五月に野の花を食べる。カルロスとアカシアの花のフライ。
アカシアの花が食べられると教えてくれたのはカルロス。
どんなタイプの衣がベストかと研究したのは私。
メルシェやスーパーマーケットで食材を「買う」のではなく「野原に花を摘みに行く」というだけで何だか他とは全く違う食べ物のように思えて来る。
「お花を食べる」というのもちょっと特別な気がする。
しかも一年のうちでアカシアの花の食べ頃は10日間程度。
その時期しか食べられないと思うと希少価値さえ感じる。
カルロスとアカシアの花のフライを食べることになった経緯はレシピの後に。
*ここでアカシアと呼んでいる花は、イタリア語でアカーチャまたはロビーニャと呼ばれる花で、日本語ではニセアカシアというのが正式名称です。
日本でも「アカシアのハチミツ」と呼ばれているものは実際にはニセアカシアのハチミツですが「ニセ」という言葉が聞こえが悪いため省略されています。
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<材料>2-4人分
アカシアの花 数房 葉を除いて 約80-100g
<アルツゥージ風(脚註2)衣材料>
・薄力粉 100g
・小さめ卵 1個
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 適量 (天汁で食べるときは控えめに)
・白ワイン 60ml (オリジナルのアルツゥージの衣はコニャックが大さじ1程度)
・冷水 約60ml (卵の大きさで加減)
*本来のアルツゥージのレシピでは同量のブランデーかコニャックを使用するが、アカシアの花はデリケートなのでコニャックでは強すぎ、せっかくの味と香りを壊してしまうから白ワインに置き換えました。
「冷水」というのは天ぷら風アレンジ。
<作り方>
0・空気の綺麗なところに行ってアカシアの花を摘んでくる。
*できるだけ開花したばかりの花を選ぶ。
1・花は太めの茎と葉を除き、洗って一口大に分ける。
2・上記のアルツゥージ風衣材料を冷水を除き全て混ぜ、なめらかになる様かき混ぜます。
3・冷水の量は卵の大きさによっても異なるので、後から徐々に加え適当なトロミになったらOK。
4・3に花をつけて天ぷらのようにたっぷりの油で揚げます。
5・茎から離れてしまった花は、最後にかき揚げのようにして仕上げます。
*熱々をそのままでも、レモンをかけて頂いても美味です。
*花の香りは若干壊しますが天つゆでも美味しい、と日本人の私は思います。
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アカシアの花が余ったので、付け合わせにアカシアのサラダを作ってアカシアつくしにしました。
<材料> 二人分
・タラッサコまたはルコラ 1束 <適量
*無ければどんなグリーンサラダでもOK
・アカシアの花 適量
食べる直前に塩、りんご酢、エキストラバージンオリーブオイルで調味します。
アカシアの花にはりんご酢が合います。
アカシアサラダ写真
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カルロスとアカシアの花のフライを食べることになった経緯
「それで、ボスコ・イン・チッタにはいつ連れていってくれるの?」
遅い時間の映画を観に行く前に軽く夕食を取ろうと、近所のトラットリア、サビオネダでミラノ風カツレツを食べながら私はカルロスに質問した。
その年の1月の聖アントニオの焚き火(脚註1)にボスコ・イン・チッタに行った帰りに家まで送ってくれた時、「春になったらまた一緒に行こう。」と言っていたのに、すっかり春らしくなっても重たい腰をあげる様子がない優柔不断な彼を見かねて催促したのだ。
ボスコ・イン・チッタは「町の中の森」という名のついたミラノ郊外最西端にある大きな公園。人工的な公園だか中を歩いていると本当に山の中の森にいるような錯覚を起こす。
***
私とカルロスは一時期、お互いに好感を持って頻繁に出かけていた時期があった。結局スティディという関係にはならなかったけれど。
彼に好感を持ったのは、蝶のようにひらひらと飛び回る調子の良い男性の多いイタリアで、静かでまるで山のように不動な感じがしたから。
そして彼はずっと山のように不動だった。。。(笑)
代々ミラノの家に育ちながら山歩きの大好きな山男。熊のように大柄で、熊のような性格。イタリア語ではOrso=オルソ=クマいうと自分の巣にこもって社交的でない人のことを言う。
初対面の時、全く私のタイプではないと思ったのを良く憶えている。なのになぜか一緒に出かけるようになっていたのは、見かけによらず中身は小心者だったからかもしれない。
仕事柄もあり自然の中、緑の中にいるのが大好き。
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さて、トラットリア サビオネダでの会話に戻り、
「5月のはじめ頃に行こうよ。アカシアの花が咲く頃に行って、十房くらい取ってきてフライにして食べよう。」とカルロス。
「え?公園に咲いてる花を勝手に取っていいの?」と私。
「僕はしてもいいんだ。」と、ちょっといたずらっ子のようなトーン。
彼はランドスケープ・アーキテクトでボスコ・イン・チッタの設計にも参加したので、関係者だから許可されるのだとその時は解釈したが、後から調べたらミラノの公園は数限定で花を摘んで良いところが多い。
お花を食べる、というのはなんだかとても特別なことのような感じがし、急に5月が待ち遠しくなった。
アカシアの花が食べられるなんてそれまで知らなかった。スーパーはもちろん八百屋やマルシェにも売っていないから、どこかに自分で取りに行かなければいけない。出来れば空気のいいところで咲いている花を。
でも結局その年、アカシアの花の時期にボスコ・イン・チッタには行けなかった。アカシアの開花状況がが丁度いい週末にお互い都合が悪く、次の日曜ならなんとかギリギリ、と思っていたら週中頃、三日間大雨が降って花がすっかりダメになってしまった。
来年を待つしかない、と泣く泣く諦めかけた。
翌週食べ頃のアカシアの花を見つけたのはヴァレーゼ。ヴァレーゼはミラノから北西40キロほどスイス国境に近くミラノより標高が250m程高く、どんな花も一週間か十日遅れで咲く。
裕福層の多い町で、丁度個人住宅のインテリアの設計をしていた時期で現場を見に行った帰り、クライアントが駅まで送ってくれる途中、まだ満開のアカシア林を見つけ車を止めてもらった。
左右アカシアのトンネルのその道は、アカシアの花の香りと、新緑の葉を通して差し込む揺れる木漏れ日で満ちていた。
車に戻って小さな花を一つ食べてみた。
とても甘かった。
まだミツバチに蜜を吸い取られる前の花。
そう、様々な花の蜂蜜の中でもアカシアの蜂蜜は最も甘い方に分類される。
ミラノに戻って早速カルロスに連絡。「日帰り出張でアカシアの花をみつけたから今晩フライを作るつもり。よかったら食べにくる?」という運びで待望のアカシアつくしディナーになった。
フライの衣は花を取ってきて云々という話をしてから、楽しみにいろいろ研究していた。
天ぷら風も試したけれど、ステファニア・ジャンノッティの本のカボチャの花のフライに出てくる19世紀の美食家アルツゥージの衣を基本に、コニャックを白ワインに置き換えたものがベストと結論。
天つゆで食べても美味しいかと用意したけれど、天ぷらが何たるかも知らずにいきなり口に放り込んだカルロスは顔を歪めていた。
やっぱり日本食の食べられない男とは付き合え~ん。なんちゃって。
カルロスは料理はできないが美味しいものが大好きで、お酒も大好きなので、二人で日西ランチを企画した時に作ったスペイン人のお母さん直伝のサングリアの項目にも登場してもらおうと思っています。
日本人の私は、アカシアの花のフライを天つゆで食べてもとても美味しいと思います。
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ほぼ同じ時期に咲く花にニワトコの花(エルダーフラワー)があります。
ニワトコの花のレシピはまた別に投稿しますね。
脚註1)
焚き火は浄化と聖別の儀式の一部です。伝統的に、1月16日(大修道院長聖アントニオの命日の前夜)など、キリスト教の宗教上の祝日の際に行われる焚き火で、イタリアに限らず欧州各地で行われます。
脚註2)
19世紀の美食家ペッレグリーノ・アルトゥージ(1820-1911)
イタリアで初めて料理のレシピ本を出版した、近代イタリア料理の父と呼ばれる人物。
邦題「イタリア料理大全」(原文直訳:料理の科学とおいしい食事の芸術)はイタリア料理のバイブルとして持っていない家庭の方が少ない。
彼自身はエミリア・ロマーニャ地方出身だが、南北でヴァリエーションの幅が極めて広いイタリア料理のレシピを正確に記述するために各地の人々とも意見交換をし、91歳で亡くなるまで20年間にわたり改訂版を出版し続けた。
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