楓双葉
他の方が書いたnoteの中でも特別『スキ』な、何度も読み返したい作品を勝手にまとめます
10000文字以上の小説
小説の【あとがき】
9999文字以内の小説
はじめまして、楓双葉 (かえでふたば)です。 ネットで読みやすい小説を、ネットで読んでくれる人のためだけに書いています。 私の小説は、“web上で集中して読める限界の長さ“として自分なりにはじき出した文字数“10000字前後“で収まるように作っています。 マガジン『みじかいはなし』には9999文字以内の小説を。 マガジン『ながいはなし』には10000文字以上の小説を。 マガジン『ないしょのはなし』には有料の【あとがき】をまとめていきます。 勝手ながら〈小説〉へ頂く感想へ
「ウンコを」 思い出したようにコキタが言う。 将来どんな家に住みたいか、という話をしていたはずだった。 引っ越しのアルバイトで午前の一件目を予定時間より早く終え、おかげで少し長くとることができた昼休憩のあいだ、その日が初対面のコキタと当たり障りのない会話で時間を潰していたのだ。 「うち、ばーちゃんがウンコ投げるんすよ。こうやって」 腕をしならせて投げるコキタの仕草は、先日テレビで見たゴリラの着ぐるみでウンコを投げる真似をした芸人とそっくりだった。 まだたっぷり
月に一度の約束の前日、メッセージを送信すると父からすぐに返信があった。 行きたい店があるなら調べておきなさい、一緒にまわろう。 父からのメッセージを既読にしたまま、スマホに充電ケーブルを繋いで眠った。 ダメもとでただひろを花火大会に誘ったらあっさりOKをもらった。 それで慌てて押し入れの奥から引っ張り出した浴衣を羽織ったら、丈が短くて焦った。去年は花火大会には行かなかった。友達に誘われたりもしたけど、気分じゃなかったのだ。おととしは着られた浴衣が今年はもう小さくなっていた。
水面に反射する日ざしが巨大なさかなの鱗みたいに絶え間なく揺れてかたちを変えながら光る。 今からみんな食べられようとしている。 巨大なさかなに。 お揃いの喪服を着て。 なんの味付けもされないまま。 髪は全て納めてある。 名前を書いた白いキャップの中に。 準備体操をする女子の体のひとつひとつを、あたしは巨大なさかなのつもりで品定めする。 Yは不味そう。巨乳だから。 Sは油っこそう。ポテトばっか食ってるし。 Mはまだマシかも。朝晩二回シャワーを浴びるから。 体操を終えてみんながプー
本編はこちら 【あとがき】『ああ、ロミオ』 1 、本編と、拙作『マシュマロ』の繋がりについて 2、 伏線を回収することについて 3 、 プロットから執筆するなかで変更した点について(プロット、執筆途中のスクショ画像3枚掲載) 4 、 私が夢を追っていた頃のちょっとした話 5 、 最後に 1、 本編と拙作『マシュマロ』の繋がりについて 本編が生まれたきっかけは、今年の3月に拙作『マシュマロ』を公開した際、Twitterでフォロワーに「沖さんの過去が気になる!」と言
「わたしは死んだことになってるんだよ」 おにぎりを陳列棚に全部おさめて振り返ると、悲しい目で美濃くんがわたしを見ていた。 「だからさ」 同情してもらおうとか慰めてほしいとかそんな気持ちはない。 毎日ストーカーから守るために、義理で送ってくれるようになった美濃くんに申し訳なくてわたしは言う。 「わたしに何かあっても、親はなんとも思わないよ」 空になった運搬用の青いコンテナを持ち上げると、美濃くんが無言で取り上げ、バックヤードに運んでくれる。「ありがと」と言ったわたしの声と重なる
『高崎さんからお土産』と書かれたメモが貼り付けられている箱がスタッフルームのテーブルに置いてあった。 僕はロッカーから自分のユニフォームを取り出しジーパンを脱ぎながら、オリーブオイルとチーズとビールとトマトソースの混じった何とも言えない異臭がする綿パンを履きつつ箱を見た。 和紙のような素材の白に、桜の花びらを思わせるような桃色が小川のせせらぎを表すように斜めにあしらわれている。 綿パンのチャックを上げボタンを閉めて、シャツに腕を通す。 高崎さんはこの店のバイトスタッフの
本編『三月のさくらんぼ』 このnoteの内容 1、 あとがき 『〈小説〉三月のさくらんぼ』を書く動機となった作者のエピソード 2、制作秘話 私なりの小説の書き方や考え方。本編を執筆途中(プロット)の原稿と完成後の原稿スクショの比較。 3、 ネットで小説を書くこと ネットで読まれるためだけに小説を書き続けて思ったこと 4、 最後に 感謝の気持ち 1、あとがき 二十代後半の頃、先輩の馴染みの定食屋に連れていってもらった。 夫婦で営む、小さな定食屋。 スナックみたいな店内。
【あとがき】『くるしくて、息もできない』 本編はこちら このnoteの内容は、『〈小説〉くるしくて、息もできない』の製作秘話、私なりの小説の書き方、執筆中考えていたことや迷ったり悩んだりしたことを、執筆途中の原稿のスクショと共にダラダラと書き綴ります。 有料部分の内容 1、製作秘話 2、あとがき 3、表紙について 4、頂いた感想への対応について 5、最後に 1、製作秘話 今までに書いたことのない物語を書きたい、と常々思っている。 今回は「よし、しゃれにならんくらい
【R-18】 1 指定された場所へ行くと白いワンボックスカーがハザードランプを点滅させて停まっていた。運転席にいる男の顔と身なりを確認するためには一度通りすぎて前へ回り込まなくてはならない。いずみは歩道の隅を歩き車を一度通りすぎる。肩に掛けたカバンを握る手に力が入る。スマホを取り出し人待ち顔で辺りを見渡す。視界にちらりと入った運転席の男がうつむいているのを確認してからじっと見る。禿げた中年や不細工や気持ち悪い男が来るとばかり思っていたいずみは男の顔を見て安堵する。気持ち悪
胎動を初めて感じたのはお風呂の中だった。 本当に自分のお腹の中に人間がいるんだと、その時の私は思った。 産院でエコーを見ても、日々膨らんでいくお腹を撫でても、ちっとも実感がわかなかったのに、湯船の中に沈んだ大きなお腹の内側からポコンと蹴られた時、誰かがいる!と強烈に気付かされた。そして私はお風呂で泣いた。こんな素晴らしいことが世の中にあるのか、と。 娘が産まれ、桶のようなベビーバスを卒業し、初めて娘が湯船につかるとき、どちらが一緒に入るか夫と言い争った。結局これから一緒
小学三年生の夏休みに家族が増えた。 一人は産まれたばかりの弟。もう一人は新しい父親。家族が増えて家の中が賑やかになったのに、友美は今までよりも孤独を感じていた。母と二人で暮らしていた古びた木造のアパートに戻りたいと毎日のように願った。 母は産まれたばかりの弟の世話で忙しく、友美に構ってくれなくなった。泣き止まない弟をあやす母におやつを食べていいか聞いただけで怒鳴られ、いつでも母の顔色を伺うようになる。 新しい父親は優しい。学校の行事には有休を取って必ず参加し、絵やテストの点
1 何を見ているんだろうと思った。 探すように一生懸命見ている、視線の先には何があるのだろう。 不安そうだったり嬉しそうだったり切なそうだったり、色んな表情で何かを見ている有沢萌を、ぼくは無意識に目で追うようになった。 有沢が見ている何かが気になっていたはずなのに、いつの間にか有沢そのものが気になっていた。 有沢が見ているものは花でも木でも空でもなかった。いつも同じ一人の男子をずっと見ていた。 それがわかってぼくは、より一層有沢への興味が増した。この感情が何なのかはぼくには
1 「死にたい」って言う人たちのほとんどは、本当に命を断ちたいのではなくて、いま目の前にある問題を解決させる方法が『死ぬ』以外見つからないから仕方なく言うんじゃないかとわたしは思う。 「死にたい」「死にたい」って言葉にすると楽になれる気がする。麻薬みたい。 死にたい。 でも、たぶん、わたしは死なない。 死にたいと言ってしまう理由をママに話して泣かれて、パパに怒鳴られるか殴られるかして、弟に軽蔑の目で一生見られて、わたしはたぶん考えることを一切やめて、人生を棒にふるのだ。 う
最寄りの駅が始発駅だと、通勤電車で毎朝必ず座席に座ることが出来るという利点がある。 一刻を争うほどの遅刻でもしていない限り、私は先発が混んでいれば次発に乗ってでも必ず座席に座る。読書を楽しむために。 最近読んでいるのは、古本屋で見つけた、古い海外小説。 今日も空いている次発を選んで、前から2両目の後方、三人掛けの座席の壁際に座った。 紙の本の良いところは、今小説のどの辺まで読み進んでいるか一目瞭然でわかること。 この文庫本は分厚いけれど、もうすでに数十ページを残すところまで
竹崎を殴りたい。 初めてそう思ったのは高校三年の秋だった。 その頃おれには一年生の時から片思いしている相手がいた。ユリちゃんだ。 肩までの艶やかな黒髪、白い肌、笑うと垂れる丸い目。可愛かった。 そしてなによりユリちゃんは性格が良かった。みんなが嫌がる体育の後片付けを率先してやったし、他のみんながサボるようなトイレ掃除を一人でもきちんとこなした。 ユリちゃんは真面目で、パンツが見えそうなくらいに短く制服を改造した他の下品な女子とは全然違う存在だったのだ。 おれは受験が終わったら