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柿生-長沼 68歳の柳田国男が歩いた「2里超」の道を俺も歩いてみた<東京都稲城市の旅>

昨日も天気がよかった。

朝起きて、

「さあ、今日もヤオコーで、前日の売れ残りの見切り品でもあさろうか」

と思い、柿生から新百合ヶ丘に向かう途中、吉野家で朝牛定食を食っているうちに、

「そうだ、天気がいいから、例の柳田国男のルートを歩いてみよう」

と思い立った。

以前、民俗学者・柳田国男の「長い散歩」について、noteに書いた。


68歳、柳田国男の武蔵野ウォーキング(2023/10/21)


柳田国男は戦中、空襲が激しくなるまで、毎週水曜日に、武蔵野をウォーキングしていた。

昭和19年、柳田68歳のときの日記に、こうある。


(昭和十九年)二月十六日 水よう 好日 午後曇

九時の江の島行にて柿生まで、多摩郡の一方の端、平尾の杉山社に詣で、坂濱に出て長沼よりかへる。ここにても新たに合祀せられたる天神社を拝す。寒紅梅小一株、片平にてよく花咲くを見る。土鳩多く又画眉鳥も飛びかわす、何の鳥かよく囀るをきく。長沼にて電車を待つこと一時間、けふの行程二里を超ゆるか。

(定本柳田国男集 別巻4 p23 筑摩書房1971)


成城学園前にあった自宅から、小田急線に乗って柿生に来て、稲城市平尾の杉山神社に詣でて、同じ稲城市の坂浜に出て、南武線の長沼(稲城長沼)から帰っている。

ざっと80年前の話だ。当時は小田急線に、百合ヶ丘駅も新百合ヶ丘駅もない。小田急多摩線もないし、今の京王相模原線もなかった(調布-京王多摩川間のみ)。

つまり、柿生から、南武線の長沼までの間に、鉄道路線は一切なかった。柿生から長沼までは、歩くしかなかった。

(今なら、杉山神社の最寄駅は、小田急多摩線の栗平になる)


柳田は「散歩」と言っていたが、高低差がある道を、ゆうに4駅分は歩いている。

この道程を、私も歩いてみたいと思っていたのだ。

昭和のジジイが歩けた道、牛丼食って元気モリモリの令和のジジイが歩けないわけがない。

ルートはいくつか考えられるが、以下のルートで行くことにした。


google map使用


柳田は「けふの行程二里(約7.8キロ)を超ゆるか」と書いているが、上のルート、google mapの計算では8.7キロである。


2025年1月9日朝9時13分 片平の吉野家を出発。


私がトランプなら稲城市は川崎


このルートを選んだ理由の一つは、稲城市の平尾をとおりたかったからだ。

町田市が東京都であるのはおかしい、神奈川県であるべきだ、と人はよく言うが、私に言わせれば、稲城市もそうである。

トランプ大統領は、カナダとメキシコもアメリカだ、みたいなことを言っているが、私がトランプで、川崎を支配していたら、町田も稲城も、川崎市麻生区だ、と主張する。


ZenTechより


とくに麻生区に隣接する、稲城市の平尾地区は、ほぼ新百合ヶ丘の圏内であり、それは両地区の住民が認めていることだと思う。

平尾の人は新百合ヶ丘に買い物に来るし、新百合ヶ丘の人も平尾の店に行く。

その平尾をじっくり歩いてみたい、と前から思っていたのだ。


9時20分、麻生警察署前。ここから平尾方面(平尾中央通り)に進む。


9時26分、東京都稲城市に入る。東京と神奈川の境。


稲城市平尾の気になるお店


平尾を歩きながら、気になる店を撮っていった。

9時32分、24時間営業の餃子販売所。一度食べてみたい。


9時33分、廃ガソリンスタンドを利用したと思われる、ラーメン店とステーキ店。ここのハンバーグは一度食べたことがあり、美味しかったです。


9時34分、タバコセンターヤマモト。私はタバコはやめたが、一時、葉巻を試したことがあった。近隣で葉巻を各種取り揃えているのはここだけだったので、来たことがある。店主が葉巻について親切に教えてくれた。葉巻はいいのだが、高いので、もう吸ってない。


私は、このタバコセンターまでは来たことがあるのだが、これより先は、未踏の地だ。


9時36分、ラーメン店「つちふたつ」。2023年にオープンして、芸人のタイムマシーン3号がYouTubeのチャンネルでルポしていたのを見た。話題の店。


で、この先の消防団の火の見櫓くらいまでが緩やかな上り坂で、そこから下り坂になる。

下り坂になって、10分も歩かないうちに、第一目標の「杉山神社」に着いた。


9時45分、杉山神社の看板。


ところが、この神社の「入口」看板から、どっちに進むかわからず、右に行ったので遠回りになってしまった。看板を左に行くと、すぐ鳥居がある。右か左か、ちゃんと看板に書いておけ、と思う。


9時53分、杉山神社の大鳥居。


9時54分、神社境内。ついでに初詣を済ます。


麻生警察署から杉山神社まで15分くらい。楽勝であった。

戦中の柳田国男は、戦死した日本人の魂がどこに行くのか、思いを馳せながら杉山神社に詣でたのだろう。

杉山神社は、大正14年に再建された。柳田が訪れた時は、まだ神殿も新しかったはずだ。


マンションが林立する若葉台周辺


で、次に柳田が行った、稲城市の「坂浜」を目指す。

杉山神社を過ぎたあたりから、再び上り坂になる。

10時3分、目立つラーメン店の横をとおる。


すると、前方にトンネルが見えてきた。上平尾トンネルと言うらしい。

トンネルの手前に、ファミレスのジョイフルがあった。朝8時から開いている。覗くと、けっこうお客さんがいた。


10時8分、トンネルを抜けると、そこにユニクロがあった。


「ソコラ若葉台」というショッピングセンター。この辺は、京王相模原線「若葉台」駅の生活圏だ。

セリア、サイゼリアからカーブスまで、ひと通り揃ってる感じのモールだ。


そこから下り坂になり、京王相模原線のガードをくぐると、若葉台の巨大マンション群が見えてくる。

10時17分、まだまだマンションを建てまくってる若葉台を望む。


頻尿老人、「坂浜」で遭難しかかる


このあたりで、スマホのバッテリーが心細くなってきた。

朝、家を出るときは、遠出をするつもりはなかったので、バッテリーを十分補充してなかったのだ。

この辺は、まったく土地勘がないので、スマホのマップの導きだけが頼りだ。


スマホに頼って歩いていくと、10時35分、第二目標の「坂浜」に着いた。


坂浜というのは、とくに何もないところだ。いい感じに寂れている。


でも、柳田がわざわざ記してるということは、戦前は、このあたりが目立つ集落だったのだろう。

京王相模原線や小田急多摩線が開通したあと、どちらの駅からも遠いので、取り残された地域なのかもしれない。

ちなみに、このあたり、やたら長島昭久のポスターが貼ってある。彼がこの辺の殿様のようだ。


杉山神社から坂浜までは、けっこう遠いと感じた。約30分かかっている。

少し足が疲れてきた。

と、同時に、尿意をもよおしてきた。

自分が頻尿老人であることを忘れていた。

さっき杉山神社の近くにコンビニあった。あそこでしておけばよかった、と後悔する。


しかし、ここで挫けるわけにはいかない。

柳田国男に負けるわけにはいかない、の一念で、再び歩き出す。

バッテリーが心細くなったスマホに頼って、最後の目標「長沼」を目指した。


でも、この「坂浜-長沼」間は、つらかった。

こう言っちゃなんだが、すごい田舎である。

田畑と、中小の工務店の事務所しかない。

コンビニなんか一軒もない。

気持ちに余裕があれば、緑豊かでいい所だと言うが、こっちは尿意を抱えて疲れている。

工務店が多いからか、ワークマンがあった。

10時44分、ワークマンの前をとおる。

でも、コンビニはない。

柳田国男だって、老人だから、小便が近かったはずだ。

当時は、そのあたりの路傍で済ましても問題なかったかもしれないが、今はそういうわけにいかないのだ。

その点が、柳田の時代より不利な条件だ。

時代が悪い。俺は悪くない。

と思いつつ、ひたすら退屈な道を進むしかなかった。

途中、しゃがみ込みたくなるのを、耐えた。


11時0分、長沼に近づき、セブンイレブンの看板を見たときは、地獄に仏を見た心境だった。

稲城中央橋前店

セブンイレブンでトイレを済ましてスッキリ。

トイレ代の代わりに、ホットコーヒーを買って飲む。

ここで10分ほど休憩し、再び元気が盛り返した。


稲城長沼に到着


ただ、そこから南武線の稲城長沼に行くまでの道も、何やらわかりにくかった。

しかも、やたらあちこち工事している。

このあたりで東京都が「多摩都市計画道路事業」を展開中らしく、数カ所で「お知らせ」の掲示板を見た。


工事の方はいろいろご苦労さんです。

ということで、11時40分、最終目標の「長沼」に到着。


長沼駅に来ると、いかにも南武線だなあ、という気持ちになる。

気圧の変化を感じ、土地が低いことを感じる。

ふだんは柿生なんていう山の中で暮らしているから、標高が低い土地に来ると、違和感を感じるのだ。

駅前に、いい感じの立ち食いそば屋があった。


柿生からだいたい2時間半。

柳田国男も、そのくらいで歩いたのではないだろうか。

スマホの万歩計を見ると、ここまで1万5000歩くらい。

体感的には、もっと歩いた感じがした。

でも、柿生からここまで歩けるということは、府中の競馬場までも歩けるということだ。

今度は競馬場まで行ってみようと思った。一度行きたいと思っているのだ。


初めて来たので、駅の周辺をウロウロ。

近くに、ひときわ目立つキリスト教会があった。


柳田国男の日記には、「ここ(長沼)にても新たに合祀せられたる天神社を拝す」とあったから、そこに行けばよかったのだが、忘れていた。

せっかくだから、多摩川の河原に出てみようと思った。

長沼駅から河原までも、けっこう入り組んだ道だ。

12時03分、やっと多摩川を渡る稲城大橋に着き、その上から、多摩川を見渡す。


と、ここで冷気を浴びているうちに、再び尿意が私を襲った。

頻尿老人のくせに、さっきセブンイレブンでコーヒーを飲んだ。その迂闊さを悔いた。

長沼駅まで戻っていたら、間に合わないかもしれない・・

そこでスマホで近くのトイレを探したが、スマホのバッテリーがもう切れかかっている。

それでも、近くの河原沿いの公園に、トイレがあることがわかり、そこを目指す。


12時13分、稲城北緑地公園のトイレ着。


トイレを済ませ、スッキリして多摩川を見渡すと、ひときわ美しい光景に感じる。最近、雨が少ないから、水量がだいぶ減っている感じだが。


それにしても、トイレを借りたこの稲城北緑地公園は、広くてきれいで設備も整って、とてもいい公園だった。

私がトランプなら、この公園も麻生区民のものにしただろう。


しばらく公園でのんびりして、長沼駅に戻った。

万歩計を見ると、ちょうど2万歩ほどになっていた。

スマホのバッテリーは残り2%だった。


<参考>


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