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#8 FRUITS ZIPPER 松本かれんさんに救われた話

心が荒んでいた。特別な理由があるわけじゃない。なんとなく仕事に身が入らないとか、人と話すのが面倒だとか、日常の些細なことが積み重なって、世界がどんよりと曇って見える。そんな日が、ふいにやってくる。

そんなとき、わたしは無意識にSNSを開く。スクロールしながら、流れる情報に身を預ける。救いを求めているわけではなく、ただ現実をぼやかしたいだけだった。

その日も、なんの気なしにSNSを眺めていたら、ある動画が目に留まった。FRUITS ZIPPERの松本かれんさんが「一生懸命頑張ります」と言っているシーンばかりを繋ぎ合わせた動画だった。

「一生懸命頑張ります」
「一生懸命頑張ります」
「一生懸命頑張ります」

彼女が、いろんな日のいろんな瞬間に、変わらない笑顔でそう言い続けている。

ただの決まり文句のはずなのに、彼女が言うと、どうしてか胸に響いた。語尾が弾む日もあれば、少し眠たそうな日もある。どの「一生懸命頑張ります」にも、その日の空気が滲んでいて、でもすべてに共通しているのは、彼女の真っ直ぐなまなざしだった。

気づけば、わたしは動画を何度も再生していた。彼女の声を聞いているうちに、「一生懸命頑張ります」という言葉が、ただの意気込みではなく、日々を積み重ねていくための小さな魔法のように思えてきた。

思えば、大人になるにつれて「頑張る」という言葉に慎重になっていた気がする。やりたくないことを押し付けられるときに使われたり、気軽に言うと「無理しなくていいよ」と返されたり。頑張ることは、どこか重たいものになっていた。

でも、松本かれんさんの「一生懸命頑張ります」は違った。

彼女は、その言葉を純粋なまま使っていた。そこには計算も飾りもない。ただ、目の前のことにまっすぐ向き合おうとする意志があった。

それを見たとき、わたしは自分の「頑張る」を取り戻したような気がした。

頑張ることを、もっと素直にやってみてもいいのかもしれない。余計なことは考えず、ただ「一生懸命頑張ります」と言ってみる。

翌朝、仕事に向かう前に、小さくつぶやいてみた。

「一生懸命頑張ります」

松本かれんさんのように、笑顔では言えなかったけれど、ほんの少しだけ背筋が伸びるのを感じた。不思議と足取りが軽くなった。

たぶん、松本かれんさんがこの言葉を信じているからこそ、わたしの中でも、ほんの少し力を持ち始めたのだ。言葉は、発した瞬間に少しだけ本当になる。

彼女は、どんな日も変わらず「一生懸命頑張ります」と言う。それはきっと、自分への誓いであり、応援してくれる人たちへの約束でもあるのだろう。そして、その言葉にわたしのような誰かが救われている。

わたしも、もう少しだけ信じてみよう。

「一生懸命頑張ります」

たとえどんな日でも、彼女みたいに。まっすぐに。

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