(本)学びとは何か―〈探究人〉になるために
ゆる言語学ラジオでお馴染み?今井むつみ先生の著作。
本作は赤ちゃんの言語習得を軸に、大人が物事に熟達し、探求人となるために持っておくべき心構え(マインドセット)について書かれています。
水野さん曰く「今井先生に誘われたら、石原さとみとの先約があっても、それを断って今井先生の方にく」そうな(?)。
石原さとみとの約束の件は置いておいて、今井先生は本当に文章がうまい。文学的に美しいとか、難しい言葉を使っているわけでもないのだか、学術的な内容から本質を抽出し、読者にわかりやすく伝える能力が抜群に高い。
さて、本書でも色々な面白実験が出てきて、1つ1つの内容を紹介するだけでも結構なボリュームになりそうなのですが、それは置いておいて。
本書で一番大切なのは、
知識はシステムであるというエピステモロジーを持つ
ということかと。
言い換えると、知識を得た時に、それを断片的に一つ一つ積み重ねていくわけではなく、自分の知識というシステムの中に取り込み、毎回そのシステム自体を更新していくという心構えを持つことが、探求人になるには必要、ということ。
今井先生は「知識のドネルケバブ・モデル」という表現をなされているように、多くの人の中には知識はたくさんあればある程よい、正解をたくさん知っているほどよい、という価値観のもと、一つ一つの知識を軸に刺した肉塊の外側にさらに肉を重ねていくような(それを削ぐと、ドネルケバブになるからこういう表現をしているのかと)イメージを持っているかと思います。
しかし、そういうマインドセットを持っていると、生きた知識はなかなか身につかない。公式は覚えているけど問題は解けない、知ってはいるけど行動に移せない「死んだ知識」が積み重なるだけになってしまう。
一方、子供を含め、我々が扱う母語に注目してみる。すると、ほとんどの人は、「生きた知識」として臨機応変に活用している。
大人になってから座学で得る知識と(多くが死んだ知識)と母語(生きた知識)との違いは、その習得の仕方にある、と著者は解きます。
考えてみると不思議ですよね。言葉のない世界にいる子供が、いつの間にか言葉を覚え、使いこなしている。単語の意味だって、文法規則だって、言葉を知っている人に対してはいくらでも説明できますが、その「言葉」を全く知らないところからスタートするわけですからね。
詳しくは本書に譲りますが、子供は膨大なインプットから自分で法則(スキーマ)を身につけ、新しい情報を得るたびに自分の知識体系を更新しながら、徐々に言葉を身につけていく。大人からすると「無理だろそんなの!」と言いたくなるくらい、ハードモードな状態からスタートして、ほとんどの子供が立派に言葉を使いこなしている。面白いですよね。
大人になると、ふと「知識」だけを覚えようとしたり、なぜと問うこと自体、億劫になってやめることが多いかと思います。
そこで一歩立ち止まり、さまざまな現象に対し「なぜ?」と問い、自ら答えを求める姿勢を忘れないこと。それが、一番大事だそう。
学びに興味がある人は必読の一冊です。