【本屋】ご存じですか?文庫Xって
「文庫X」ってご存じですか?
本好きな方なら、また
ノンフィクション好きな方なら
「知ってるよ」や、いや、
「もう買って読んだよ」という
方もいるはず。
それくらい、
今さらな話題ですが、
なぜか急に取り上げたくなりました。
遡ること、2016年。
岩手県盛岡市にある
「さわや書店」フェザン支店にて、
「文庫X」は誕生しました。
仕掛け人は、この書店の
文庫担当者、長江貴士さん。
「文庫X」というアイデアは
長江さんが考えたものでした。
上から黒い紙を巻いて、
タイトル、著者名、出版社名は
わからないようにして、
キャッチコピーは目立つよう
溢れるように書かれています。
さわや書店フェザン店の
オリジナル紙カバーを
つけたのでした。
何も情報がないぶん、
特に、輪郭になる情報がないと、
私たちは不安になります。
わからないという気持ちは
非常事態だから、です。
このカバーを
文庫に一枚一枚つけて
「文庫X」として
売り出したところ、
一日で200冊以上売れる日も
あったというのです。
ノンフィクションという
渋いジャンルで、
1日200冊は、画期的です。
長江さんの、
読んで欲しい作戦が見事に
成功したのです。
その後、この文庫は、
長江さんが書いたカバーをつけて
全国で売られ、
記録的なベストセラーに。
それにしても、
長江さんのトリックがなかったら、
この「文庫X」と呼ばれた本は
今ほどには売れていたのだろうか?
また、この長江さんの発想は
なぜ売れていったのだろうか?
たとえば、
タイトルと著者名を
わからないようにした
ミステリアスなカバーを巻けば、
どんな本も大ヒットするのか?
どうでしょうか?
村上春樹の新刊文庫に、
こうした売り方をしたら、
たぶん、売り損ねますよね。
村上春樹という著者名なんて、
アピールすればするほうがいい訳で。
また、たとえば、
占いの本や旅ガイドは、
目的を持った人が
その目的のために本を探してる。
それなら、目的は、
つまりタイトルは、
表示した方がいいですよね。
「文庫X」は、
ある事件に関係したノンフィクション、
という本だったから、
この戦略が良かったにちがいない。
私の近所の本屋さん
《書原》つつじが丘店では、
この「文庫X」以上に
さらにミステリアスなカバーで、
売りたい文庫を包んでいます。
そこでは、
著者名やタイトル、出版社、
キャッチコピーすらないカバーなのです。
往生際の悪い私は、
店内の電灯の光に照らしたり、
中の文庫のタイトルを
透かし見ようとしたり。
結局は、わからなくて、
カバーに目一杯書かれた
書店員さんのキャッチコピーや
説明文を読んでみる。
分からない、伏せられている、
ということに対して、
私たちは、謎ときのような、
わかりたい気持ちになるらしい。
毎月、数十冊もの新刊文庫が
書店に運ばれてくる。
そのうちの、月に一冊は、
こんな謎めいたカバーをつけた、
第2の「文庫X」を出して欲しいな。
でも、今、書店には
そんなことに使う時間は
きっとないかなあ。どうかなあ。
いや、誰かがきっといるだろう。
文庫Xを仕掛けた長江さんみたいに、
面白いことを、本気で、
とことん考えている、
新しいヒットメーカーさんが。
いや、そうだ、
私自身が考えてみて、
本屋さんに売り込みに行ってこよう?
(笑)
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