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2024年7月の記事一覧
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―25.―――「なぁ、あんたは僕が必要なんじゃないの。」
❅25.―――「なぁ、あんたは僕が必要なんじゃないの。」
コチコチ…。
秒針が時を刻む音と僕の呼吸音だけが響き渡っている。
意識はまだはっきりと形は成していない。
そこにある何かを必死に掴もうとして。
それなのに形を成さない何かは掴めそうで掴めない。
意識の中と現実を右往左往しながらもがいていれば不意に手が誰かに握られた感覚。
その手に連れられてスゥーッと僕の意識は現実へと手招かれた。
「はっ
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―26.薄暗闇の天使
❅26.薄暗闇の天使
あの真っ白いヴァンパイア更生育成施設から飛び出して森を駆け抜けだした俺達は。
ミハイルと2人、夜の森を駆け抜ける。
闇に紛れるようにして。
潜んだ生命たちさえ気づかぬようにかいくぐる。
湿度を含んだ空気がつゆに滲んだ緑の香りを運ぶ。
踏みしめるたびに張り巡らされた根を感じる。
たかぶる鼓動を抑えられなくなりそうだ。
緊張とスリルが俺たちを満たして。
走って。
走って。
走っ
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―27.忍び寄るは黒い翳
❅27.忍び寄るは黒い翳
ふと違和感を拾った。
そう、ひゅと息の詰まる感覚にふと目が覚めて寒気のような背筋が凍る嫌な感じ。
何度も繰り返したこの感覚。
なにか。
何かが違う。
なにかが少しずつ掛け違えて元に戻らなくなる。
この感覚を俺は知っている。
なんだ。
なにが起きている。
森の深まりに乗じて変わる夜更けの肌を撫でつける風のひりつく涼しさを無視して。
思考が感覚があの日々をなぞる。
まるで切
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―28.―――たぶん、俺は“このために生まれてきた”。
❅28.―――たぶん、俺は“このために生まれてきた”。
上がった息、眉根を寄せた険しい顔、胸元を握る白くなった指先。
ミハイルは明らかに消耗していた。
「どうした。」
声を掛けるが酸素が足りないのか動く口とは相反して苦しげな呼吸音だけが聞こえる。
ミハイルが「このままじゃ持たない。」
ミハイルより優先するものなどなにもない。
心配が勝った俺は前方を見渡して探せば。
幸運にも前方には木々が密集いて
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―29.俺は今度だって諦めない。奪われるだけの俺でいたくないから。
❅29.俺は今度だって諦めない。奪われるだけの俺でいたくないから。
俺は嫌いだ。
深い夜の森も。
息の詰まるような闇も。
この奪われることを分かっていながら指をくわえて耐えるこの時間を。
―――≪思い出すから。≫
理不尽に奪われていく哀しみを笑ってぬりつぶした守れなかった兄を。
―――≪想いだすから。≫
―----――嫌いだ。
「リリー、俺つかれた。きゅーけー。」
リリーに向かってダルイんで
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―30.クリスタルコンシール
❅30.クリスタルコンシール
また一歩、また一歩。死への奈落に足を踏み出す。
背筋に凍えるような感覚がつつっと走る。
ホワイトアウトしそうな霞む視界を何度も強くしかめたまばたきで繋ぎ止めた。
この薄闇のくろの中でしろに飲まれるなんて滑稽としか言いようがない。
それでもなおも侵食しようとしろが視界脇から忘れてくれるなと主張を強めて蔓延る。
「っ!」
踏み出した右足が掬われた。
ふわり浮遊感。
は
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―31. 溢していた彩を。
❅31. 溢していた彩を。
「っ…!!」
察して全力で躱す。恐ろしい速さの矢が横を掠めた。
目線だけで確認すればすんでのところで躱した先でバチバチと電流を帯びた矢が地面に突き刺さったまま白金を帯びて光っている。
チッと舌打ちを零して気配の方へと睨みを利かせる。
そうすれば次いで聞こえる騒がしい声。
「リリーっ!!何してくれちゃってんの!?」
わたわたぎゃんぎゃんと騒ぐエシュアにそれをいなしてうん
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―32.墨彩の滲む雨
❅32.墨彩の滲む雨
『“幸せがある。”』
狂ったように暴れまわる鼓動を無視するように唱えた。
俺には、希望がある。
手元には輝きを蓄えて鮮やかに示すミハイルのホープダイヤモンド。
それはいまや艶やかに光を携えて真っ直ぐ行くべき道を照らしている。
「約束したんだ。
必ずたどり着くと。待っていると。」
振り返るな。
恐怖も
絶望も
誘惑も
何も見ないように。
ようやく駅らしい建物が見えた頃には追
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―33.どうか笑って生きて。
❅33.どうか笑って生きて。
あーあ、やっぱりサマエル泣かせちゃった。
もっと上手くやりたかったのに。
そんな顔しないで。いつもみたいにみててよ。
僕はサマエルのその夜空がすきだから。
ごめんね、サマエル。泣かないで…。
僕はサマエルを守れてしあわせなんだ。
いますごくしあわせなんだ。
サマエルの腕の中で僕はサマエルのために死ねるんだから。
サマエルに看取って貰えて僕はしあわせ。
…でも、やっぱ
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―34. その名前は、“黄迦リコリス”。
❅34. その名前は、“黄迦リコリス”。
リーチの長い猟銃を片手に持った男が
俺のうえからミハイルの体を乱暴に引き上げる。
「っ…おい‼」
ようやく我に返った俺が声を出す頃にはミハイルは乱雑に床に転がされていた。
その腹部からはダクダクと命の燈火が流れ出て紅い湖が広がっていく。
その水面はさらに質量をますように注がれる紅によって波打っていた。
空気に触れた端の方から艶やかできれいだったその燈火が
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―35. 「“奪われる覚悟”もなく、“奪った”なんて言わないよな。」
❅35. 「“奪われる覚悟”もなく、“奪った”なんて言わないよな。」
つめたい箱の中。
一定間隔をあけて機械が作動する音が永遠と続く。
自分の呼吸音とガラスで仕切られた向こう、もはや硬い寝台に横たわるミハイルの姿だけが俺をこの世に留めている。
これが病院であったなら管を繋がれたそれだけがこの世に繋ぐ線であるだろうがあれはこの世から切り離すための線で。それどころかまして俺には一本も繋がってはいない
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―36.何度も。何度でも。
❅36.何度も。何度でも。
その日、サマエルは息絶えたミハイルを見て感情を爆発させた。
そしてそのショックこそがトリガーになり覚醒した。
その覚醒は、絡まり続ける糸のようにサマエルという人格の過去と性質を複雑に作用させていった。
紫月の姫の血のあまたある1つの能力。
それは、ミハイルの置き土産。
あの駅でこれ以上傍で守れないと悟ったミハイルはサマエルの首元を噛み紫月の姫の遺伝子配列をサマエルに植
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―37. 「だから、お前は死ねない。死なせない。」
❅37. 「だから、お前は死ねない。死なせない。」
「…嫌だ、いやだ、助けて。」最初に聞こえたのは悲壮な願いだった。
その声が何処かミハイルに似ていて、思い出す。
「なんで俺が。」そう思いながらも探すことを辞められなかったあの夜を。
必死に探し回ってようやく見つけた真っ暗な屋根に蹲って泣いているミハイルを。
どれにも届かない思いに嘆き苦しんでいたミハイルを。
だから、決めたのかもしれない。
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―38. その日、人間界は紫の月が彼らをいざなっていた。
❅38. その日、人間界は紫の月が彼らをいざなっていた。
「それで、アンタはどっから来た?あの電車はどこにつながってる?」
アンタ、その呼び方好きじゃない。
「…サマエル。」
「は?」
は?じゃないから。
人間は何もわかってませんって顔して首を傾げている。
「サマエル。アンタじゃない。」と付け加える。
そうすれば表情が変わる。
ああ、やっと納得したらしい。
「おまえは?」
「え、僕?…何が?」