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内向型デザイナーのためのデザインコミュニケーションと傾聴

🎄Money Forward Design Advent Calendar 2022の19日目の記事です🎄

この記事は、マネーフォワードビジネスカンパニーでデザインマネージャをしているジーラムこと村治がお届けします。
デザイナー向けに書いていますが、中身はものづくりに関わるどなたにも読んでいただけます。

はじめに - この記事を書いた背景

デザインやものづくりにコミュニケーションは欠かせませんね。
多くの方が取り組みのなかで、その “大切さ” や ”難しさ” を実感するのではないでしょうか?

コミュニケーションむずい

私は制作会社と事業会社でディレクターやデザイナーを生業としてきたのですが、もともとコミュニケーションは苦手でした。内向的な性格で自分から “話す” 機会は少なく、仕事でもたくさん失敗しました。

しかし、いつからか「コミュニケーションが上手」とご評価いただく機会が増えました。( 今もできているとは思えないのですが )
特に「コミュニケーションをよくしよう」と意識したことは少なく、「良いものを作ろうと試行錯誤したこと」が積み重なり、それが結果的にコミュニケーションになっているように思います。


この記事は、そういったデザインやものづくりのコミュニケーションの試行錯誤と、その中で “聴くこと(傾聴)” の重要性を自分なりの解釈で書いています。

自分が書くべき内容なのか?…会社の個人timesチャンネルで、書く方向性について悩んでつぶやいたところ、メンバーの方々がスピーディにアンケート化して伝えてくれました。失敗やネガティブに向き合おうとする自社の文化、心理的安全性に後押しされたような気がして決めました。

出典:弊脳
公開3日前の弊times

きっと同じように得意でない方や、先入観、抵抗感を持つ方がいる。決して答えの明確な話ばかりではないけど、それを知ってるから話せることがある。そんな方々にとって “自分なりの向き合い方を考えるきっかけになりたい” と思い執筆しました。
ぜひ、あなたなりに向き合ってもらえたらと思っています。

より良いデザインはコミュニケーションを求める

あらためて「コミュニケーション」とは何でしょうか?

コミュニケーション(英: communication)とは、社会生活を営む人間の間で行われる知覚や感情、思考の伝達

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/コミュニケーション

とあります。
この広い定義から、ともだち同士で遊ぶことも、仕事で議論することも、人と人の間で何かを伝達するコミュニケーションと言えそうです。

デザインにもコミュニケーションが必要です。どんなコミュニケーションが思い浮かびますか?

『非言語で』つくる

例えば、依頼者やエンドユーザーの期待を前に、ラフスケッチや構想を用いてより具体的なビジュアルイメージを確かめる。これはデザインらしい非言語的なコミュニケーションと言えるでしょう。

『総意を』つくる

たくさんの人からデザインにご要望をいただく場合もあります。しかし言われたすべてを叶えたら、成果が得られるとも限りません。複数の観点や制約、優先を考慮し、関わる人と納得するデザインを探る。つまり総意をつくるコミュニケーションをします。

『構想を明らかに』する

デザインの成果は、最終的に顧客やユーザーのもとに届き、その反響や実績をもってはじめて分かります。実際の仕事で成果を待っていたら遅いため、あらかじめ顧客にとって良さそうなことをリサーチしたり、コンセプトや試作品をテストしながら、構想を明らかにしながらコミュニケーションします。

コミュニケーションを通して、デザイナーは見えないモノゴトをカタチにします。それはデザインの成果物だけでなく、ユーザー像や思考、課題、体験の流れ、関係者の役割…など様々です。そのいずれも、デザイナーだけで見出すことが難しいため、他者とのコミュニケーションは不可欠な手段だと言えそうです。

デザインコミュニケーションと乗り越えたい壁

コミュニケーションが大切と言われる一方、学校で専門スキルとして教わるわけでもなく、急に実務経験を積む方がほとんどでしょう。また、現役デザイナーでもオペレーション中心で経験のない方、顧客やエンドユーザーとお会いする機会がなかった方もいることでしょう。

多くのコミュニケーションと同じように、デザインコミュニケーションにも壁があります。ただ漫然と、その壁を壁として捉えているままでは、無意識に乗り越えることを諦めてしまうかもしれません。

実際に自分が向き合っている壁は何か?
その壁をどのように捉えることができるか?

いくつか例を挙げて、内側から外側に、さらに全体を俯瞰して問いかけてみます。複数の角度から洞察を深めることができるかもしれません。

※本章で「答え」は書きません。人や環境によってコミュニケーション課題は異なり、ご自身に適したやり方がある、と考えるからです。

①レビューと自己否定

デザインレビューは、レビューする人(=レビュアー)の観察や批評を通じて、デザインの問題点や改善のヒントをレビューを受ける人(=レビュイー)に送ります。

Q.そこにどんな壁がある?
レビューを受けることに抵抗感を持つ方、デザイナー自身が否定されるように捉えてしまう方もいると思います。

多くのデザイナーが「これが良いはず」と信じて真剣に作っているわけで、他者のレビューを受け容れにくかったりショックを受けやすいと考えてもおかしくありません。

それだけ「良い」と思っていることに、どのぐらい異なる解釈や批判ができるのでしょうか?

Q.その壁は正しいのか?

  • 良いものと信じて作っているがため、批評やアドバイスの良し悪しを客観的に捉えられなくなっているのではないか?

  • レビューを受ける側(自分)の経験が足りず、提案や解決策が分からなかったり、分かったつもりになっているのではないか?

  • オープンに話されてレビュイーの心理的安全性がない(意見できなくなる)のではないか?

  • レビュアーに事前情報や意図や狙い、配慮など見てほしい観点が足りないのではないか?

  • レビュアーの伝える内容が実は適切に表現されていないのではないか?

  • レビュアーがなぜそうしたか、背景や理由を聞かないと分からないのではないか?

  • 足りない観点や改善点を見つける機会だから違うものが出てくるのはむしろいいのではないか?

  • 実はレビューが必要な状況ではないのではないか?

②チームの協働と認識のズレ

現代のデザイン制作では、複数の人が協働しながらデザインをつくる機会が当たり前にあります。

異なる役割やスキルを持った人々がチームを組んだりコラボレーションしながら、一人では達成できないものづくりと成果を目指して取り組みます。

Q.そこにどんな壁がある?
チームに協働する人が増えるほど、責務が分かれ、コミュニケーションパスも増えます。その過程で “認識のズレ” が増えることも珍しくありません。

「どうにかしたい」が、デザイン以外に責任をもって口を出しづらい。正しい認識が分からず、間違い探しを眺めるしかできない。コミュニケーション課題が増えるとそんなことが起こります。デザイナーには何が問えるでしょうか?

壁への問いかけ

  • デザインがチーム全員にとって正しく評価されるべき、という先入観を持っていないだろうか?

  • お互いの認識を可視化できておらず、自らズレに気づけていないのではないか?

  • デザインの前提やルールを伝えず、相手の「よしなに」を汲み取る力に頼りすぎていないだろうか?

  • 相手の役割や視点の違いを考えず、デザイナーの立場から偏った意見や前提を押しつけていないだろうか?

  • デザイン観点での考慮なく、一方的な指示や依頼にただ従っていないだろうか?

  • 今のチームにあったデザインコミュニケーションができているんだろうか?(相互理解、期待値の擦り合わせ、会議体など情報共有の機会など)

  • 組織構造から生じている不和なら、一部が責任を背負いこむ必要はないのではないだろうか?(コンウェイの法則のような話)

③顧客の要望と要求判断

「何を作るか」が明確に定まった状態でデザインが始まることは稀です。

クライアント、ステークホルダ、その先のエンドユーザーや顧客から寄せられる「要望」を元に、様々な観点を考慮しながら、私たちのすべき「要求」を見極めることが求められます。

Q.そこにどんな壁がある?
顧客の要望をお受けするなかで、間違いや無茶に疑問を呈さないデザイナー(気づかない方、気づいていても言いづらい方)もいると思います。実制作者と要望を出す人がそもそも離れていたり、契約や力関係、期待役割がそうさせないケースもあるかもしれません。

それでも、デザイナーやチームだから見つかる「要求」、ものづくりの価値があるのではないでしょうか?

壁への問いかけ

  • 要求を考える場につくる人が関われているのだろうか?

  • デザインの成果や恩恵を受けるエンドユーザー、顧客のことを考えられているのだろうか?

  • 他者の立場や役割といった背景を、わかったつもりで要求判断していないか?

  • 要望、要求、要件の整理がついていないのではないか?(違い非活辞典

  • 本質を問おうとするあまり、相手の仕事を奪ったりKPI達成(成績や評価獲得)の邪魔をしていないか?

  • 自分の理解のために、非効率に時間を使って確かめようとしていないか?

  • 自分たちが大事だと思っていても、ビジネス上の重要度やインパクトを想定して判断できてるのだろうか?

  • 短期的な成果を志向して、ビジネスとして持続的でない成果やブランドへの影響を考慮できているのだろうか?

  • 自分たちが関わる意味を考えて、理想を描けているのだろうか?


デザインコミュニケーションや問いに向き合うほど、自分ひとりで解決できないモノゴトがたくさんある、と分かります。

モノゴトは多義性と奥行きをもっています。多義性=複数の意味を持っていること。奥行き=論理で捉えられない背景の複雑さがあること。デザインコミュニケーションで壁を越えれば、そんなモノゴトの広がりを矛盾や雑味も含めて知ったうえで、より意義のあるデザインに取り組めるかもしれません。

またそれが楽しいんですよね。

今日からできる傾聴のススメ

しかし単純に「コミュニケーションを増やそう」と言うだけでは、行動を真似るように表面的な結果になってしまいそうです。コミュニケーションを取る相手に手段だけをお願いしても、相手にその意義が分からなければ “あなたの必要に応じている” 構図となることが予想されます。

そこで “傾聴” が重要になってきます。耳を傾けて自他を知り、壁を乗り越えながら共有できる世界をつくります。そのうえで、相手の必要、お互いの必要から異なる視点、価値観、目的意識を理解し、自然とコミュニケーションしやすい状況を促します。

デザインコミュニケーションを行ううえで、おすすめかつ簡単に取り組める傾聴の姿勢や行動を挙げてみます。直接デザインに関係しないものがほとんどで、人によって当たり前のこともあります。

しかし、それらをデザインに絡めることで、アプローチや方法に軸を与え、長期的にコミュニケーションやアウトプットの質を高めてくれるはずです。自分にあった “聴き方” を探してみてください。

聴く機会を増やす

“相手の必要、お互いの必要” は想像しているだけでは分かりません。また、積極的に話しかけるのが得意ではない方もいると思います。単純に聴く機会を増やすことからはじめてみましょう。

興味をもって聴く姿勢を伝える:
いきなり「言葉で聴く方法」ではないの?と思われるかもしれません。そんなにハードルは高くありません(笑)
まずは興味を持つところから。聴き方が分からなくても、興味があって聴く姿勢を示すだけでも意味があります。大きめな相槌を意識的にしてみるとか、相手に視点を向けるとか。

「ありがとう」と言われたら「どういたしまして」と言うように、人は良くしてくれた相手にお返ししたくなる心理(返報性の原理)があります。それは直接的な利益や好意に限りません。姿勢は言葉がなくとも感覚的に伝わり、相手の答えたい気持ちを促します。美辞麗句でなく無骨でもなんでも、相手に興味が伝わるなら何だって構わないはずです。

ミーティングの司会や議事録係を担当する:
デザイナーでも何かしらミーティングの参加機会があると思いますが、自分のパート以外に話す機会がない人もいるかと思います。
しかし “相手の必要、お互いの必要” を知るのに、ミーティングほど良い機会はありません。社内外でも、司会や議事録といった定常的に必要な役割を担うなど、可能な範囲で聴く機会を増やしてみてください。インプットが増えて、さらに聴きたいことが増えるでしょう。

あるがままを受け容れる

相手のあるがままを受け容れるため、2つのことを意識しています。

リフレイン(オウム返し):
話されたことをそのまま繰り返します。人によってバカにされていると感じたり、話が長く思われていないか注意は必要です。
しかし、しっかり聴いている姿勢を伝えたり、実際に自分がそのままを受け容れ、理解するためのプロセスと思えば、決して無駄ではありません。

I message / You message:
自他それぞれを尊重した話法で、主語を意識的に言葉にします。
やり方はとてもカンタン。言葉の先頭に「私は〜」「◯◯さんは〜」を述べる、たったそれだけです。

しかし意識してやってみると、いかに日頃話している内容に主語がなく、無意識に当たり前や前提をもって会話していたかが分かります。
また、自分の価値観で「よかれ」と思って、実は相手を傷つけている「アンコンシャスバイアス(マイクロアグレッション - wikipedia)」に気づくことができるかもしれません。

頭の中で捉える

人は見聴きしたことを頭のなかで認知します。自分の思い込みや偏ったプロセスにせず、相手とのコミュニケーションから捉えていくために気をつけていることがあります。

喋り終わるまで喋らない:
相手が話した内容を捉えたうえで返事するためには、脳の構造上も時間が必要です。逆に、間髪を入れず反射的にすぐ返事することは「相手の話を聴いていない」と自ら相手に伝えているようなものです。
そのため、できるだけ相手が喋り終わるまで喋らないようにしています。正直うまくできないこともありますが、対話をするうえで心がけたいと思っています。

わかったつもりにならない:
相手の気持ちは分かりますか?と聞かれたら、自分は分かりません。
SNSでは「いいね」で多くの共感が集まりますが、人はそれぞれの価値観で評価しています。相手が脳内で何を思っていいねしたか、本心は誰にも分かりません。自分の言葉で言い換えたり、自分だけの経験で共感しないようにします。

認知的共感(Cognitive empathy):
さらに相手を捉えるには、自分が分からない前提に立って他者の視点を知る “認知的共感(Cognitive empathy)” の力が必要です。
共感にはいくつか種類があり、前述した「いいね」とは違って、相手の視点で相手の思考や感情まで理解しようとします。発言の表面だけを捉えて、捉え方は相手でなく自分の解釈にしないよう心がけます。
これについて書かれたブレイディみかこさんの書籍「他者の靴を履く」がおすすめです。

事実と感情を整理して表現する

事実と感情が混在していると、事実を誤認しやすく、他者との意思疎通もしづらい状態になります。できるだけ明文に、視覚的な表現を用いる等して、事実を整理して伝えたいと思っています。

アサーティブコミュニケーション:
自分も相手も尊重したうえで、お互いに言いたいことが言えるような言葉遣いや投げかけを意識したいコミュニケーションです。
その反対にアグレッシブ(感情的、攻撃的な表現)なコミュニケーションがありますが、想いの強さに相反してモノゴトの良し悪しや客観性を見えづらくします。また、場にとっての不利益が大きく、周囲の意見が出づらくなってしまいます。アサーティブであることは場の心理的安全性を保つことにもつながります。
興味のある方はより詳しく解説しているサイトや書籍(アサーション - Google検索)をお調べください。

外在化:
ひとりで考えごとをしていても、同じ思考がグルグル周って煮詰まってしまいます。また、複数の人が何もない状態で議論すると、お互いが向かいあって空中戦のようになってしまいがちです。
そんな時は、とにかくどんな形でもいいから絵だったりテキストだったり、自分や相手の外側に出すこと(外在化)が大切です。目に見える対象があれば、自分の外側で客観的に捉えやすくなります。ビジュアライズを得意とするデザイナーなら、積極的に外在化に関わっていきましょう。

聴くこともデザインだ!

デザインコミュニケーションと傾聴について、自分なりの言葉で書いてみました。

さて、これを読んだあなたは何を感じましたか?
コミュニケーションや仕事のスタイルには、人それぞれの個性があって然りです。もちろん、ここで書いた内容が全てではありませんし、たくさんのビジネスとデザイナーがいる中で、コミュニケーションが不得意なデザイナーがいても何もおかしくはありません。

たとえ今は苦手意識が強かったり失敗していても、「より良いデザイン」を志向するのなら、その手段としてのコミュニケーションを、経験的に、かつ自分にあったやり方で獲得していけるのではないか?と思っています。

先の将来、ご自身にあったコミュニケーションスタイルがより良いデザインにつながっていることを願っています!ここまでのご拝読ありがとうございました!


マネフォアドベントカレンダー20日目はみかちさんです!
引き続き、お楽しみに〜

ここまで止まらず書けたので、自分にとって「聴くこと」も大切なデザイン行為であると捉え直しました。
また今後のデザイン組織で研磨し、伝えていくひとつだと感じました。あらためて1on1で傾聴について話したりtimesで後押ししてくれたマネフォデザイナーメンバーの皆さんに感謝します。

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YasuhiroMuraji
もし、サポートいただけるほどの何かが与えられるなら、近い分野で思索にふけり、また違う何かを書いてみたいと思います。