ラスベガスパパから学ぶ最強の人生訓 第三章 人間は間違いを犯すものである
時差ボケの影響がまだ残っているのか、今日もあまり長く眠ることができなかった。
家族はまだ寝ているが、裏庭の椅子に腰掛け、朝日が登ってくるのを待った。
まだ薄暗いラスベガスの空を見ながら、ぼーっとしていると、日の出と共にパパが起きてきた。
「Good morning!よく眠れたかい?コーヒー飲むかい?」
パパの朝はいつも早い。
「あぁ、昨日よりは少し眠れたが、まだ時差ボケが治ってないようだ。うん、コーヒーいただくよ。いつもありがとう」
私は、ぼやけた表情をしながら答えた。
「私は庭の植物に水やりをしてから、また買い出しとガソリンの給油に行ってくるよ。今日はどういう予定だい?まぁ、ゆっくりしてな。では、またあとで」
そういってパパはいつもの日課をこなすと車で出掛けて行った。
ミユキさんは夜型のようで、比較的朝は遅い。
裏庭の椅子に座りながら、気持ちのよい朝日を眺めながら、1人コーヒーを楽しんだ。
しばらくするとパパが買い物の袋を手に戻ってきた。
「Hi!調子はどうだい!今日も外は暑いね〜!ホットドックとハンバーガーの材料買ってきたから楽しみにしてな!」
ラスベガスの暑さの中でも元気いっぱいだ。
遠いに日本から来た私のために、パパは最大限のおもてなしをしようとしてくれている。本当に感謝だ。
パパは買ってきた材料を冷蔵庫に入れると、コーヒーを淹れてくれた。
そして、いつものようにパパとの会話が始まった。
「今日はどこに行くんだい?フーバーダムだっけ?あそこは大きなダムで観光名所として有名だけど、周りは岩ばかりで地元の人はなぜ観光客があんなところに行きたがるのか不思議だよ〜。ははは。」
パパは冗談を交えながら言った。
「そうなの?ネットでラスベガスの観光名所を調べたら、フーバーダムは映画「トランスフォーマー」の撮影場所にもなってて有名だって聞いたけど・・・」
僕がネットで調べた限りでは、ラスベガスはカジノの他に、グランドキャニオン、レッドロック、フーバーダムなどの観光名所があると書いてあり、それらに行きたいと思っていた。
「地元民からしたら、岩と砂漠ばかりで、あまり行こうと思わないけどねぇ。グランドキャニオンなんて30年ラスベガスに住んでる娘さえも行ったことないと思うよ。ははは」
そうだったのか・・・。地元の人からしたら、生まれた時からあるものだから、逆に物珍しくないのかもしれない。地元民あるあるだな。
私はパパからもっと色んなことを学びたいと思い、また質問をぶつけてみた。
「そういえば、パパはこっちに来てからどうやって人脈を作っていったの?それだけいろんなことをやってると色んなトラブルがあったと思うけど、そういう時はどうしてたの?」
パパは間髪を入れずに答えた。
「そりゃあ最初は誰も知らなかったけど、小さなことから色々始めて行くと、行く先々で必ず出会いというのは生まれるんだ。しかも、私は何も知らない素人として入って行くわけだから、教えてください!と真摯な気持ちで熱心に彼らの話を聞いたよ。彼らも一生懸命に聞いてる私の姿勢を見ると教え甲斐を感じて色々教えてくれた。
そうした人たちとは、その職場だけの関係になることもあれば、後になってその職場の人が私に必要な人を紹介してくれたり、ビジネスパートナーとなったり、そうやって人間関係を構築していった。もちろんその中には関係が悪くなって、縁が切れた人もいるけどね。
そういう時も、私は三角形の真ん中に立って考えるようにしてるんだ」
人間関係の三角形とは何か?
私はその意味を聞いてみた。
「自分、相手、第三者、この三つを三角形とした場合、自分だけが正しいと思い込んじゃいけないし、自分と相手の間が正しいと考えてもいけない。
自分、相手、第三者の真ん中に立って見るとどうか?と考えることが重要なんだ。
そうすれば、どちらか片方に偏った意見じゃなく、常に公平な目で見れると私は考えているんだ。
また、仕事においてもプライベートの人間関係においても人を助けることをしていると、自分が困ってる時に助けてくれたり、助けた本人じゃなくてもその友達が自分を助けてくれたり、人を助けたことが不思議と繋がって返ってくるもんなんだよ。
それと、人間は必ず間違いを犯す生き物だということを覚えておいてもらいたい。
この世の中にミスをしない人間なんて1人もいない。だから自分がミスをした時に必要以上に自分を責める必要はないし、他の誰かがミスした時も大きな気持ちで受け止めるんだ。
はじめから、人間は間違いを犯す生き物だと思っていれば、相手が間違ったことをした時にその間違いを責めるのではなく、その後にどうするかを一緒に考えてあげることができる。
どうしてあの人があんなことをしてしまったんだと不思議に思うこともよくあるが、人間ってそういうふうにできていて、必ず間違いを犯す生き物なんだよ。
私も娘や孫たちが間違ったことをした時には、ただ単に叱りつけるのではなく、大きな愛を持って接している。そうすることで娘や孫たちも私のことを大好きでいてくれるし、彼らもそれを私に返してくれる。だから私も家族もいつもみんなハッピーでいられるんだ」
パパの家族は本当にみんな仲良しで、毎日幸せなのがすごく伝わってくる。
この話を聞いて、初めに会った時から感じていたパパの器の大きさの理由がわかった気がした。
ミユキさんが起きて、遅めの朝食を済ませた後、私たちはフーバーダムへ行く準備をし、来る前乗り込んだ。
ミユキさんがハンドルを握り、私は助手席、パパは後部座席に乗り込んだ。
パパがいつものように冷えた水と軽食をクーラーボックスに入れて、車へ積み込んでくれた。
ラスベガスでは、外出時の水分補給が本当に欠かせない。
フーバーダムへ行く道の途中、木が一本も生えていない岩山の数々が、日本人の私にとっては物珍しかった。
まさにゲームや映画でしか見たことのない世界のようで、ひたすら写真を撮っていた。
すると、パパがミユキさんの妹ヨウコさんと電話しながら、こう言っていた。
「おーい、ヨウコー!いま、カイノミ達とフーバーダムに行っとるんよ!
しかし、カイノミは風景というか、岩ばっかり写真撮ってるよ!ははは!」
と笑っていた。
というより笑われていた・・・。
ヘンダーソンからフーバーダムへは車で30〜40分ほど。あっという間に着いた。
6月のフーバーダムは灼熱で、外に出るのも危険なため、パパとミユキさんは車内に待機し、私1人ダムに沿って記念撮影しに行くことにした。
しかし、外はこれまで日本で体験したことのない暑さと乾燥で、約30分ほど外に出て、フーバーダムを撮影したが、景色を楽しむ余裕はまったくなかった。
40度近い気温に照りつける太陽、湿度20%以下、日陰もほとんどない。
「急いで車に戻らねば命に危険が及ぶ・・・」本気で思った瞬間だった。
命からがら車に戻ると、パパとミユキさんは汗だくの私を見て笑いながら聞いてきた。
「フーバーダムどうだったかい?ははは」
ミユキさんが、
「この後どうする?このあと街に戻って⚪︎⚪︎に行ってもいいし、そうじゃなくても先に⚪︎⚪︎に行って・・・」
と矢継ぎ早に質問してきたが、熱中症寸前の私は、
「ごめん、いま何も考えられない・・・。というか何も聞き取れない・・・」(2人との会話は全部英語)
と話を遮って伝えた。
すると、パパとミユキさんは、より爆笑していた・・・。
そうして私たちはフーバーダムを後にし、家へと戻った。
私はそのままプールに飛び込み、体をクールダウンさせた。
その後、シャワーを浴び、エアコンの効いた室内でコーラを飲み、ベッドに横たわった時の心地よさは格別だった。
こうしてこの日のフーバーダム観光を終えたのである。
(フーバーダムは一生のうち、一回いけば十分かな・・・)
第四章へと続く・・・。