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「大学の左翼」と「エリートメディア」の敗北

トランプと共和党の勝利については、共和党が勝ったというより、民主党が嫌われた結果なのは、さまざまな数字から明らかですね。

民主党のバーニー・サンダースが総括したように、

「労働者のことを忘れた左翼は、負けて当然」

というわけで。


それについては、リチャード・ローティの「大学の左翼」「文化左翼」批判などが引用され、日本でもさまざまに解説されていました。

ローティの議論ふくめ、いわゆるポリコレ左翼が人々に嫌われていたのは、以前からの話で、それについては私もnoteでたくさん書いてきたから、ここでは繰り返しません。


念のために言っておけば、選挙で勝ったからといって、トランプが「正しい」と証明されたわけではない。もちろん。

民主主義で重要なのは、常に正しい選択がなされるかどうかより、その選択の責任が常に国民に共有される、ということですからね。

トランプがこれからおこなう、成功も、失敗も、アメリカ国民が全体として責任を持ってもらわねばならない。その緊張感こそが、民主主義の取り柄ですから。


私は、トランプの移民政策には懐疑的です。アメリカは移民の国のくせに、トランプが「自国ファースト」で移民を締め出し始めたら、その影響はすぐこっちに跳ね返ってくる、ということもある。

それに、日本人はなぜか、移民の立場に立たず、自分たちは「移民される側」と決めてかかってるけど、かつては日本人もアメリカに移民して、さんざん差別されたわけですから。

日本では移民問題について、もっとバランスの取れた議論を始めるべきですが、日本の政治家は、いずれにせよトランプのような明確な主張はせず、議論を避け続けているのは困ったことです。


トランプ支持者は「低学歴」


それはともかく、私が問題にしたいのは、やっぱりメディアのことです。

トランプは、この点でも明確で、「メディアは敵だ」と主張してきた。

彼が約2年前、ノースキャロライナ州での大統領選立ち上げの演説でも、「自分はメディアと闘う!」と宣言して、大喝采を浴びていたことは、noteの記事(2023年1月30日付)に書いた。

トランプが権力に返り咲き、アメリカのメディアは変わるのか、あるいは、より「かたくな」になるのか、も注目です。


選挙が終わって話題になったのは、トランプに投票したのは「低学歴」が多い、という報道でした。


大学の学位がある人のうち57%がハリス氏、学位のない人は54%がトランプ氏を支持した。性別や学歴で投票先が分かれる傾向が浮き彫りになった。
(東京新聞 2024/11/6)


それについて、

普段は差別反対と言ってるメディアが、こういう報道をしている。差別だ。


という声がありましたが、


いや、この報道を差別だと思うことが、差別だ。


という声もあった。後者が正しいですね。


世の中には、学歴のある人もない人もいる。学歴のない人からより支持されたからといって不名誉なわけはない。

事実は事実です。

そして、その事実から、「高学歴の人の方が正しい」という結論はみちびけない。


しかし、ポリコレ左翼が暗黙の前提としているのが、この「高学歴の人の方が正しい」というテーゼです。

だから、エリート主義で、嫌われる。

今のメディアの人間は、ほぼ全員が高学歴だから、しぜんに「高学歴の意見が正しい」と思い込んでいる。

だから、レガシー・メディアは、エリート・メディアとも言われる。

でも、エリートが正しいということにはなりません。


インテリは間違えるーーマルクス主義の教訓


日本は、このことを、アメリカよりも知っているはずだと思うんです。

日本は、アメリカよりも、戦後、マルクス主義の思想的影響を強く受けた。

高学歴者、大学は、ほぼすべてマルクス主義に染まりました。

頭のいい人は、みんな左翼になった。というか、頭がよければ、左翼にならないとおかしい、マルクス主義者にならないとおかしい、くらいに思われた。


日本でマルクス主義が最初に流行したのは、明治の終わりから昭和の初めですね。

そのころも、日本のインテリはマルクスに染まった。(アナーキズムも同様に流行ったけど)

ちょうどロシア革命が成功した時期でもある。


大正時代、インテリの世界で一世を風靡したのが「福本イズム」です。

福本和夫は、フランクフルトで、ルカーチから最先端の共産主義理論を学びました。

彼の難解な弁証法的唯物論を理解できるのが、インテリの資格だ、くらいに流行った。

それで、福本の本が理解できないのは「オレの頭が悪いからだ」と悲観して自殺した人がいた、という話がありますね。


戦後も、同じように、難解なマルクス理論を学習するのが流行った。

それは全世界的流行で、頭のいい人はみんなマルクスを褒めた。サルトルのようなのまで。

日本は特に、マルクス訓詁学みたいなのが得意で、マルクス理論の重箱の隅をつつくような議論をさせたら、ソ連や中国より上だ、くらいに言われた。


つい最近まで、東大経済学部をふくめて、大学はマルクス主義者に支配されていました。

そんな大学で赤く染まり、かつ、学生運動をやってまともな企業に入れなかったような「選りすぐり」が、マスコミに入ってきました。

(あるいは、左翼教授のお墨付き、推薦状が効いて、マスコミに入るらしい。岩波とかはそうだとむかし聞いた)

だから、「大学の左翼」の思想を、「岩波・朝日」に代表されるマスコミが人々に布教することになりました。


それでも、日本が共産化しなかったのは、岸信介とか、河野一郎とかが、ヤクザとか、統一教会のようなのとまで手を結んで、日本の共産主義勢力、大学やメディアと戦ってくれたおかげです。

それなのに、いまだに左翼は、

あいつらは、統一教会とかと付き合っていた!

と騒いで、それで人々が納得すると思っているのですから。


冷戦が終わり、大学からはマルクス主義講座はひっそりと姿を消しました。

しかし、公式に、「自分たちは間違っていた」と謝罪、反省したことはない。

それどころか、ほとぼりが冷めたと見ると、またアベガー、壺ガーの大騒ぎです。

批判されると「われわれの悪口を言うのは反知性主義だ」、とか勝手なことを言う。


ちなみに、私は子供の頃、新聞とかで「頭がいい」ふうに紹介される、本を書いて出すようなえらい人に会いたいと思って、東京に出て、編集者になりました。

「知の巨人」みたいに言われる人には、たいがいみな会いました。

ここだけの話、みんな、たいしたことなかったよ!


「神学論争」のゆくえ


ともかく、言いたいのは、


高学歴者は、正しくなかったんじゃないですか? 

インテリは、大きく間違ってたんじゃないですか?


ということ。

マルクス主義の敗北が明らかになっても、そういう素朴な疑問をあえて大きな声であげる者がいなかった。

とくに、左翼学者にだまされて、一生を台無しにされた元学生たちが、声をあげて然るべきでした。


インテリは間違えるんですよ。

「神学論争」という言葉があるけど、中世の西洋が教会で元祖神学論争をやっていたころ、日本はお寺で「密教論争」をやっていた。

それは、当時のインテリたちによる、当時としては最高度に緻密な議論だったはずです。

でも、神学論争は、いくら緻密でも、時がたてば無意味だったとわかる。

中世の神学論争がそうであったように、20世紀のマルクス論争がそうであったように、今のフーコーだのガタリだのの「大学の左翼」の思想も、いずれ無意味な「神学論争」だったとわかるでしょう。

寺の偉い坊さんが読むお経は、ありがたいに違いない、と思っている庶民だって、やがて真実に気づき、ただの「経文読み」にお布施することはなくなります。


なるほど、偏差値の高い大学に入り、難解な理論を理解できるような頭のいい人たちは、ある設問の答えに、いちはやくたどり着ける能力があるかもしれない。

しかし、それだけのことであって、それが正しい答えである保証はない。問いが間違っていて、「理路整然と間違っている」かもしれない。マスクス主義だってそうだったんですから。最高に頭のいい人が、内側から見て、完璧な理論に見えていた。


今度の大統領選だって、そうでしょう。

ハリス優勢だ。

ハリスが勝つ。

いずれにせよ世紀の大接戦になる。

結果が出るのは来年になるかもしれない。

そんな予想は、すべて外れました。

「理路整然と間違えていた」のです。


それにしても、私はテレビを見ないけど、テレビの特番には、いまだに池上彰とか、町山智浩とか、パックンとか出てたそうじゃないですか。

まだ、そういう人たちを使ってるんだ、と、改めて呆れました。

それで「理路整然と間違えてた」わけでしょう。


意固地になるメディア


トランプは、既成メディアが自分たちに敵対的で使えないから、今回の選挙でポッドキャスターの協力をあおいだ、と言ってましたね。

それで成功したわけですから、トランプの当選は、SNSをより活気づかせるかもしれない。


これも以前に書きましたが、YouTubeが面白いのは、学歴差別しないからですね。

人気YouTuberの多くは、ヒカキンはじめ、高卒です。

だから、有名大卒しかいない既成メディアより、意見が多様で面白い。だから、人気なんです。


なるほど、SNSは、多様な分、既成メディアのいう「フェイク」も増えるかもしれない。

しかし、既成メディアは「理路整然と間違える」、つまり全員が間違っている可能性がある。

どっちが危険か、ということです。


もっとも、YouTubeを運営しているGoogleは、民主党支持の最大手で、最近、言論弾圧がすごいらしい。

ここはイーロン・マスクのXに期待するしかない。


ついでに言えば、陰謀論は、かつてのマルクス主義の代替物だ、という話がありますね。

陰謀論を信じるなんて、知的にアレだ、と言う人がいるけど、じゃあマルクス主義を信じる共産党は、知的に信用できるんですか、といつも思う。同じようなもんじゃないか、と。


話がとりとめなくなってしまいましたが、こんな話を始めようと思ったきっかけは、昨晩、朝日新聞の広告をGoogleで見たからなんです。


左翼は都知事選で惨敗し、総選挙では国民民主にお株を奪われ、アメリカではトランプが勝ったのに、それにもかかわらず、十年一日のごとく、朝日は朝日だなあ、と。

「新聞協会賞」なんて、業界団体の内輪の賞の威光が、ネットの世界でも通用すると思っている無知と厚顔。

あいかわらず「アベガー」「裏金ガー」の紙面を誇らしげに出してくる鈍感さ。

ある意味、感心するけど、残念だなあ、と思う。


もう、そっち方面の人しか相手にしない、ということですかね。

そんなのは、党派の機関紙ですから、軽減税率にする必要はありませんね。


トランプが勝って、「メディアは変わるのか、あるいは、より『かたくな』になるのか」と最初に書いたけど、少なくとも日本のメディアは「かたくな」になる方を選ぶようです。

既成メディアはますます滅び、ネットの影響力がますます増すでしょう。

それは、決して「自然に」そうなっているわけではない。

「高学歴」ゆえの認知のゆがみと、「高学歴」ゆえのプライドが、変わることをかたくなに拒んでいるからです。

マスコミOBとしては、残念だなあ、と思う。ただそれだけ。


<参考>


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