映画を観たあと、その主演俳優にインタビューしてオーディションから撮影までの話を聴いてみた話。①
第22回 東京filmexコンペティション部門
「青春墓場」
日本 / 2021 / 96分
監督:奥田庸介 ( OKUDA Yosuke )
中華料理店で働く男とその同僚の女、そして彼女の高校生の息子。小劇団の女と漫画家志望の男。彼らの人生は交錯し、やがて意外な結末を迎える。
『東京プレイボーイクラブ』と『クズとブスとゲス』が東京フィルメックスで上映された奥田庸介の新作。
なんだか映画のレビュー記事みたいな書き出しだ。
しかしこの記事は、映画に精通しているインタビュアーがその主演俳優をインタビューしているわけでは決してなく、たまたま居酒屋で出会った男の強烈な印象に「こいつは一体何者なんだ!?」と思った在宅ワーカーのサラリーマンが怖いもの見たさでインタビューをしているものであると言うことを先に言っておく。
そんな筆者がインタビューを続けているのが田中惇之と言う同い年の俳優だ。
2021年の夏に出会い、年末にエンタメの聖地と呼ばれる東京キネマ倶楽部で一人芝居を上演するまでの田中をインタビューしている最中に、主演映画が映画祭で観られると言う話を別口から知ることとなった私は東京filmexの会場へと向かった!
そして後日、あの日スクリーンで最高のパフォーマンスを魅せてくれた田中惇之にインタビューしたのだ!!!
いいぞ俺!なんか凄いぞ!!!!
俳優のオーディション
ー飛田
ちょっと凄い俳優さんだったんじゃないですか!
無名の人は主役張れないでしょ!?
ー田中
素敵だろ?笑
まだみんな知らんけえ内緒にしとってよ。笑
ー飛田
こう言うのってどうやって出演が決まるんですか?
オーディションとかするんですか?
ー田中
オーディションよ!
主要キャストはほとんどオーディションじゃないかな?
ー飛田
オーディションで「主役はこの人だ!」って思わせるものがあったって事ですよね?
ー田中
ちょっと違くて、その時の奥田監督のオーディションは勝ち抜き戦だったんよ。
俺はそれで優勝して主演を勝ち取ったって言う、あんま他では聞かない入り口かもしれんね!
ー飛田
オーディション自体のイメージが全く湧かないんですけど、どう違うんですか?
奥田監督のオーディション
ー田中
俳優のオーディションってすげー気持ち悪いのよ!笑
なんか待合室みたいなとこで待たされて、5人づつくらいとかで別室に呼ばれて、長机に5〜6人偉そうに座った奴らの前で自己紹介して、事前にもらった台本の抜粋とかを演技するわけ。笑
向こうにはこっちのプロフィールが事前に渡っとって、それをチラチラ見ながら偉そうに質問して来るんじゃけど「誰やお前?」って。笑
で、後日メールで「厳正な審査の結果…」とか言って合否を知らされる。
でも奥田監督は「芸術に優劣をつけることは間違っている」ってした上で「でも我々は他者を押し退けて自分を打ち出して行かなければならない」って事を伝えたうえで、目の前の人を芝居で打ち負かして下さいってスタイルのオーディションになっとって、勝ち上抜いて優勝した人が主演になるって感じだったのよ。
じゃけえ目の前でやり合う対戦を参加者全員が見て、その場で出演が決まって行くけん、負けた人間は何も文句言えんよね。
ー飛田
芝居で打ち負かすって、具体的に何をするんですか?
ー田中
むっちゃ怖いよ?笑
色々やったけど、一番わかりやすいのは「ノアの方舟」ってやつで「あと5分でノアの方舟が出ます。定員はあと一人です。乗った方の勝ちです。よーいスタート!」って。笑
相手の身体に触れたり、暴言を吐いたりしちゃいけなくて、あくまでも相手を説き伏せて合理的に乗るってのが条件なのよ。
ー飛田
それをお芝居でやるんですか?
ー田中
芝居というか、既に状況が与えられとるけえ、変に演技する必要がないんよね。
「そうだと仮定して、自分ならどうするか?」だけじゃないかね?
映画でも舞台でも、お客さんが観たいのはお芝居じゃなくて「こんな人」とか、言うたら人間が見たいじゃん?
「うわ〜上手〜」って思わんじゃん「頑張ったね〜」って幼稚園児の学芸会くらいのもんじゃろ?笑
じゃけえ芝居しようとしちゃった人は自滅してったね。
ー飛田
確かに!
「この人上手だなぁ〜」ってテレビ観ておもわないですね。笑
じゃあ田中さんはどうやってノアの方舟に乗ったんですか?
ー田中
俺はね、一回も乗らなかったのよ!笑
ー飛田
ん?乗った方の勝ちじゃないんですか??
ー田中
それって俳優が演じる舞台上の設定じゃろ?
映画のキャストを決めるオーディションなんじゃけえさ、5分間何も喋らずにボケーっとしてノアの方舟に乗った人と、5分間喋りまくって乗らなかった人だったら、後者の方が俳優としての判断材料は多いじゃん?
「乗りたいです!」同士だと平行線じゃけえ「乗って下さい」って降りたうえで「その代わりね…」って5分間ノアの方舟に乗った君に頼みたい事を伝え続けたわけ。笑
ー飛田
うわっ!頭おかしい!!!
それってかなりの勝負じゃないですか?
ー田中
いやいや!
大袈裟かもしれんけどさ、俳優にとってはこの作品に出られるか出られんかって勝負と言うか「そこで生きられるか生きられないか」だし、そこでやってけないんならもう俳優を名乗ったただの一般人なわけじゃん?
じゃけえ目の前のノアの方舟に命懸ける事と、自分達が置かれとるこのオーディションでの状況って一緒じゃと思うんよね。
それは監督だって同じだったんじゃないかね?
ー飛田
「落ちてもいい」って事ではなくて、ご自身なりの覚悟というか「これでいくぞ!」で勝負してたわけですね。
ー田中
それしか出来んよあんな状況で!笑
つまり「乗れたか乗れなかったか」じゃなくて、5分間で「どっちがかましたか?」って事だと思うんよね。
二人の対戦を観て、他の参加者から「どっちが良かった?」って多数決もあった上で最終的に監督が勝者を選ぶフリースタイルダンジョンみたいな対戦方式かね?
ー飛田
すみません、それ(フリースタイルダンジョン)知らないです。苦笑→今は知ってます!
でもみんなの前でその戦い方をすると対策を練られそうじゃないですか?
ー田中
実際にそっから「乗らない作戦」は横行したよ!笑
でも俺がしたのって、あくまで最初の突破口であってさ、結局何で勝負するかって言うたら「これが俺だ!」って事を愚直に相手にぶつける事じゃない?
要はそれを引き出す環境を与えられとるわけじゃけえさ、相手をどうこうってのは、言葉のやりとりとお芝居の設定上の関係でしっかり受け止める事さえ忘れんかったら、罵倒する必要も手を出す必要もないよね。
「俺だ!」VS「俺だ」で初めて土俵に上がれるわけじゃけえ、対策も何も「さっさと来いよ」って話じゃろ!笑
オーディションの戦い方
ー飛田
相手が強ければ強いほどいいって事ですか?
ー田中
そんなワクワクするもんでもないよ。笑
そりゃあさ、相手が出した「俺だ!」が大した事なかったら「そんなもんかいっ!」って自分側の理屈で片付けられるじゃん?
「俺だ!」がちょっと背伸びしたハッタリの奴なんか、不良デビューした中学生みたいで勢いはあったりするのよ。
でも「やべーこいつ!」って奴はさ、もう理屈じゃないじゃん?笑
ー飛田
でしたね!!!笑
理屈じゃない人の理屈!
ー田中
そう!!!笑
そんな人との対戦はさ、結局「俺は何だ!?」って言う自問自答もあるじゃない?
「あ、俺ってこうなんだ!」って事も出て来るけど、そう言うのって後から気付くよね。笑
じゃけえその時その場でドン!っとぶつけられたら、よくわからんけどこっちもドンっ!!!といくしかないじゃん!
ドン!っとかまして来る人より手強かったのは、完全な優しさで包み込んで来た人が流した涙に「こいつマジで嘘ついてないわ!」って思った時!!!
震えた!!!!
その人とは後に舞台でご一緒する事になって今でもリスペクトしとるけど、同い年で素敵な俳優さんやね。
ー飛田
その人にはどうやって勝ったんですか?
ー田中
自分で自分の首絞めた。笑
ノアの方舟に乗れないって事は、設定上では死ぬって事じゃん?
「あなたの命を奪って俺は生きられない」ってのがその人の言い分だったわけ。で、俺に対して「生きて下さい!」って懇願するのよ!
参った!!!!
この人には勝てんと思ったけん「俺が死んだらこの人まで死ぬ必要はない」と思って思いっきり自分の顔面をシバきまくったんじゃけど全然倒れんかったけえ、最後自分で首絞めたとこで止められたんよ。
ー飛田
え、やば…
マジで意味わかんないです
ー田中
俺も!笑
オーディション、その後
ー飛田
それで決勝に勝ち進んで優勝!主役の座を勝ち取ったわけですね!!!
ー田中
それがそう言うわけでもなかったのよ。
確かにその時優勝して、奥田監督の新作に主演で選ばれたんじゃけど、マジで色々あって2年後に同じオーディションにもう一回参加して、そこでも優勝してようやくって感じじゃったかね?
ー飛田
あ!!!映画祭で監督が言ってたやつですね!
ー田中
そうそう!
大変だったみたいよ。
俺と監督は同い年でさ、共通の友人もおって実は監督の「クズとブスとゲス」って作品にも俺は出とるんよ。
じゃけえ大体の経緯は監督本人から聞いとって「何とかしてこの人の作品を形にしたい!」って思いがずっとあったね。
ー飛田
その作品調べました!
まだ観てはないですけど。
奥田監督自身の作品に対する想いがひしひしと伝わって来る分、なかなかタフな状況だったんですね。
主演は決まったのにもう一度オーディションを受けたんですか?
ー田中
上映後に監督も言うとったじゃん?
元々最初のオーディションを仕掛けた人ってのがさ「例のあの人を主演で」って話だったんじゃないかな?
そのオーディションの途中で監督から「次回作の主演をこの中から決めます!」ってなったのよ。
で、その話自体は流れたんじゃけど「新作の主演」ってのは監督が約束として持っとってくれて連絡してくれたんよね。
凄い真っ直ぐな人でね、俺は心からリスペクトしとるけん「もう一回オーディションやります!」ってなった時「何かお手伝い的な事が出来ればいいな」って思っとったんじゃけど、監督から「参加して下さい」ってなった時にはさ「確かに1回目では決まったけど、ここで安心して任せてもらうためにはもう一回優勝するしかない!」って鼻血出るくらい気合い入れて挑んだね!!!!
ー飛田
で、優勝?
ー田中
優勝!!!!!
まーじで怖かったよ!笑
気が気じゃなかった!!!!
でも1回目のオーディションが「我が我が」だったとしたら2回目は「この作品背負う覚悟」で勝負しとった気がするね!
「お前らやれんの!?」って!笑
まだ自分もやってないのにね!笑笑
類は友を呼ぶと言うが、やはり魅力的な男同士と言うのは引き寄せ合うものなのだろうか?
私は奥田庸介監督を映画の上映後にステージ上で作品の質疑応答に応えている姿を見ただけだが、田中から聞く話と相まって、否、田中惇之と言うフィルター越に知った奥田庸介監督と言う人物にも強烈な興味を持つ事となった。
あの映画に田中はどんな心持ちで挑んだのか。
次回は、いよいよ撮影へと向かう田中の心境をお伝えします。
「青春墓場」は私が観た映画の中でダントツの1位だ!