コンピテンシーは古くないどころか益々大切になる理由
いまではすっかり人材育成の定番に、定番を通り過ぎて古いとすら思われがちなコンピテンシー (成果に結びつく行動)。
しかしコンピテンシーがビジネスの世界に持ち込まれたときは画期的で、ある意味で反常識的とすら思われていました。そしてコンピテンシーが反常識的と考えられていた理由を改めて振り返ると、古くなるどころかむしろこれから益々大切になる存在であることがわかります。
そこで今日は、コンピテンシー論を述べたいと思います。というよりかは私の願望マックスなコンピテンシー愛といっても良いでしょう。(わたしの世界観を)わかりやすく説明するためにコンピテンシーをヒトにたとえて擬人化してお伝えします。
反常識的なコンピテンシー論1: 成果に結びつくのは行動、知識ではない
コンピテンシーがビジネス、特に人材育成の世界に本格的に登場するのは80年代です。それまでは成果を予測する際の主な主役は知識やテストの点数や学歴でした。
しかし、コンピテンシーは「知識は成果に結びつかない、いやむしろ特定の属性の人々に不利に働くので害ですらある」との当時の常識に反した議論を展開します。
そして「私、コンピテンシーこそが成果に結びつくものである」と、行動に着目することで成果に結びつく行動をコンピテンシーとして特定できることを主張します。
たとえば少し前の記事になりますが、採用に強いこだわりをもつGoogleでは、テストの点数ではなくBehavioral interviewによるコンピテンシーを採用の基準として重視しています。
反常識的なコンピテンシー論2:行動は測定できる
コンピテンシーが登場するまで知識が重視されてたとはいえ、コンピテンシーとなる行動と成果に関係がないとかんがえられていたわけではありません。
コンピテンシーが人材育成に活用されていなかった理由は、コンピテンシーとなる行動を測定することができないと考えられていたことに理由があります。
しかしコンピテンシーは「行動? えー、測れますよ、なんなら段階にわけてレベル別で」ということを証明します。たとえば高い成果を追求する「達成重視」というコンピテンシーでも、ある会社の課長にはレベル3が求められるのに対して、部長にはレベル4が求められるという形で、同じコンピテンシーでも段階的に分けることができます。
そうしたレベルも含めてコンピテンシーについてまとめて書かれたのが「コンピテンシーマネジメントの展開」という本です。この本では、高業績者の行動を集めたデータベースから抽出された成果に結びつく代表的なコンピテンシーをレベル別に紹介しています。
反常識的なコンピテンシー論3: 行動は開発できる
コンピテンシーとなる行動が人材育成で重視されてこなかった理由はまだあります。ヒトの行動は性格特性など内面的な要素に影響を受けるため、変えることが難しい、とそれまでは信じられてきたからです。ヒトは変わらない、という考え方です。
しかし、コンピテンシーは「行動を変えるのに内面を変える必要はないよ、行動をマネすればよいだけだよ、行動を変えていると内面も変わるけどね」と当時の常識を一蹴します。
最近の脳科学においても行動を変えることは可能であるとの考え方を示しています。まずは実行したい行動を書き出すなど、外形的にマネすることがその出発点になります。
これからのコンピテンシーの活用の可能性
成果に結びつく、測定できる、開発できるというコンピテンシーの特徴は、これからの人材育成にどのような意味をもってくるのでしょうか。
まずは人的資本経営時代と言われるように、企業価値の源泉として人的資本が位置づけられるようになっています。人的資本と成果を結び付ける存在としてコンピテンシーは引き続き活用されると考えられます。
また測定できるという特徴は、ステークホルダーからの期待でもある人的資本の開示にも適した特性といえます。どの人材がどのようなコンピテンシーをどのようなレベルで発揮しているのか、期待値とのギャップはどの程度なのかを可視化することができます。
さらには開発できるという特性は、HRアナリティクスでの活用が考えられます。どのような育成施策にどれぐらい投資するとどの程度の能力開発が見込まれるかという予測モデルに活用することができるでしょう。
こうした汎用性の高いコンピテンシーでありながら、成果に結びつく行動の種類はそれほど多くありません。たとえばさきほど紹介した「コンピテンシーマネジメントの展開」で紹介されているコンピテンシーは以下の20です。
達成重視
正確性への関心
イニシアティブ
情報探求
対人関係理解
顧客サービス重視
インパクトと影響力
組織の理解
関係の構築
他の人たちの開発
指揮命令
チームワークと協調
チーム・リーダーシップ
分析的思考
概念化思考
専門能力
セルフコントロール
自己確信
柔軟性
組織へのコミットメント
ここから自社での成果に結びつく行動に絞り込んだコンピテンシーモデルでは、一般的には10項目以下に絞り込まれます。10項目でヒトの行動という複雑な事象が説明できてしまうというのは、かなりシンプルで便利ではないでしょうか。
こうした特徴をもつコンピテンシーは、人的資本経営、人的資本開示、HRアナリティクスという文脈においてもますます重用されていくでしょう。というわたしの願望にも近いコンピテンシー論に最後までおつきあいいただきありがとうございました!