【短歌】人形遊びの舞台

母親と姉と祖父母に聞かれてもランドセルは青にする子だった

ともだちと遠回りする帰り道坂を落ちる前にまた蹴る石ころ

三月五日にかみさまの位置から今年さいしょのウグイスの声

松島を背景に自撮りした写真に必死な顔しか写っていない

目の位置の高さが変わると遠くまで見えて距離も変わる通学路

友はみな社会を歩むとふと思う道ばたの我に春風そよぐ

若者の過去はまだまだ短いが至近でなまなましく見える

くるみ色の二人掛けの長椅子を人形遊びの舞台にしていた

具現化された死が生けるものに手を伸ばすみたいに寄せる白波

くらいのに空気はぬるむ春の雨は電車で流した涙の温度だ

大都会にはBGMが足りないからブルートゥースイヤフォンは右だけ

“治る”とは戻ることではなく乗り越えることなんだね、春の雁

春風はからだの中を吹きぬけてさくらをひとひら残していく

春めいてさえずる声がいや増すとも臆病なこころは体感にある

冷えてると感じれるようになって寒さがゆるんでいるとわかる朝



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