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〈小説〉ああ、ロミオ
「わたしは死んだことになってるんだよ」
おにぎりを陳列棚に全部おさめて振り返ると、悲しい目で美濃くんがわたしを見ていた。
「だからさ」
同情してもらおうとか慰めてほしいとかそんな気持ちはない。
毎日ストーカーから守るために、義理で送ってくれるようになった美濃くんに申し訳なくてわたしは言う。
「わたしに何かあっても、親はなんとも思わないよ」
空になった運搬用の青いコンテナを持ち上げると、美濃くんが無
〈小説〉くるしくて、息もできない
【R-18】
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指定された場所へ行くと白いワンボックスカーがハザードランプを点滅させて停まっていた。運転席にいる男の顔と身なりを確認するためには一度通りすぎて前へ回り込まなくてはならない。いずみは歩道の隅を歩き車を一度通りすぎる。肩に掛けたカバンを握る手に力が入る。スマホを取り出し人待ち顔で辺りを見渡す。視界にちらりと入った運転席の男がうつむいているのを確認してからじっと見る。禿げた中年や不
〈小説〉カーディガン
私は今、熊本へ向かっている。朝一の便に乗り込み、小さな窓から下界を見下ろしながら、無意識に彼の住む街の方を目で追ってしまう。飛行機は高度を上げ、シートベルトのサインが消える。
田舎へ帰るのは五年ぶりだ。
祖父の葬式で帰った以来。祖母は祖父が亡くなってからも一人、山の上の家で住んでいる。
本土に住むおじさん達に、山を降りて一緒に暮らそうと言われても頑として首を縦に振らなかった。買い物に行くのにも一時