド的な商品を求めるニーズが高まっています。例えばシャンプーでは、髪質、肌質、髪型などに合わせカスタマイズする商品が登場しています。食の世界ではまだまだ例は少ないですが、個人の好みや健康ニーズに合わせたカスタマイズは時代が求める価値と言えそうです。
■「イミ消費」
イミ消費は、数年前より提唱している概念で、
・1970~80年代「モノ消費」…満ち足りていない中「モノ」を買い求める 例)〇〇ブーム、ブランド信仰など
・1990~2000年代「コト消費」…モノではなく「体験」を売る 例)イベント、オフ会、女子会など
・2010年以降「イミ消費」…社会貢献、他者支援、環境保全、健康、文化継承など
という推移で、消費者の価値観が変わってきていることを表しています。近年、世界的に推進されるSDGs(持続可能な開発目標)もイミ消費の中のひとつと言えると思います。新型コロナウイルスの感染症の拡大は世界的なものであり、地球サイズで消費活動の変化への関心が高まり、特にこうした問題に敏感な若い世代が消費の中心になるにつれ、このような傾向は進むことが予想されます。
コロナを機に地球サイズで消費活動の変化が起こると予想
■「ジャパンプライド」「本物・素材感」「極み・進化形」
これらはトレンド寄りの話になりますが、上で挙げたような特徴(=価値)を備えた商品が消費者の支持を得ているようです。
日本の各地域が持つ特徴的な食資源を生かしたメニューや、日本固有の食文化に根差しそれを現代流に解釈したスタイリッシュな店(伝統の和スタイルや、昭和レトロの居酒屋など)が登場、これらは日本文化の再興という意味で「ジャパンプライド」と名付けました。「本物・素材感」は高級食パンや厚焼き玉子サンドなど、際立った上質の原料を使用したり本格的な製法にこだわったもの。「極み・進化形」はさらに成分や素材の特徴を際立たせた商品と言えます。
こうしたテーマの商品は、汎用的な商品よりもかなり高い価格設定でも売れていることが特徴で、そうした「価値」に消費者が「対価」を支払う、という理解ができると思います。
「CX」と「DX」がこれからの外食産業進化のキーワード
前述の外食産業進化のテーマは、コロナ前からお話ししてきたものであり、これらが加速して進んでいくと思われます。本稿でこれまでお話ししたように、コロナ禍によってテイクアウト、デリバリー、ECなど、様々な「提供態」が消費者に定着しました。これからはこうした「価値」が、どのような顧客の体験として提供されるのかが重要になってきます。それが、CX=「Customer Experience(顧客の体験価値)」です。
消費者が求めるのは単に「商品(メニュー)」だけではなく、それを店で、自宅で、あるいは自ら調理して……、同じメニューでも提供の仕方=顧客の体験が多様化するのです。そしてその「体験価値」に対して「対価」を支払う、このことが重要になると考えます。
消費者は「体験価値」に対して「対価」を支払う
一方で、こうした価値を実現するために、どのようなテクノロジーを活用するのかという視点が重要になります。オンラインでの注文、顧客データの蓄積と分析、安定して短時間の調理を可能にする技術、素材や料理を劣化させない冷凍技術や包装技術、そしてバックヤードでITによる業務効率化。これが外食産業におけるDX「Digital transformation(デジタル技術により製造や管理工程を変革し、社会の変化につなげる)」です。
これまでの外食産業では、こうしたテクノロジー活用は、必要性や重要性は認識しつつも、既存のビジネスモデルで相応の収益が獲得できていた中で、変革の効果とコストが懸案となることから導入・活用が遅れていました。コロナ禍によって外食産業は大きな痛手とともに、これまでのやり方を変革する必要に迫られているのだと思います。
価値に応じた対価を獲得することも重要になる
CXとDXの関係性は、上の図で示すように、目的と手段の関係にあります。従来から議論されてきた「生産性向上」は、DX導入によってCXの価値向上、そして価値に応じた対価を獲得することによって実現することができます。これは未曽有の危機への対応が、新たな進化を生み出すという構造に見えるのです。
元には戻らず、「進化」する外食産業
未曾有の危機に際し、まずは止血(キャッシュ)、命(経営存続)が最優先であることは冒頭で述べた通りです。この苦難は、外食産業が20世紀の成功体験から脱却し、イノベーションを起こし、新たな進化と発展につながると信じています。
このコロナ禍での取り組みは、その現象がそのまま延伸して未来になるわけではなく、背景で進む「消費者の変化」や、「飲食店が苦難の中で獲得する知見」の中に、次代の進化があると考えるべきではないかと私は考えます。
未曽有の危機から生まれた智恵や勇気が、技術や産業の在り方、人々の意識を変え、それがその後の時代を作るイノベーションに繋がる……。こうしたことは歴史上何度も人類が体験・体現してきたことではないでしょうか? 外食産業と、外食産業を支援する人々の力を結集して、コロナ後の外食産業の進化発展を作り上げていくことが出来れば幸いです!!