こういう時の父。
財布には何処か公衆便所に置いてあったとしか思えない程汚い1円玉が6枚。のみ。辛くなり自分の部屋を覗いた。ずっと放置されていたそのゴミ達は僕に向かって「どうにか手助けしますよ!」と励ましてくれている様に感じた。直ぐに部屋の中にあったゴミを掻き出す。何か売れる物を探す為に。汚い。必ず手袋、マスク(2重)、花粉対策用メガネを着用して行わないといけない事を察する。そして1時間程掛けてベッドや勉強机などの物理的に1人では動かさない物以外を部屋から出す事に成功した。この時期に搔く汗は何故か心に来るものがある。何故か。そして直ぐ休憩。作業中YouTube MUSICでaikoのシャフル再生を流していたが、一度も歌詞を上手く聞き取れなかった。だが歌詞を聞き取れなくても、aikoの曲はaikoにしか作れないメロディラインを感じさせてくれたので、歌詞も聴こえてくる感覚があった。(何回も言うが、歌詞は一度も聞き取れていない。)「次は絶対に失敗しないぞ!」と電子レンジで温泉卵を作る。成功。嬉しい。冷凍カレーピラフの上に乗せ、齧り付いた。久しぶりの労働後の飯。こういう時だけご飯の事を飯と言いたくなる。そして午後に入り、作業再開。母から「なんで勝手にこんなにも物を散乱さしてるの!」と叱責を喰らったが、僕の耳には学校のプールの時間の時に少し深く潜り水上の音がぼんやりする感覚で母の音を鼓膜に入れたので(aikoの曲を聴いていたから)感情は何も動かず作業に集中する事が出来た。aikoは本当に僕の人生を豊かにしてくれる。そして午後になると親が信仰している宗教の儀式の時間になり、慢性的な憂鬱さを取り戻した。その時家の直ぐ横にある私有地道路に、宅配の人の車のタイヤが溝に嵌まって抜けなくなっているのを、両親と僕の3人で目撃した。最初はずっとその道路にいる車を家族皆不審に思っていて、父が「ちょっと言ってくるわ。」と少し感情を昂らせながら、その道路が見える窓を開けて「ずっとそこで何してるんですか!」と大きな声で宅配の人に尋ねた。こういう時の父の声は予想を遥かに超える大きさなのでいつも心配しながら見ている。そしたら「タイヤが溝に嵌まってる!」とまた予想を遥かに超える声で僕と母に伝え来た。この時は「まあ、その状況を突然見たらそうなるか。」と初めて父の声の大きさに納得した。そして直ぐに応援に向かった。少し雨が降っていたのと、日も落ちてきていたのであまり行きたくなったが、うちの教会の教えの中に「困っている人がいたら、絶対助けよう。」みたいなのがあるので、こういう時の父の行動はチャップマンぐらい速い。そして直ぐに外に出た。薄暗く雨脚が強くなる中、父のマイ懐中電灯を照らした。父は何故か家の中の電気をつける事を強く嫌うので、電気を付けずに暗い空間を作る為に懐中電灯を常備している。その懐中電灯で現場に向かった。その道中。隣の工場に勤めている如何にも元ヤンみたいな人達が仕事を終えて車で帰ろうとしていた。この工場の人達は僕が夜更かしして午後2.3時に起きていても、大雨の日でも、毎日頑張って働いている。時には工場の作業中の音が五月蝿過ぎて苛立ちを覚える時もあるが、その仕事に向かう姿勢や上司からの確定パワハラ行動(殴る、蹴る)に耐えてる姿を見ていると「自分も頑張らないと」と思わせてくれる存在でもある。その工場の責任者は毎年夏になると僕ら家族の家に大量の花火を渡してくれる。昔はその花火で友達とか兄弟とかと一緒に花火をしていた。悲しい。父はその人達を見つけると直ぐに「すみませんーーーーー!!助けてくれませんか!!」と距離僅か3mぐらいなのに、先程の大声よりも大きな声で呼びかけた。皆優しいので直ぐに10人程が現場に付いて来てくれた。直ぐに車を皆んなで押して、溝からタイヤを抜け出す事に成功した。(勝手に宅配の人が工場の材料を安定感を増やす為にタイヤの下に置いていて、ちょっとピリつく時間があったが)僕は雨脚が更に強くなっていたので、急いで工場の人にお礼を言いながら家に入った。だが父はまだ宅配の人と話をしていた。僕は父が大声を出した窓からその光景を見ていた。その時父は宅配の人に「今日は金曜日という事もあり、この後も宅配はあると思いますが、何卒ご自愛下さい。」と何度も言っていた。
こういう時の父には憧れる。
僕は一生なれないから。
皆んなよりも早く痛みを感じた人は
皆んなよりも早く痛みに気付き、
皆んなよりも多く痛みを無くす事が出来る。
父の目は輝いていた。
多分人生で同じ様な体験を多くしてきたのだろう。
その時の気持ちも覚えていたのだろう。
僕が宗教の活動の一環として
地元の海岸清掃とか
地元の老人ホームの手伝いとか
地元の知的障害者施設のボランティアとか
してきた時に見た父の目と同じだった。
僕は神は信じないが、
こういう時の父は好きだし、
ボランティア活動を行っている所も好きだ。
何事も距離感が大事。