冬晴れのとんぼ返り
「認知症患者さんとの接し方は難しいですよ。」
そう話してくれたのは、父がショートステイしている特別養護老人ホームの施設長。
とても穏やかで、でも芯の通った凛とした女性でした。
その顔には数え切れないほどたくさんの方と向き合ってきた体験が刻み込まれているようでした。
***
昨夜、泣きながら「帰りたい。」と訴える父の電話に、いても立ってもいられず、今日はお休みを取って会いに行きました。
連れて帰っても仕方がないのは重々わかっている。
じゃどうすればいいのか、いい案も覚悟もないまま車を走らせます。
いつも頼りにしているケアマネさんはお休みとのこと。
その代わりに、相談相手としてご紹介いただいたのが施設長さんでした。
彼女は私の気持ちを否定せずに聞いた上で、静かに話し始めました。
「認知症の患者さんに『説得』というのは通用しません。
だから話せばわかるとか、どうしてこんなに説明しているのにわかってくれないんだ、とか思いがちですが、そういうことじゃないのです。
気分や感情は常に揺れていて、それに家族は振り回されます。
でも、その感情は持続しませんから、ある程度聞き流すことも大切です。
このショートステイは薬の調整をする目的なので、家族も頑張りどきですよ。」
確かに昨夜は私も涙が止まりませんでした。
あんな悲しそうな父の声を聞いたのは初めてだったから、胸が潰れそうだった。
でもケアマネさんから入る情報では「にこやかに過ごされています」とか、「お風呂に一人ではりましたよ」とか、私の想像とは異なるのです。
何が本当なのかわからず、混乱していました。
施設長さんと話をして、自分のことが冷静に見ることができたので、10分間だけ面会を許可してもらいました。
面会室に入り私を見るなり、父は号泣します。
ハンカチタオルで顔を覆い、机にうつ伏せて泣きます。
「こんな悲しいことはない。帰れないなら、死んでしまいたい。」
私もまた、うるっとするのですが、施設長さんが静かに顔を横に振ります。
そして、父に話しかけます。
「大丈夫ですよ、元気になるためだからね。
みんなが待っているから、がんばりましょう。」
私も精一杯、励まし、大切に思っていることを伝え、待っているからと声をかけ続けました。
そして面会時間の10分間、ずっと泣いていましたが「時間だから行きましょうね。」と言われると素直に行ってしまいました。
帰り際、「大丈夫でしたか?」と尋ねると、「今お茶を飲んでいますよ。」
お茶飲んでるんかーーーーい!! 😂
私もだいぶ、気持ちが楽になり、そのままトンボ帰りしました。
夜、父から電話がありました。
ドキドキしながら、電話を取ると「明日、何時に来るの?」と。
「明日は行けないよ。」と答えると「明日は除草シートを貼る日でしょ?」
父は覚えていました。雨で延期になった庭の除草シート張り。
「父ちゃんが元気になってから手伝ってもらうから、また延期だよ。」
そういうと、満足気に「ちゃんと手伝ってあげるからね。」と言って電話を切りました。
もう「帰りたい。」とは言いませんでした。
薬が効いているのか、今はそういう気分だったのかはわかりません。
安堵とともにゆうべとは違う涙がこぼれてきます。
涙もろくなったなぁ、年取ったなぁ。😅
連日、暗い話ですみません。
明日から、元気な記事がかけたらいいな・・・。
タイトル画像は”ワクワクしながらコツコツすすもう♪ちえのコッコぶろぐ”さんにお借りしました。
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