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【吉行淳之介】心にポッカリ穴をあけてくれる小説家
心が奪われる読書について。
吉行淳之介という作家がいました。
(1924〜1994)
芥川賞、谷崎賞、読売文学賞、
野間文芸賞、芸術選奨などを取り、
一時期、文壇の顔でもありました。
そんな吉行淳之介の
文学的な特徴は、
エロスの深み、性の不条理を
根気よく描いたこと。
吉行さんの小説を読むと、
なぜかだんだん無気力になる。
心にポッカリ穴が空くんです。
だから、読み終わると
無性に虚しく哀しい。
外に出たくなくなる(笑)。
人とも会いたくなくなる。
物憂げになる。
文章が明晰で冷静なのに、
描かれているのは、
命の淋しさについて
だからだろうか?
一般的に、
作家は本来、虚無感は抱えてる。
だから、作家になるんですよね。
でも、その虚無感は
創作のガソリンであるのですが、
虚無感そのものを書いてる作家って
意外と少ない。
普通は読書って、
感動したり、癒やされたり、
何か焼付られたりするものと
思っていると、
吉行さんの場合、
あてが外れてしまう。
でも、読書は作家の数だけ、
世界があるわけで、
吉行さんの虚無感も
悪いものではない。
むしろ、吉行さん流の
虚無感、喪失感は、
妙にクセになる味で、
他の作品も読みたくなる。
朝から読んでしまうと
喪失感に浸され、
夜まで何もできなくなる
おそれもありますが、
もう、こっちも50過ぎの
おっさんだ、
意外と免疫ができてるかも
しれません。
吉行淳之介は親しまれたのは、
昭和後期で、
読者だったのは、
今60、70 代の人たちでしょう。
紙の本は少なくなってきました。
でも、最近、
中公文庫などで
ぽつぽつ復刻もされている。
好きな編集者がいるんでしょう。
それにしても、
生きる力、
というよりは、
死の淵をさまようような読後感。
感動や癒しや泣ける文学が
上位を占める現代では、
吉行淳之介は
大人向け過ぎるのでしょう。
そういえば、
あの文壇嫌いの村上春樹も
吉行淳之介さんには
色々恩義もあり、
慕っていたのは、
エッセイ『村上ラヂオ』で
何度か語られていました。
それにしても、
心にポッカリ、
穴をあけてしまう小説って、
ある意味恐ろしいですね。