コロナストレスに負けるな! vol.2
前回のコラムでは
・ストレスを感じやすい体質とは
・ストレスにより起こる症状の特徴
の2点を中医学的視点からお届けしました。
今回は
・ストレスとの付き合い方、向き合い方
について、自分自身大きな気づきがあったケリー・マクゴニカル博士の著書の内容をご紹介させて頂きたいと思います。自分自身のためだけではなく、子育てにおいても非常に役に立っています。
このコロナ禍における「ストレス」に対して、どう向き合っていくべきか、どう思考していくべきかのポイントをまとめてました。
【ストレスは悪いものではなく自分のためになるという考え方】
ストレスについて研究されているスタンフォード大学のケリー・マクゴニガル博士の膨大な研究に基づく見解が興味深いです。
「ストレスは体に悪い」と思っている人は「ストレスは役に立つ」と思っている人よりも死亡リスクが高まるそうです。
私達はストレスは体に悪いと思い込んでいます。実際に病気を発症する原因の多くにストレスが関与していることは間違いありません。しかし、それは、ストレスに対する受け止め方によって大きく変わるとしたら?
ケリー・マクゴニガル博士は、ある物事についてどう考えるかによって、その物事から受ける影響は変化し、合気道のごとく、受けるストレスが自らの成長の力に変わると説明しています。
ある学校の入学式に、学生に「ストレスは体にとって害になる」という内容の動画を見せたグループと「ストレスは悪いものではない、自分のためになる」という内容の動画を見せたグループとを比較した際に、後者の方がその後3年間の成績も健康状態も良く、幸福感が大きく、アウトバーンしてしまう生徒の数が圧倒的に少なかったという研究データも紹介しています。
実際にストレスをポジティブにマインドセットを行うだけでも、その後の人生においてもうまく体に良いストレス反応が起こるようになるそうです。
この考え方が定着すれば、あとは頑張らなくても、自然と行動に変化が生まれるということを挙げています。この思い込みの前段階がある場合、全くストレスのない生活を送っている人よりもストレスを強く受けている人の方が健康状態が良いことも分かっています。
「ストレスを避ける」という、一見自分を守るために重要にみえる行動は、充実感や人生に対する満足度や幸福感を著しく低下させ、孤立をさせてしまう可能性が高いと指摘しています。
ある実験では、「ストレスをできるだけ避ける」という対処法で生活している人はその後の10年間でうつ病になる確率が高いことも分かったそうです。
ただ、ストレスといっても、日々のちょっとしたことから、日常でなかなか経験しないような酷い体験まで色々とあります。あまりに理不尽な、非人道的なストレスにおいては、その経験があなたのためになるとは言えないこともあります。その場から逃げた方が良いということもあると思います。全てにおいてストレスを避けるという選択肢がよくないと言っているわけではありません。極端に酷いストレスの場合は当てはまらないのではないかと思います。しかし、二度と立ち直れないほどのダメージを受けたとしても、それを乗り越えられる可能性は残されている、と説明しています。
何事もいい風に、楽観的に捉えましょうという意味ではありません。
ただ、ストレスは体に悪いものという認識のまま生活し、なるべくストレスを避けて生活することが結果的に病気を引き起こしやすくなるということを知っておことが重要なのです。
人間はストレスを感じたときに、その思い込みによって悪いストレス反応と良いストレス反応が起こります。例えば、事故を目撃して自分でも信じられないほどの力で人を持ち上げたり、過度なプレッシャーの中での試合やプレゼンでいつも以上の力が発揮できた!といった時は良いストレス反応が起こっている状態の良い例です。
【良いストレス反応を起こすためのマインドセット】
ストレス反応には何種類もあるということです。
脅威反応が起こる時は血の気がひき、手が冷たくなります。万が一のために出血量を最小限に抑えるために体が血管を収縮させるように反応します。
チャレンジ反応が起こる時はむしろリラックスし、血流量は最大になるため、このような反応が起こりやすくなれば大きな力を出せるようになります。
実際に、締め切り直前に頑張っている時やスポーツ観戦できわどい勝負にドキドキした時など、ストレスを強く感じている時は脳が活性化され、エンドルフィン、アドレナリン、テストステロン、ドーパミンなど何種類もの化学物質が分泌され、やる気が出ます。
チャレンジ反応を起こしやすい人は老化が緩やかで心臓血管や脳の健康状態が優れている傾向にあり、生涯において脳の容積が大きいことも疫学研究で分かっています。
ストレスを感じたときには、コルチゾールとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)というステロイドホルモンが副腎から分泌されますが、これらは働きが異なります。
コルチゾールは糖代謝や脂質代謝を高めて体と脳がエネルギーを使いやすい状態にします。消化や生殖や成長などストレス時にはあまり重要でない生物的機能を抑える働きがあります。
DHEAは、脳の成長を助ける男性ホルモンです。ストレスの経験を通じて脳の成長を助けます。また、コルチゾールの作用を抑制し、創傷の治癒を早め、免疫機能を高めるなどの働きがあります。
どちらも体に必要なストレスホルモンですが、長期的なストレスの場合、コルチゾールの割合が高くなると免疫機能の低下やうつ病などの症状が現れる可能性があり、DHEAの割合が高くなると不安症、うつ病、心臓病、神経変性などストレスに関連するさまざまな病気のリスクが低下する傾向があります。
実際に、ストレスについての考え方が変わるように導くことでDHEAの分泌量が高くなり、体の生理的状態に変化が起こるそうです。考え方が変わるだけで分泌されるホルモン量に変化が生まれ、実際に物事に対して粘り強くチャレンジするように変わっていくというのは非常に興味深いですね。
【緊張のドキドキは「ワクワク」だと思い込む】
私の知り合いにもこの考え方を若いころから身につけている人がいます。
その方が言うには、
「頼まれごとは、試されごと」
「緊張や不安のドキドキは、ワクワクだ」
と自分に言い聞かせて、何事にもチャレンジするように心がけているそうです。実際に現在もさまざまな分野において活躍されている方なのですが、普通の人にとってはストレスと思うようなことにも躊躇せずチャレンジし、難なくうまくこなしているようにみえていたのですが、実際に彼の脳内にはこのような思考が染みついていた事を知り、とても納得しました。
不安に感じている時は「興奮している”しるし”だ」と判断するだけでも自分の実力が最大限に発揮することができるようになり、不安を避け続けると次の不安に対峙したとき、ますます不安が感じやすくなります。心臓がドキドキしてきて呼吸が早くなってきたら、それは体が自分にエネルギーを与えようとしている反応であり、緊張していると思ったらストレス反応のおかげで返って力が湧いてくるということを理解しておくことが大事なのです。そうすることで、普段は委縮してしまって出来ないことが出来るようになったり、自分に自信が持てるようになります。マインドセット効果はプラセボ効果よりもはるかに強力で、長期的に雪だるま式に増大していくようです。
恐怖や不安やストレスを感じなくなれば、やりたいことができるというのは間違いです。博士はプレッシャーのかかる状態のときにリラックスしようとするのではなく、受け入れるということを提案しています。身体で起こる反応というのは、すべて自分を守ってくれるために働きます。
風邪の時、熱がでるのも、傷が出来たらかさぶたができるのも、ストレスを感じたら心臓がドキドキするのも、すべて自分のために起こる反応だと受け止め、抑えよう、鎮めようと思わないほうがよい方向に進む可能性が高いということです。
何か一つでも自分のためになったことを見つけたり、日ごろからワクワクする癖をつけてみると視界が変わって見えるような気がしますね。
100年に1度と言われるこの危機の中で、どう思考し、どう行動するかが重要になってくるのかもしれません。この危機をうまく乗り越えた先には、明るい未来が待っているのかもしれません。ストレスに対する見え方を変え、これまでより幸せだと思える人生を、少しでも多くの人に訪れることが心から望まれます。