門掛夕希-Kadokake Yu ki-

夢は本を出版するときに芸人のBKBさんに帯を書いてもらう事です。 【2023年度創作大賞ミステリー部門中間選考突破】 【2024年度創作大賞ミステリー部門中間選考突破】

門掛夕希-Kadokake Yu ki-

夢は本を出版するときに芸人のBKBさんに帯を書いてもらう事です。 【2023年度創作大賞ミステリー部門中間選考突破】 【2024年度創作大賞ミステリー部門中間選考突破】

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ミステリー小説「創作代償」

あらすじ  「父を殺してください」という殺人の依頼を受け「必ず納得される方法にてお父さんを殺すことを誓います」とその日のうちに快諾する主人公。言葉の裏に隠された依頼人の心から望む殺害を遂行するため、物語は途中14篇の短編小説を挟むこととなる。短編小説を読み終えた後、主人公が仕掛けた驚くべき殺人方法が明らかとなる。 1.父を殺してください  父を殺してください、と約2ヵ月ぶりとなる門掛夕希への依頼人、竹本朋美は静かにそう告げた。    「門掛夕希先生の確かな手腕は存じ

    • 再掲載:短編小説「希望」

       城跡のある【此の町】は坂の町とも言い換えられる。 麓には生活の起点となる商店や飲食店が並び、傾斜の大小異なる多くの坂が流通の手助けとなるように伸び、またその坂の両脇には住宅が坂を装飾するように並んでいた。  町民はそこの住宅一帯を指して「鼓町」と呼んだ。住宅といっても瓦屋根を構える昔ながらの民家がほとんどである。中には江戸川乱歩の世界観を倣ったような擬洋風建築の民家なども幾つかあるが、隣接する民家に挟まれている姿を近くで見ると些か肩身が狭いようにも見え、思いのほか目立たな

      • 再掲載:短編小説「そんなことないわ」

         私が夕食の片付けを終え、リビングのソファに腰を下ろすと彼女がすり寄ってきた。彼女は私の太ももに顔を乗せて寝転んだ。彼女なりの甘え方である。「どうしたんだい?今日も何かおねだりしてるの?」私は彼女の頭を優しく撫で、ゆっくりと落ち着いた声を彼女の顔に注ぐ様に質問した。  彼女は目線だけ私の顔に向け、少し考えた様な表情を作り、「そんなことないわ」と、物憂げな声で答えた。その声はリビングを覆う、白い細やかな凹凸のある壁紙とあまりにも対照的であった。彼女は何かを察して欲しいのかもし

        • 再掲載:短編小説「トレーニング」

             「僕が勝てたのは、練習のおかげです。強敵と戦うため2か月以上前から日々自分を超えるトレーニングを実施してきました」年末に行われた格闘技番組の勝利者インタビュー。その映像は男にとって衝撃的なものであった。試合に勝利したその男性は元来泣き虫であり、いじめられっ子であったと試合前に紹介されていた。そんな男性が試合に勝ち、リング中央でインタビュアーの質問に堂々と答える。表情に嬉し涙などはなく、終始笑顔であった。      男は感銘を受けた。明日からトレーニングによる肉体

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        ミステリー小説「創作代償」

          再掲載:短編小説「ドキュメンタリー」

           「こんなの使い物にならないよね?」椅子に深く腰掛け、1枚の画像が映るパソコンを見ながら番組プロデューサーの女性は呟いた。言葉こそ普段の女性と何ら変わりはないが、節々に怒りの感情が込められているのを、机を挟んで直立する男性ディレクターは感じ取っていた。  それもそのはず、今女性が見ている画像は男性本人が撮ったものである。自信のあった企画が最後の最後、他人の手により台無しになることはこの業界ではよくある。男性自身も経験がある分、心の底から申し訳ない気持ちと、この企画会議室に自

          再掲載:短編小説「ドキュメンタリー」

          再掲載:短編小説「機械化」

           〝機械化の波がすぐそこまできている〟〝近い将来、ほとんどの仕事が機械に取られるだろう〟そんな言葉を耳にしたのはいつ頃だろう。自宅で祖母の淹れてくれた温いお茶を飲みながら、新聞を読んでる時だろうか。それとも会社の食堂で流してるラジオで聞き流していたのだろうか。やはりどれも確信を持てない。しかし、そのとき抱いた感情だけは覚えている。【有り得ない】その短くシンプルな感想であった。  そんな感想が間違っていたのを知ったのは、つい先日だ。就業場所の倉庫。終礼が終わったタイミングで車

          再掲載:短編小説「機械化」

          再掲載:短編小説「七光り」

           日は西の地平へ溶け込む寸前であった。秋の星々が冬に向け煌めく準備を始めるように現れ、太陽の残した残光を吸収しているようである。そんな星々の動きなど届かない都心のアパートの一室に男が二人。  一人は無精ひげを生やし、頭にはアニメ柄の手拭いを帽子のように縛っている。手拭いから溢れる後ろ髪は肩に着くほど長い。目の前に粘土とろくろを置けば芸術家に見えないこともない。しかし、彼の座る椅子の横にある机の上には原稿用紙が散乱している。文字ばかりではなく人の絵や吹き出しが描かれていること

          再掲載:短編小説「七光り」

          短編小説「助言」

          「『今、お時間よろしいでしょうか』を名乗ったあとにつけなきゃだめだ」  私の書いたメモに目を通し先輩は言った。言葉遣いに厳しい先輩に相談してやはり正解だった。学がない私のような人間はプライドを変に持ち失敗する。そんなことになってしまうなら詳しい人に教えを乞うべきだと常々思う。 「ありがとうございました。なるほど、確かに名乗ったあとに一文を付けるだけで相手への気遣いを感じますね」  私は先輩が読み終わったメモを受け取ると頂いた助言を書き加えた。すぐにでも自宅に帰って清書書きし

          再掲載:短編小説「魔女かり」

           おばあちゃんは野菜作りが上手で、そして魔女狩りはもっと上手だった。  おばあちゃんはよく私の寝る前に絵本を読み聞かせてくれた。両親が仕事柄深夜に帰ってくることが多く、おばあちゃんの読み聞かせてくれる絵本は、寝る前にふと湧き上がる(パパとママにもう会えないかもしれない)という、根拠のない不安を忘れさせてくれた。そんな絵本の読み聞かせ中に時々魔女が出てくる。魔女はお姫様にイジワルをする悪い魔法使いの時もあれば、王子様を助ける心優しい魔女の時もあった。しかし、どんな魔女が出てき

          再掲載:短編小説「魔女かり」

          再掲載:短編小説「泥棒」

               都心では珍しい駐車場付きの公園にハイエースが一台だけ停まっていた。天候は秋晴れ。雲も刷毛で空を撫でたような巻雲が全体的に広がっているが公園に子供の姿は一人もない。それもそのはず時刻は既に深夜と言って差し支えない時刻であり、辺りには暗闇が駐在していた。  暫くして、駐車場に停まっていたハイエース後部座席で携帯のアラームが鳴った。携帯の持ち主が車外に音が漏れるのを気にしてか、音量自体はそこまで大きくない。しかし、十分役目は果たしてくれたようで、アラームが鳴って3秒も経

          再掲載:短編小説「泥棒」

          再掲載:短編小説「ため息」

           ブーツで昼下がりの海岸を歩くと、霜の上を歩く様な感触が楽しめる。その感触を求めて私は家から遠い海岸まで歩ってきた。嫌なことを忘れたいときは、私はここに来る様にしている。周りには他にも散歩をする人が数名見えるだけであり、時間もちょうど良い様に思えた。私はしゃがみ込み、誰にも気づかれないようにため息を一つ溢した。ため息は海岸の細やかな砂の間をさらりと滑り落ちた。私の鬱憤から挽かれたため息は、海岸の砂などでは濾過されないだろう。きっと地球の内核まで届くのだ。そんな妄想に浸っている

          再掲載:短編小説「ため息」

          再掲載:短編小説「真面目」

           就業場所のデスクに座り、男は朝コンビニで購入したサンドイッチを食べていた。人工的な温かさが循環する部屋にいる彼のほかの社員は、皆デスクワークに追われていた。来月訪れるボーナス払いの処理と月末締め、購入物品の設置に追われているのである。彼は部屋に響くキーボードの打鍵音に少しの後ろめたさもなく、サンドイッチをゆっくり咀嚼する。幼少期に母に教えられた通り、30回は噛むように心がけている。サンドイッチを食べ終わると、彼は更衣室へと移動した。就業規則にある45分の昼食休憩が終わるまで

          再掲載:短編小説「真面目」

          再掲載:短編小説「宝探し」

           今まで掘っていた土とは違う固さに変わった。土の色も少し薄くなり僕は宝物がきっとここにあると確信した。  「ルールは簡単で宝物の入ったカプセルがイベント会場のどこかに埋まっています。貸し出し用のスコップを使い、がんばって探してみてください。また、もしゴミやよくわからないものを掘り起こしましたら、埋めることはせずにこちらの透明な袋にお入れください。係員が後で処分いたします。イベント終了の合図はことらでホイッスルを鳴らしお知らせいたます。それでは説明は以上となります。では宝探し

          再掲載:短編小説「宝探し」

          再掲載:短編小説「名前」

           「いけませんよ。そんなみっともない名前。私は今まで、そんなお名前の方にお会いしたことがありません。名は体を表すといいます。子の父となるなら、将来のことを考え名付けなさい」  秋終わりの吉日。手入れの行き届いた古民家の居間でお義母さんからいただいた言葉は、婿の予期した反応とは全くの別物だった。「いい名前ではないでしょうか?学のない私なりに必死に工場勤務の傍ら考え出したものです。生まれた時から色白で、必ず妻のような別嬪に育ちます。それを見越して語感のよいものをと思いまして……

          再掲載:短編小説「名前」

          再掲載:短編小説「満月制作」

          「ナオユキ先生、これすごいよ、ねえ、これ全部月にしない?」    アサミ先生の声は、この資料室にある私より年配の教材、それらを包み込むほこり臭い空気と比べ、唯一澄んでいるもののように感じられた。生徒たちの下校時間はとうに過ぎ、教室ほどの広さがある資料室のカーテンは閉め切っている。秋口特有の曇り空がカーテンを透過して二人しかいない資料室の仄暗さを加速させていた。  アサミ先生に背を向け、床に膝をつき改定前の教科書をビニール紐で縛っていた私は聞こえていないふりをした。理由は簡

          再掲載:短編小説「満月制作」

          再掲載:短編小説「上質」

           現在、テレビ業界を取り巻く状況は素人目から見てもあまりよろしくない。暴力を伴う映像の規制や、過度な演出による番組批判など、細かく挙げればきりがない。つい先日届いた投書にも「出演者の座っていた椅子が痛そうだった。見ててとても辛い」という、〝ふざけるな!〟と一蹴したくなる内容のものが届いた。  〝ふざけるな!〟と、一蹴したくとも、できないのがこの国の社会人の辛いところである。男は今現在、わざわざスーツを着込み、右手には菓子折りをもって都心から車で2時間弱かかる閑散とした村のあ

          再掲載:短編小説「上質」