金魚のおもい
夏祭りには浴衣
ワタあめ
あんずあめ
クラスメイト 気になっていたあの子
薄化粧した きれいな浴衣すがたの あの子の手に
ちいさなビニール そのなかには
赤い色のきれいな金魚
振袖のようにひらひら 胸ビラをうごかして
小さな口をパクパク
あの金魚は一体どこへいってしまったのかしら
バカ言ってんじゃねえ
この夏祭りとやらの季節
俺たち 同志が 兄弟が
その命を おもちゃのようにあつかわれ
何万と葬られていく
ある兄弟は 真夏の炎天下のバケツの中で 水温30度のなか
ある兄弟は ビニール袋から出してももらえず
お誘いに来たクラスメートの甘い誘惑にのって
手にしていた生き物は邪魔 とばかりに
神社の小枝に引っ掛けて はいさよなら 元気でね
ある兄弟は 玄関先の水槽の中で やってきたカラスのエサとなり果てた
おれたちにだって 心臓があれば めん玉だってある
そのおれたちに 悔しさ 無念さが ないとでも思っているのか
一回百円で 命をおもちゃのように あつかわれる この無念さを
バケツに放っておかれて 翌日 生ごみと一緒にすてられる この悔しさを
声なきものの 小さきものの命を 決して甘く見るな
あなたが もしも 露店の水槽で おもちゃとして扱われる存在として
生まれてきたらどうする
天は等しく この世に生きるものに 命をあたえた
この世に生きるものに 天の許しを得なかったものなどなく
髪の毛の一本に至るまで ウロコの一枚に至るまで
すべて天のお見通し 天の采配 天の所有物
こんな詩を書きたくなったのは
かつて設計士の見習いとして ひとり小さな事務所に居残って
図面をひいていたとき
ラジオで聞いたはなし それを忘れられなかったから
話し手は 宜保愛子
小さな命を粗末にあつかうな
声なき声をよくきけ
声をあげられないものにこそ よく目をむけよ
いまから 三十年も前のはなし
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