ランドセル2つ抱えて帰ってきたある暑い日とさんぽセル
ある暑い日の金曜日、小学校1年生になりたての息子が帰宅予定時刻を過ぎても一向に帰ってこず、わたしはとても心配していた。
息子の小学校では、正門を通過したときに、行きも帰りも必ず「通過しました」とメールが届くようになっている。
その日も、ちゃんと14時20分ごろに正門通過メールが届いていた。
徒歩20分の距離で子どもの足ではなかなかの距離。いつもなら、14時40分には家に帰ってくる。
それなのに、その日は15時前になっても帰ってこないのだ。わたしは心配になり、窓の外を眺めそわそわして、外に探しに行こうかと考えていた。
正門を出てから約40分後、15時頃にようやく息子が帰ってきた。「遅かったねっ」と駆け付けると、ぐったりとして倒れるように玄関に入ってきた。
ひとまずランドセルを置き、お水を飲み、ゆっくりさせたあと、息子に事情を聞いた。
「どうしてこんなに遅かったの?」
「だって今日暑かったからゆっくり歩いたしさ、タブレットも持って帰ってきたからランドセル重たかったの。それに、お友達のランドセルも持ってあげたんだ!だから重たくて。」
その日は金曜日。金曜日はタブレットを持ち帰る日だ。タブレットと言っても、息子の小学校のものはノートパソコンのようなもので、重さも結構ある。
ランドセルの中には、国語・算数などの主要教科の教科書複数冊とノート2冊、筆箱、給食袋、水筒(コロナ渦で水筒必須)、そしてタブレット。
大人であるわたしが持ってみても相当重たいと感じる重さだ。さらに、息子はお友達の女の子の分も持ってあげたそうだ。
「重たいよぉって辛そうだったから」
息子はふーっとソファに寝転びながらそう言った。
1つのランドセルでも重たいのに、2つも持って帰ってきたこと、お友達のために重たいランドセルを代わりに持ってあげたことを「偉かったね」と褒めた。
だけど、1つでも重たいランドセルを背負ってくることは大変なことだから、2つ持つことは止めるべきなのかな?と考えた。
2つ抱えて重たさによろめいて転んだらケガをするかもしれない。道路で転んだら大事故になる。
それに、ランドセルの中には、壊したら弁償しなくてはならない(最初に一筆書いた)タブレットが入っている。息子の分だけでなく、お友達の分も持っていたのなら、壊すリスク2倍だ。
お友達のためにと持ってあげた優しさを褒めつつ、
「ランドセルは1つでも重たいよね。2つだともっと重たいから転んだときに息子や友達がケガするかもしれないね。中にはタブレットが入っていて、壊れたら買い替えなくちゃいけないんだ。だから、今日は偉かったけど、一緒に頑張ってランドセルを背負って帰ろうって励まし合いながら帰ってこれたらいいね。」
言葉を選びながら、そんな話を息子にした。この伝え方でよかったのだろうか?
暑くて重たくて辛そうなお友達のためにとしてあげた優しさ。そういう心はこのまま大切に持っていてほしい。けれど、「してあげる」だけでなく、「一緒にがんばろうね」という気持ちを伝えあうことも大切なのではないかと思ったのだ。
***
そんなことがあってから2週間ほど経ったころ、ネットニュースを見ていて、面白い記事を見つけた。
さんぽセル?!!!ランドセルをキャリーにしてひいてる?!!
記事をまず見たとき、あまりの可愛い見た目に家族と一緒に吹き出した。
ランドセルがキャリーになってて、小学生がかっこよくひいている写真。
こんな商品が出来ていたなんて、知らなかった。ネットで話題、人気で数か月待ち、と書いてあるから、わたしが知らなかっただけでこれはすでに有名なのだろうか?
この『さんぽセル』は、栃木県日光市の小学生たちが発案したそうだ。すごい発想力。
どんなものなのだろうかと記事をいろいろ読んでいたら、そこにはへえっと驚くことが書いてあった。上に挙げた記事から引用すると、
現在「脱ゆとり」で教科書が大型化し、合計の重さはゆとり教育中の2002年の約2倍という調査も。小学1年生の平均体重は20kgだが、通学で背負う平均的なランドセルの重さは6kg。60kgの大人に換算すると、18kg(2リットルのペットボトル9本)の荷物に相当するという。
なんと今の小学生のランドセルは、20年前から2倍の重たさになっていて、6kgもあるそうだ。6kg…!?生後数か月の赤ちゃんの重たさだ。
息子は今20kg。先日2つのランドセルを抱えて帰ってきた日は、12kg以上の重たさを背負い、持ちながら、40分かけて帰ってきたのだ。そりゃぐったりするよねぇ…と、あの日の息子をまた褒めてあげたい気持ちになった。
こんな重たいランドセルを毎日数十分抱えている小学生たち。ランドセル症候群という症状に悩まされている子が多いと聞く。小柄な子は特に負担が大きく、早々にリュックに切り替える子もいる。
この『さんぽセル』は、そんなランドセルの問題を解決したいと小学生たち自らが考え、商品化が実現したものだ。
すべてのランドセルに取り付け可能で、キャリーに変身するそうだ。
考案した小学生たちは、現在高学年だ。ランドセルを使用する期間もあと少しだ。しかし、このアイディアを編み出し、商品化にまでつながったのは、自分たちだけでなく多くの同じ問題を抱えている小学生たちのためにと考えたからだろう。
わたしはまず、このことがスゴイことだと思った。「こんなものがあったらいいな」と考えることならだれにでもできる。でも、この子たちは考えるだけじゃなくて、その後商品化に向けて行動を起こした。
考える力がスゴイ!行動力もスゴイ!と感動すると同時に、「こんな子もいるからあなたもがんばってね」と、これからの子どもたちにそのことを望むだけじゃなくて、大人である自分自身が見習いたいと思った。
「こうなったらいいな」という願いをカタチにするために行動すること
だれも見たことのない、この『さんぽセル』は、多くの大人たちからの批判も殺到しているという。
grape TRENDなどの記事では、その一つ一つの批判に対して、考案した小学生たちが返答したコメントを載せている。一部引用すると、
「子供が楽しちゃアカン」
という批判には、
【小学生のコメント】
灯油缶を、いまも毎日背負ってる大人のひとがいうなら許します。
もし灯油缶を遠くに運ぶなら、大人はみんな軟弱にならないよう背負いますか?
きっとタイヤで運ぶと思う。おなじだよ!
「道路がデコボコだから大変でしょ」
という批判には、
【小学生のコメント】
そういうときのために、もとはランドセルなんだから、そのまま背負えばいいじゃん!
いつでも、すぐそれができるように作ってます。ちゃんと考えて文句言ってよ。
という具合に、キレキレに返答している。小学生たちの返しが面白くて、「そうだよね~!」と納得させられるのだ。他にもあるのでぜひリンク先へ。
これまでなかった新しいものが出てくると、ついつい批判したくなったり、「それどうなの?」と考えてしまうのももっともなことだ。
小学生たちがキャリーのようなランドセルをひいて歩いている姿なんて、見たことがないのだから。
けれど、何でも最初は「今までなかったもの」「見たことないもの」が世の中に現れ、だんだんと世の中に馴染んでいく。
なんでもかんでも批判するのではなく、「それすごいね!」「よく考えたね!」と認めることができる人が増えたら、これからもっとこの子たちのように自由な発想で新しいものを作っていく子どもたちが現れてくるはずだ。
小学生による小学生のためのランドセルー『さんぽセル』。
キャリーとしてひくこともできるし、普通にランドセルとして背負うこともできる。場所によって、キャリーにしたり背負ったり。
重たいランドセルで悩んでいるご家庭で、もしかすると使い始める子が増えて、全国のあちこちで見かける日も遠くないかもしれない。
もしかすると、ネットの批判のように、賛否の否が多いと、そう簡単には広まらないかもしれない。
けれど、わたしは思う。まずは、それが子どもたちにとって本当にいいものかもしれない、という「認める」気持ちから始まって、じっくりと様子を見て、良いものならどんどん取り入れていってほしい。否定から始まるのではなく、肯定から始まってほしい。
子どもたちが楽しく学校に通えることが一番なのだから。
*我が家で『さんぽセル』を購入するわけではないけれど(今のところ)、面白いなぁと思ったので、息子のランドセルにまつわるエピソードと絡めて、紹介した。