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筑波山、万葉の恋の話

雑誌の類はほとんど読まないのですが、妹が「新幹線」を利用する機会があると、ちょくちょく貰ってきてもらうものがあります。
それが、トランヴェールです。

結構着眼点が面白い記事が多く、今年11月のトピックは「筑波山、万葉の恋の話」というのをXで見かけて気になっていたのでした。
丁度、私自身が相聞歌を作るのに嵌まっていたこともあり、これは見逃せません。

憧れの万葉集

ついこの間までの私にとって、筑波山と言えば「天狗党」でした(苦笑)。
ただし、これは幕末の頃のイメージでしかありません。古代に目を向ければ、「万葉集にも歌われた歌枕の地」という顔も持ちます。
上野誠先生によれば、山を詠んだ歌では富士山よりも多いそうですから、それだけロマンチックなイメージが湧きやすい山なのでしょうね。

というのも、筑波山は二つの峰から成り立ち、それぞれに「男体山」「女体山」という名前が付けられ、男女二神に見立てているとのこと。
そして、万葉集といえばやはり「恋の歌」。『常陸国風土記』によれば、春と秋のお祭りでは男女が筑波山に登り、歌を取り交わす風習があったそうです(歌垣うたがき嬥歌かがい)。
このときばかりは、日頃の縁を超えて一夜限りの「男女の契り」を交わすことも許されたといいますから、現代よりも、より恋の情熱も燃え上がったのではないでしょうか。

もっとも、

  1. 男性から歌い掛けなければならない

  2. 女性がそれに応えるが、一度は軽くやり返す(ジャブを打ったり、挑発したり……)

  3. 以後、お互いの思いを探り合っていく

など、男性にはなかなかハードルが高かったようです(苦笑)。
少なくとも、「勢いでなんとか女性をモノにしよう」なんていう男性は、モテなかったでしょうね^^;

そして、上野先生がピックアップして下さった歌で、私が「いいなあ」と思ったのは、次の2首。

筑波嶺つくばね新桑繭にいぐはまよきぬはあれど
君が御衣みけしし あやに着欲きほしも

《万葉集巻14の3350》

【現代語訳】
筑波嶺の新桑繭の絹で織った衣はあるけれど……あなたのお召し物が無性に着たい私です。

出典:『トランヴェール11月号』~上野誠氏の訳による

当時は、親しい間柄の男女で下着を交換する風習があったとのこと。

先日、須賀川の「風流のはじめ館」で開催された「実践的短歌教室」において、やはり男性(福島県出身)から寒さに打ち震える女性(岡山県出身)へ、「ももひき」を貸した……という意味の歌が披露されました。
そのとき、私がふっと想起したのがこの歌です。

「実践的短歌教室」の男女の関係が、その後どうなったかは伺えませんでしたが(笑)、どんな高級な織物よりも、相手の身に付けていたものを纏いたい……という女性の心は、私にもわかります。

上野先生の選歌より、もう一首。

筑波嶺のさ百合ゆるの花の夜床ゆとこにも
かなしけ妹そ昼もかなしけ

《万葉集巻20の4369》

【現代語訳】
筑波山の小百合の花ではないけれど……夜床でも愛おしい妻は、昼もまた愛おしいものよ。

出典:『トランヴェール11月号』~上野誠氏の訳による

これは、心の通じ合った夫婦ならではの歌という印象ですね。第三者から「貴女の夫は、こんなことを仰っていましたよ」なんて聞かされたら、妻としては間違いなく夫への愛情が増すというもの。
やはり男女の関係というのは、体だけでなく心も通じ合ってこそ続くものだと思いますから……。

夜床だけでなく、「昼の君も愛おしい」なんて言われたら、夫の愛情を感じずにはいられないのではないでしょうか。

筑波嶺恋愛相聞歌

そして、トランヴェールの記事を知る切っ掛けになったのが、歌人である「鈴木晴香」さんの投稿です。

多分、何かのきっかけで私のTLに流れてきたのでしょうね。

鈴木晴香さんの「架空の恋のお相手」となったのは、木下龍也さん。
お二方とも、若手の歌人という位置づけのようです。
(現代短歌の歌人の名前は、私はあまり知らず🙏)

そして私が強く惹かれたのは、やはり「男性視点」からの歌でした。

夏の暮れ あなたが踏み外すならば
ぼくはいつでも一緒にゆくよ

作者/木下龍也

死後にまた落ち合わないか
女でも男でもない御幸ヶ原で

作者/木下龍也

この二首は、男性側からの究極の求愛の歌ではないでしょうか。

多分、ここまで言い切れる男性はなかなかいないのが、現実でしょう^^;
ただ、今年「光る君へ」を視聴していて感じたのが、まひろと道長の関係について説明する「ソウルメイト」という言葉。
その真意としては、この木下龍也さんの歌の心境に、近いものがあるのではないでしょうか。
そんな風にも感じられました。

恋のあり方は、一通りではない。
そんな感想を抱いた、トランヴェールの記事でした。

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k_maru027
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