映画を観たあと、その主演俳優にインタビューしてオーディションから撮影までの話を聴いてみた話。②
なんとも贅沢なタイトルだ。
このインタビューが完全にラッキーパンチだったのは、こちらをご覧頂ければお分かり頂けるだろう。
そんなわけで人生初のインタビューを続けていたところ、その俳優さんが主演を務める映画を観る事になったと言うわけだ。
その人物こそ、俳優の田中惇之くんだ。
彼が主演を務める映画「青春墓場」を観たあと、その映画のオーディションから話を聞く事が出来た。
今回は、そんな彼が主演映画に挑むまでの話だ。
俳優の記憶力
ー飛田
いつも思うんですけど、台本ってどれくらいで覚えるんですか?
ー田中
それがわからんのんよ!笑
よく聞かれるんじゃけどホンマにわからん!
サミュエル・L・ジャクソンは1回読んで覚えて、2回目で役のイメージがほぼ完成させるって話聞いた事あるけど、あれ絶対嘘だと思うわ!!!
ー飛田
でも色んな舞台に立ってたら、覚える量もハンパなさそうですけどね。
ー田中
あのねぇ、確かに年間20本も30本も舞台やりよった頃はね、毎日ギンギンだったよ!笑
例えばさ、明日本番の舞台2つと稽古場が2つでもう4作品あるじゃん?
でも今このタイミングで覚えにゃいけん台本が1つあって、そこに「あそこ変更になりましたー」とか「今度のオーディション用の台本でーす」とかが送られて来るわけよ!笑
ー飛田
それどうやって覚えるんですか!?
ー田中
覚えられないのよ!!!!!笑
ー飛田
!?
ー田中
覚えられるわけないじゃん!笑
もしサミュエル・L・ジャクソンが台本2回読んで役作りが出来て、そのあと何回か読んで撮影に行くくらいじゃったら、世界中サミュエル・L・ジャクソンの作品で溢れ返っとるって!笑
まぁその分、質を深める時間に使っとるんじゃろうけど。笑
日本なら確実に餌食にされとるね!笑
で、飽きられて捨てられて忘れられとるわ。
あ、じゃけえそんなにやってないんか!笑
だとしたらすげー効率いいね!!!
ー飛田
早過ぎて訳わかんないです!笑
結局、何も覚えないまま現場に行ってたんですか?
ー田中
だって俺サミュエル・L・ジャクソンじゃないもーん。
でもそれで突っ撥ねたら何もならんじゃん?
俺が既にサミュエル・L・ジャクソン並みの記憶力と技術を手に入れとったらここにおらんって!笑
そうじゃないからとにかく頑張って現状を打破せにゃいけんわけよ!
そう思って実際ホンマに鼻血出るくらい毎晩ガリガリ台本読みまくってさ、それ以外の事考える時間も何かやる時間もないけえ、その時一緒に住んどった妹が飯作ってくれたり翌日の稽古と本番のスケジュール管理から乗る電車の時間まで、身の回りの全部の事をやってくれて、移動時間の全てを台本読み込む時間に充てるわけ。
その結果どうなったと思う?
ー飛田
なんか、ゾーンに入る的な事ですか?
ー田中
字が読めなくなった!
ー飛田
えー!!!!!
ー田中
何も出来んなるよ!
字が読めんかったら!笑
正確には「字は読めるんじゃけど意味がわからん」って感じだったね!
じゃけえ声に出して音を聴いて文章を理解せにゃいけんかったのよ!笑
ー飛田
脳が拒否してるじゃないですか!!!
ー田中
でもさ、やる気あるけど仕事がないって時期が長かったけん、そんなんなっても無茶苦茶楽しかったのよ!
稽古場におれる時間も限られとったけん、とにかくギリギリまで覚えて「何か文句あるんなら言うてみい!」って気持ちで元気いっぱいだったと思うよ!笑
どの現場行っても全部楽しかった!!!
「あーようやく仕事してんなー俺!」って!笑
じゃけえ台本が、どのタイミングで覚えた事になっとるんかホンマにわからん!笑
「覚えようっ!」って思ってやっとらんのんかも!
ー飛田
「青春墓場」の時はどうだったんですか?
ー田中
あぁそっか!
その話じゃったね!!!
いけん、いけん!笑
映画の台本はね、舞台の台本より文量少ないよ。笑
ー飛田
え、そうなんですか!?
ー田中
舞台はお客さんが「そこがまるで〇〇のように」思わせるもんで、色々あるんじゃけどお客さんをその状態に誘導?するための仕掛けとして言葉のやり取りで関係性やら空間が見えて来るけど、映像はそれをワンカットで説明出来るけえね。
役作り
ー飛田
「青春墓場」の撮影には実際どのような準備をしたんですか?
ー田中
あれ撮影したん2年前(2019年)じゃけえね!
明確に覚えとらんけど、何もせんかったと思うよ!笑
ー飛田
え、役作りとかしないんですか!?
ー田中
役作りって何か偉そうに聞こえるんよな〜
ー飛田
役のために体重落としたりする人とか凄いじゃないですか!
ー田中
あ、体重はむっちゃ落としたよ!
売れてない漫画家の役だったけんね。
その直前までやりよった作品でトム・ハーディみたいな身体しとったけん、そいつ漫画家辞めても他の事で食っていけそうじゃん?笑
でも体重落とすのって誰でも出来るけん、あんま威張って言えんよ。笑
「体重落として凄い!」とか「こんなに大きくして凄い!」って祭り上げられる俳優さんは絶対恥ずかしい思いをしとるよ?
「そこじゃないんだけどなぁ〜」って!笑
その辺のモテ男だってそのくらいやっとるって!笑
ー飛田
ちなみに何kgくらい落としたんですか?
ー田中
18kg!一か月で!!!
あれだけ言うて自信満々じゃけえね!笑
ー飛田
フリが長い!
いや、一か月で18kgはボクサーでも大変ですよ!
ー田中
多分それも役作りの一部ではあるんじゃけどさ…あ、わかった!
本番とか撮影までに「どんな役なんかのぉ〜」って色々アプローチしてみる事が役作りなんじゃない?
ー飛田
そうじゃないんですか?
ー田中
いや、そうなんじゃけどさ「役作りのためにこれやってます!」ってのは嘘くさいじゃん?
「役作りで体重落としました!」って、その辺のOLでも出来る事持て囃されても恥ずかしいじゃん?笑
そんなん言うたら本番までの時間は全部が役作りじゃけえさ「体重落として凄いですね!」とかテレビで騒がれた俳優さんたちは本当に恥ずかしかったと思うよ!
特に日本は!笑
ー飛田
さすがに体重落とすだけが役作りだとは思ってないですよ!笑
ー田中
でも「役作りで…」とか言ったらなんかカッコがつきそうじゃん?笑
実際に準備した事
ー飛田
田中さんが「青春墓場」の撮影前に準備された事は何だったんですか?
ー田中
じゃけえホンマに何もしとらんのんだって!笑
ー飛田
田中さん…笑
ー田中
強いて言えば「何もしない」をやった。
ー飛田
…
ー田中
いやホンマに!!!
ー飛田
それプーさんでしょ!
ー田中
プーさんも言ったんかもしれん!
でもホンマにそうよ!!!
それだけ充実した時間を取れたって事!
普段は色んな現場やら作品やらを掛け持ってガーっとやるじゃない?
ガッツリ映画の、しかも主演なんかやらせてもらうのも初めてじゃったけんさ、前後に仕事を何も入れんかったわけ!
そしたら最終的に「何もしない」をするのがベストだったわけよ!
ー飛田
…聞きます!笑
(田中は満面の笑みでトイレに行った)
ー田中
撮影入る何週間か前から監督とキャストとで読み合わせがあってね、その読み合わせしていく中で監督から細かいニュアンスの説明やら、本当に丁寧なディレクションがあって、スタッフさん含めて現場に入る前には作品のイメージを共有しとったんじゃないかね?
そのお陰でキャスト同士では割とブレる事がなかったんじゃないかなと思うよ。
その本当に微妙なニュアンスから見えて来る人物像がだんだん明確になってきた感覚はあったね。
演者の目線を持って演者を最優先に考えてくれる監督じゃけえさ、無駄にあれこれ考えて色んなもの付け足すって事に不潔さを感じて来るのよ。笑
無駄を削ってシンプルにしていく事の方が純度高くなるじゃん?
ー飛田
それで何もしなかったんですか?
ー田中
そのくらい信頼関係があったんかもね。
その分色んな事に気付けた期間でもあったよ。
台本上で起きる事象とは違う事が、実際の生活では起きる訳じゃけえさ、なんとなく「こう言う奴なのかな?」ってそいつの感覚で捉えてみたりとかさ。
最初は頭でこねくり回して「こうかな〜?」とか考えてみるんじゃけど、思考を変えると行動が見えて来ると言うか、そうやって近付けていけたとこはあるかも!知らんけど!笑
でも凄い贅沢な時間だったよ。
ー飛田
思ってたのとだいぶ違いましたよ!
なんかむちゃくちゃカッコいいじゃないですか!!!
ー田中
いや正直覚えてないよ?
やり方の正解とか知らんしね!
多分作品によってもアプローチって違うと思うけん「俺はこうしてます!」って事じゃなくて、その時はそうだったって事!多分!!!
ガーっとやって、あとはなるべく作品の事を考えんようにして過ごしてみたのよ。
ー飛田
「何もしない」をしてたんですね!
ー田中
いや、でもあれホンマどう言う感じだったんじゃろ?
えっとね、あ〜「俺の中から俺を消していく感じ」かも!違うかな?笑
でもそれが一番近い感じかも!
ー飛田
なるほど!
話聞いてるとわかるような気もするんですが、具体的にどう言う事なんですか?
ー田中
それはホンマにわからん!笑
ごめん!!!
何なんやろね?
でもさ、自分の中の情報を台本と、読み合わせの時のディレクションだけに出来たらさ、私生活での視界が変わっていくと思わん?
そうやって役の感覚とか思考を探っていく事が、役作りって言われるもんなんじゃないかね?
俺は全然そう言う感覚わからんけど。笑
ー飛田
え、俺今誰の話を聞かされてたんですか!?笑
俳優の仕事
ー田中
じゃけえまぁ「俳優」とか「芝居」とかって、そんな特別大層な職業じゃないってことよ!笑
書いてある言葉の意味を理解して会話を成立させるってだけよ?
あとはどれだけ素敵な人間をデザインするかじゃない?
その為に沢山人間を知った方がええし、台本に描かれとる世界観を知るためには、やっぱ字が読めにゃいけんよね!笑
ー飛田
それが出来るのが俳優の凄いところじゃないですか!
ー田中
でもそれが仕事じゃけえね!笑
そんなん言うたら飛行機操縦する人とかも凄いじゃん!俺出来んもん!!!
でも10年間みっちり飛行機乗る訓練しとったら誰でも乗れそうじゃん?知らんけど。笑
でも操縦出来るようになるまでは、飛行機で人乗せて金稼げないじゃない?
じゃけえ「一応飛行機は操縦しとるんじゃけど飛んどるかどうかはわかりませんよ?」ってのが俺の今の状態なんじゃない?笑
「どこ飛んで行くかは俺も知りません」って!笑
全日空とかじゃなくて自作の飛行機じゃけどね。笑
「それを言っちゃオシマイ」と言う感想だが、田中はそんな自分の仕事が大好きなんだと言う印象だ。
映画に関する情報は少ないが、一人の俳優の作品に取り組む姿勢を知れたような気がした。
田中は自分の事として言わなかったが、実際のところ、その感覚で過ごす日常を楽しんでいるのではないかと、普段の田中を見ているとそんな気がしてくる。
次回は、ここまで準備をしてきた田中が主演映画に挑む。
撮影中の話をご紹介します。