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縮む「毎日新聞」 撤退、撤退、また撤退 「凌遅刑」に処せられた社員たち

1月23日、世間が「中居正広・フジテレビ」で持ち切りなのをいいことに、毎日新聞がコソッとネガティブな情報を出した。


毎日新聞社は23日、北海道の釧路市や北見市など道東・道北の93市町村での新聞配送を3月末で休止すると明らかにした。(中略)
日本ABC協会によると、同社の該当エリアでの朝刊販売部数(昨年10月時点)は約800~1100部。

(読売オンライン 2025/1/23)


実は毎日新聞は、前日の22日にも、同様の情報をコソッと出している。


毎日新聞社は22日、島根県西部の石見地方(益田市、浜田市など4市5町)での新聞配送を3月31日で休止すると明らかにした。
(日本経済新聞 2025/1/22)


いっぺんに出せばいいものを、こんなふうに情報を小出しにして、ダメージを減らそうとしている。毎日新聞は姑息だ。


だから、あんまり話題になってないが、この1、2年の毎日新聞の「縮み志向」は、とどまるところを知らない。


毎日新聞「縮小」の歩み

2023年4月7日 囲碁「本因坊戦」の賞金7割減額

2024年7月17日 富山県での配送を9月末で休止と発表

2025年1月7日 将棋「王将戦」主催から撤退

2025年1月22日 島根県西部石見地方の配送を3月末で休止と発表

2025年1月23日 北海道の道央・道東の配送を3月末で休止と発表


以下、それぞれのニュース記事。


本因坊戦タイトル序列が3位から5位に…賞金7割減の850万円、毎日新聞社「苦渋の決断」

毎日新聞社と日本棋院、関西棋院は7日、主催する囲碁棋戦「本因坊戦」の開催方式を、これから予選が始まる第79期から変更すると発表した。

優勝賞金は現在の2800万円から850万円に減額。タイトル保持者が挑戦者と戦う2日制七番勝負は、1日制五番勝負とする。

本因坊戦の実施方式の変更で、2日制七番勝負で挑戦手合が行われるのは棋聖戦(主催・読売新聞社)、名人戦(主催・朝日新聞社)のみとなる。囲碁界のタイトル序列は、本因坊が3位から5位となり、棋聖、名人、王座、天元、本因坊、碁聖、十段の順に変わる。
(読売新聞 2023/4/7)


毎日新聞社は17日、富山県での新聞の配送を9月末で休止すると発表した。全国47都道府県に配送網を保ってきた同社の休止は初めて。印刷と輸送コストが増大したことに加え、県内での発行部数の減少で配送体制の維持が困難になったためとしている。(中略)
富山では朝刊のみの発行で、2023年時点では推計約840部を販売していた。

(日本経済新聞 2024/7/17)


毎日新聞が将棋「王将戦」主催から撤退の衝撃…高校野球ファンは早くも“飛び火”を懸念

驚きの声を上げたのは将棋ファンにとどまらないのではないか。  

7日、日本将棋連盟が8タイトル戦のひとつである「王将戦」について、今月から始まる第75期から連盟の単独主催に変更すると発表したからだ。

「王将戦」は毎日新聞社主催で1950年に創設。翌51年にタイトル戦となり、77年度からはスポーツニッポン新聞社との共催になった。両社は75期から「特別協力」になるという。

(日刊ゲンダイ 2025/1/8)


選抜高校野球も、毎日新聞単独主催から、朝日新聞との共催に変わった。あれはいつのことだったか。

他にも「撤退」「縮小」の例はいろいろあるのだろうが、私も追い切れていない。



毎日新聞は、まるで自分の身体を、少しずつ、少しずつ、切り刻んでいる。

切られた部位が、もう戻ることはない。


なんか、そういう刑罰があったな。

そうだ、「凌遅刑」だ。


凌遅刑(りょうちけい)とは、清の時代までの中国や李氏朝鮮の時代までの朝鮮半島で処された処刑の方法のひとつ。人間の肉体を少しずつ切り落とし、長時間にわたり激しい苦痛を与えながら死に至らしめる処刑方法で、中国史上最も残酷な刑罰とも評されている。
(wiki「凌遅刑」)


この「刑罰」を受けているのは、第一に毎日新聞の社員だろう。

他社より安い給料で、将来に希望のない会社で、延々と働かされつづける責め苦。

いっそ、ひと思いに殺して!


という悲鳴が聞こえるようだ。



毎日新聞は、ご承知のとおり、1977年に一度、実質的に潰れている。

当時私は高校生で、たまたま家が毎日新聞をとっていた。

再建中の毎日新聞をルポする、「同時進行ドキュメント毎日新聞」という連載が、毎日新聞自体に載っていて面白かった。記者は内藤国夫だ。


ある回では、新聞記者に憧れ、高給の会社から転職してきた37歳の警察担当「吉田」と、妻の「康子」の姿が描かれていた。


 給料日に吉田は社に上がったことがない。面倒だからだ。給料を康子は十日遅れで渡されたりする。これだけ家にいない生活だから外食費もかかる。吉田が妻から取る小遣いは月六、七万円。残り十三万余円が康子の使える生活費。少なさを妻はこぼすが、吉田はグチらない。「食えているではないか」と。転職していなければ何倍の年収も、などとは話題にもしたがらない。勤務表さえ社に提出しない。面倒だし、働いた時間分払われないことを知っているからだ。
 吉田をこれだけかり立てているのは、ただ、仕事への誇りである。

(1978年10月16日から毎日新聞夕刊に連載。内藤国夫『愛すればこそ 新聞記者をやめた日』文藝春秋、1981、p104での引用より)


内藤は記事の中で、吉田を「再建の先兵」と呼んでいる。

内藤は、新聞業界全体が「甘えの構造」でゆるんでいると感じていたが、経営危機は、かえって毎日新聞の飛躍の機会になるかもしれない、と期待する。


私は、こうした(新聞業界の)悪弊を一掃する、願ってもないチャンスが、毎日新聞の経営危機であると考え、かつ期待した。販売部数でも、経営内容でも、朝日や読売に大きく遅れをとっている毎日新聞ではあるけれども、全産業のなかで比べてみると、新聞産業全体が周遅れとなっているのであり、個々の新聞社間の違いは大したことではない。経営危機を奇貨として改めるべきを改めれば、逆に毎日新聞が新聞革命、情報革命のリーダーシップをとれるはず。
(『愛すればこそ』 p239)


こうした期待が、内藤に「同時ドキュメント毎日新聞」を書かせた動機でもあった。

しかし、その内藤の期待は、急速にしぼむことになる。


経営危機を乗り切るにあたって、毎日新聞がしたことといえば、繰り上げ定年による人員削減と、ベースアップやボーナスを大幅に抑えて、人件費を切りつめ、あとは旧社と新社の切り離しによって金利負担を軽減したことぐらいである。人事が刷新されて、編集主幹や編集局長に、なるべき人がなり、社内の風通しが良くなって、紙面改革が試みられたのも、二年とは続かなかった。あとはまた元の木阿弥。社業に貢献した人が登用されるのではなく、上役の某々個人に貢献したゴマスリ人間が跳梁跋扈し、紙面はとたんにマンネリ化した。
(同 p240)


結果、毎日新聞は、

「墜落寸前の超低空モタモタ飛行を半永久的に余儀なくされている」

と内藤は書いている。内藤自身も、1980年に毎日新聞を辞めた。


45年前の内藤の言は、当たっていたと言えるだろう。

「墜落寸前の超低空モタモタ飛行」の末、毎日新聞はついに墜落しそうだ。

この間、毎日新聞がよかったことは一度もない。

しかし、この間の経営者たちが責任をとることはないだろう。

「潰れないだけ有難いと思え」という態度で開き直っているのだろう。


安月給に耐えて「再建の先兵」になった社員たちは、結局、報われなかった。

「凌遅刑」は、もう40年以上前に始まっていた。

1977年に、毎日新聞は潰れていたほうが、よかったのである。



フジテレビの件を見ていても、日本のマスコミの最大の問題は、「潰れないこと」だと思わざるを得ない。

「どうせ潰れない」という甘えから、経営のモラルが落ちるところまで落ちた。自己革新がなく、自浄作用もなく、ただ社会の既得権益と化し、ゾンビとなって腐臭を放っている。


内藤国夫は、新聞業界の「甘えの構造」として以下の5点を指摘した。45年前の問題点は今も改善されず、これは基本的にテレビにも当てはまるだろう。


1 言葉の壁に守られ、国際競争の試練にさらされず、国内でお山の大将を気取っている

2 宅配制度、月極め購読にあぐらをかき、読者が紙面を比較しないのをいいことに、紙面革新がなおざりにされた

3 新聞社が新聞社内や新聞社相互のことを書かない、という独善的慣行によって、「どれだけあこぎなことをしても書かれない」という慢心を生んだ

4 株式の非上場、非公開によって、株主の監視がなく、経営責任を問われることが滅多にない

5 税制面での過保護的優遇措置に象徴される公権力との癒着。「読売、朝日、毎日三社のいずれもが立派な社屋を、特権でもって払い下げられた国有地、公有地のうえに建てている。まさに、やらず、ぶったくり、おんぶにだっこ、そのもの」

(同書p230〜231の要約)


これから毎日新聞にできる、社会への唯一の貢献は、「立派に死ぬこと」だと私は思う。

約50年前に死に損なったのを悔い、これ以上、生き恥をさらしつづけることを拒否して、潰れるべきだと思う。


それによって、マスコミ企業も潰れるのだ、という前例と教訓を社会に提供できる。

マスコミ業界「甘えの構造」の土台を揺るがし、モラル回復に一役買える。

そして、社員たちを「凌遅刑」から解放し、やっと成仏させてあげられる。



*ヘッダー画像は、持田誠氏のX投稿から


我が家もM紙の愛読者でしたが、今年からY紙に変えました。本当に、読む所、薄いんだもの。まあ、その次は、A紙の先付けカードが、2年後から入っているのですが。


<参考note記事>

「毎日新聞が産経や東京新聞よりページ数が少ないことがあるんです」とは、全国紙のデスク。
どういうことか。
「東京発行の朝刊で、毎日のページ数が20ページ、22ページなんていうことがあるんです。だいたい新聞は、1枚の紙に表裏4ページが印刷され、朝刊だと20,24…32…など4の倍数のページ数が普通です。かつては広告もたくさん入り40ページを超すこともあったのが、どんどんページが減っていて、今年に入って産経や東京新聞が24ページの時に、毎日が22ページ、20ページなんていう時があるんです」(先のデスク)

(町谷東光 「2025年新聞界は…」2025/1/24)


旧メディアは、その権威を削ってくるコミュニティノートに、激しい憎悪を持っています。実際、毎日新聞ニュースのXアカウントとか、48万人以上のフォロワーなのに、数千インプレッションが状態化して、アクティブなフォロワーは0.1%程度と推測されます。

(喜多野土竜「旧メディアの凋落:毎日・フジ・沖タイ」2025/1/19)


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