「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―29.俺は今度だって諦めない。奪われるだけの俺でいたくないから。
❅29.俺は今度だって諦めない。奪われるだけの俺でいたくないから。
俺は嫌いだ。
深い夜の森も。
息の詰まるような闇も。
この奪われることを分かっていながら指をくわえて耐えるこの時間を。
―――≪思い出すから。≫
理不尽に奪われていく哀しみを笑ってぬりつぶした守れなかった兄を。
―――≪想いだすから。≫
―----――嫌いだ。
「リリー、俺つかれた。きゅーけー。」
リリーに向かってダルイんでとこれでもかとアピールしながら出っ張った木の根に座り込んだ。
ざらりとした感触に着いた手を見てみればたぶん土。
最悪。うわ、絶対に汚れた。
純白の服なんか指定すんなよとひとりごちる。
どうせ暗くて色なんか碌にわかんないくせに。
「あーあー、さいあく。」
素直に口に出せばリリーは相変わらず呆れ顔で俺をみた。
――――“見透かされた”
たぶんそう。
ああ、泣きそうだ。
なんでこんなにうまくいかない?
繕った能天気はいつまで持つんだろ。
こうしてることすら虚しくなってくる。
項垂れるように俯けば
「はぁ…エシュア。これで何回目?」
なんて言いながら隣にリリー座った。
その瞳がいたたまれなくって。
俺は目を背けるようにふいっとそっぽをむいた。
不意に気配が近づいて頭上に重みを感じた。
「なに。」
そう言えばその手は乱雑に僕の髪をぐしゃぐしゃにする。
今日はちゃんとセットしたのに…。
台無しじゃん。
「遅れるんだけど?」
リリーは俺の質問を無視して俺の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように撫でながら続けた。
こういうとこ。
ほんとリリーらしい。
どうせ指摘したってこたえなんか来ないってもう知ってるから。
「遅れてねぇもん。」
リリーにのっかるほかない。
「捕獲班が同じタイミングでどうすんの。」
「俺、今回捕獲班じゃねぇーもん。」
やる気なんかでるわけない。
サムと戦いたくない。
「エシュア…サムと会いたくないの?」
「そりゃ、あいたいけど。」
会いたいに決まってる。
だって、サムだもん。
「ミハイルにサムを盗られて拗ねてんの?」
「拗ねてない。盗られてねぇーし。」
盗られたなんて思ってない。
俺の枠奪えるやつなんかいないもん。
「エシュアを置いてった。」
「そんなことない。サムは真っ直ぐだから。いいやつだから。ただミハイルを助けたいだけ。」
サムはあれで物凄く優しくてどこまでもお人好しだから。
「まぁ、寂しくもなるよね。エシュアはずっとサムのこと見てきたのに。」
止んでしまった頭上の温かさが名残惜しくて衣擦れをたてながら去るそれを追って振り向けば
どこか遠くを見てなにか重ねたようにリリーはいった。
リリーにもそんなひとがいるんだろうか。
それはちょっといやだ。
「サムのこと好きなんじゃなかったの。」
「べつに好きっていうか、憧れだから。…たった一人の。」
「“憧れ”ね。」
揶揄いを含んで落とされた音は凄くざらざらする。
「なんだよ!」
だから、また拗ねたみたいになっちゃって。
「あんだけ犬みたいにサム、サム、サム、サム言ってたくせに。」
「言ってない!」
ああ、もう!全部リリーの掌の上転がされる。
「へぇ、じゃぁもう二度とあえなくていいの?」
「いやだ。…いやだけど」
でも、たぶん…それがいやじゃなくって。
どこか調子が狂う。
「いつもの血の気滾った戦闘バカはどこに置いてきたわけ?」
「それが嫌なんだよ!リリーのバカ!!」
振り向いてリリーを直視すればその表情はどこか寂し気で。
キラキラと頬を伝う雫が輝いていた。
「なんでリリーが泣くんだよ。」
そう、こうやって俺より先に泣いてくれるから。
「…だから先に戦闘しにいくんでしょ。」
「捕獲班が捕まえる前に俺達で?」
だから。
「私たち二人なら取り戻せる。だって、これまでだってふたりでそうして来たでしょ。」
「はははっそーだな。」
俺は、またお調子者でいられる。
「必ずまたみんなで笑いたいから。」
「必ず笑いあうために。」
いつだって理不尽は目の前に降ってきて唐突に大事なもんを奪ってく。
それでもいつだって手を伸ばしてきたじゃん。
なら。
俺は今度だって諦めない。
奪われるだけの俺でいたくないから。
見上げた空に月はみえない。
さぁぁっと生ぬるい風が森を駆け抜けた。
それに運ばれてきた香りがどこか寂しくってまた泣きたくなった。
強くって温かくって眩しくって寂しくて悲しい香り。
――――――俺の大好きな香り。
―――――――「…弥禄兄ぃ(みろくにぃ)?」
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
➩https://lit.link/kairiluca7bulemoonsea