エッセイ◆村人A(慎重というより臆病)の憂鬱◆
わたしは石橋を叩いてから渡る。
叩いて確かめたのに結局、渡らなかったりすることすらある。
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結局、ビビりというか、気が小さいというか、要するに臆病者なのだ。
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冒険はしない。
危ないところには近づかない。
多分、RPG(ロールプレイングゲーム)の世界に居たら、街から一歩も出ずに(魔物が出るから! たとえそれがスライムだとしても!)村人A、いやその他の村人たちの一人として一生を終えるだろうという自信しかない。
というか、それが絶対希望だ。
刺激の無い人生、バンザイ!
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ホラーものも好きでみたりするけど、それはあくまで、自分とは無関係だからだ。
無関係で危険がないからこそ、娯楽で楽しめる。その程度には卑小である。
いつも不思議なのは『なんでこの人、止められてる所に、わざわざ行ったり、見るなって言われるのを見たりしちゃうんだろう』ってこと。
わたしみたいなノミの心臓でも好奇心はあるが(むしろ好奇心だけなら、かなりある)それは危険が100%無いこと、に限られる。
そう、冒険者には不向きな人間だ。
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──そのはずだった。
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それで何の不平不満もありはしないのに、結構、巻き込まれ型の村人A
知らぬ間に村の外まで、引っ張られてきていたりして、逃げ足遅くスライムと出会う。
スライムごときではなくて、ええ?!スライム?!
何しろ丸腰なのだ。度胸もない。
HP1の身には、ポコッと一撃が致命傷になる。
身の程を知っていたから、村の隅っこで、ひっそり生きていたのに、「何でだー!」と叫びながらポコッとやられる。
それでも村人Aは哀しくも、それでは終わらない。何しろ目立たない分、使い回しが利くのだ。
村人Aは村へと戻される。
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さて、今度こそは絶対に村の外へなんか行かない! 頼まれたって出るもんか! 村人Aは改めて決意する。
お人好し過ぎたんだ。
キッパリと断ることも大事だ。
なのに、その ”しぶとさ” を買われてか、カミサマから言われて泣く泣く旅に出る。
そう、確かに慎重というより臆病の村人Aはそれ故に、しぶとかった。
やられて、もうダメだとなるのにHP0.00001とかで意外と生き残る。
これは喜ぶべきか悲しむべきか。
どちらにしても「なんてこった!!!」
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村人A(わたし)は慎重というより臆病だ。
変化も刺激も欲しくなんかない。
ただ、とにかく村の隅っこで何事もなく穏やかに暮らしたい。
なのにどうして、こんな旅の空にいるんだ?
村人A(わたし)は髪を掻きむしりながら、道の真ん中で「なんてこった!!!」と叫ぶ。
望まぬ冒険の旅は、まだ終わりそうにない。
「いつかこんな冬の終わりに─心象風景の欠片たち─」つきの より