見出し画像

元介護士が教える、これから介護の仕事をする人に知っておいてほしいこと

私は介護職として入社してから、数か月で適応障害になった。
会社としては最悪の社員だったかもしれないが、私は幸福にも「介護」に携わらなければ知ることがなかったいくつかの真実を学んで、無事に帰ってくることができた。

これから介護の仕事に就こうとしている人が、もしこのnoteを読んでくれることがあるなら以下のことを覚えておいてほしい。


◇明日どうなるかわからない恐怖を受け止めるということ

まず、前提として、認知症を患った高齢者は、中核症状と呼ばれる大きく分けて5つの症状が出る。物事を忘れていく「記憶障害」、自分の置かれた状況が分からなくなる「見当識障害」、物事の処理速度が遅くなる「理解・判断力障害」、段取りよく行動することが難しくなる「実行機能障害」、今までできていた動作や認識、行為ができなくなる「失行・失認・失語」
それぞれ、ゆっくりしたスピードで進行していくが、今までできていたことができなくなる恐怖や不安を高齢者たちは抱えながら、日々生きていくこととなる。
お分かりいただけるだろうが、この得体の知れない恐怖をぶつけられるのが、介護の仕事である。それを忘れないでほしい。

◇老人は異常なほどの力を持つ

嘘だと思うかもしれないが、高齢者の力は本当に強い。認知能力が低下した状態で殴られると、涙が出るほどに痛い。簡単に言えば、容赦ないゲンコツがいきなり飛んでくると思ってもらえればいいだろう。
しかも、この力はいつ繰り出されるか予測ができない。着替えの介助をしているときかもしれないし、食事の介助をしているときかもしれない。普通に接していても、利用者の機嫌を損ねることがあれば、問答無用で飛んでくる。
加えて、この力が発揮されるのは、暴力だけではない。そばにいてほしいという気持ちから手首をぎゅっと掴まれたり、入浴介助中に滑ることの恐怖心から手を握られたりすることもある。
人が不安を感じたときの力は強力だ。だから、高齢者は力が弱いなんて侮らないでほしい。

◇実は排泄介助は一番「ほっとする時間」である

これは介護の仕事をして一番感じたこと。そして、最もギャップがあった部分であった。
介護と聞いて一般人が最初に思い浮かべるのは3K=「きつい」「汚い」「危険」。これに加えて、給与が安いということも私は追加しておきたい。確かに、上記に挙げた3つは残念ながら、どれも間違いではない。
人の命を預かる仕事であるため、体力だけでなく精神もすり減るのは当たり前。認知機能に影響が出ていれば尚更のことである。
だからこそ、仕事に慣れてくると「排泄介助」の有難さが身に染みてくる時期が突如としてやってくる。「汚い」はずなのに、なぜ?と思うかもしれないが、高齢者の理不尽な叱責や暴言を受け止め続けていると、最初に抱いていた排泄に対する負のイメージなど、どこかに飛んでいってしまう。もはや汚いなんて感情はどこにもない。臭いなんて驚くほど気にならなくなる。
何かを言われることもなく、淡々とオムツを替えていくあの時間が、唯一心を落ち着かせていられるなんてこともある。
だからといって、もちろん気を抜いていいなんてことはない。便がトイレ中に吹き飛んでいる時や、オムツから尿がはみ出してしまい、シーツまで交換しなければならない時もある。
その時は、決して感情を顔に出してはいけない。頑張るまでだ。

◇自分が何かを変えられる人間だと思わないこと

私は入社当時、絶対に「利用者に好かれる」かつ「テキパキと仕事ができる」介護士になろうと意気込んでいた。今ならわかる。大きすぎる、無謀な目標は絶対に立てない方がいい。理想と現実のギャップが大きければ大きいほど、精神はすり減っていくからだ。
介護の仕事を視野に入れるのは、人の命を預かるということもあってか、責任感のある優しい人が多い。だが、そういう人ほど特に気を付けてほしい。
まず、介護は意外と覚えることが多い。介助の仕方だけではない。利用者の名前と顔、好きなものやこだわり、してはいけないこと、怒らせてしまった時に何をしたらいいか。最初のうちは、イレギュラーなことが起こる度にパニックになるだろう。それでも、何か苦手なことがあったとしても、他の介護士と比べることだけはしてはいけない。自分のペースを忘れずに。
しばらく介護士を続けていると、悲しいかな、認知症の高齢者に急に怒鳴られたり、ちくちく嫌味を言われたり、自分だけ介護を拒否されたりすることが日常茶飯事だということが段々わかってくる。しかも、言った本人はすっかり忘れて数分後にはケロッとしている。
ひとつずつ丁寧に、真摯に受け止めようと思うかもしれないが、そんなことをしていると心が壊れてしまうのも時間の問題だ。嫌な思い出がよみがえって、特定の利用者と関わることが怖くなってしまったり、避けたりしてしまうと、そこから意識を変えることはかなり難しい。
「できた」のハードルをこれでもかというほど下げて、昨日の自分よりも、たとえ1ミリでも成長した自分を褒めてあげてほしい。
最初から何者かになろうとしなくていい。自分がどうなりたいかなんて、慣れてきて、自然と出てくるものだと私は思っている。

◇背負いすぎなくていい

最後に一番大切なこと。
意外と、みんな、適当にやっている。
こう書くと語弊があるかもしれないが、適当が一番いいのだ。
決して適当に仕事をやっているというわけではない。難しいところではあるが、「ある程度手を抜いて、期待せず、仕事をすること。」とでも言えばいいだろうか。

人として求められる仕事をすればいい。
それ以上を求める人は、そういない。
背負いすぎるな。人は、思い通りに動かない。
期待するな。あなたがどれだけ優しい気持ちを持って接しても、
それは蔑ろにされると思っておけ。
常に感謝されると思うな。手を差し伸べて怒られることもある。
してあげた、の気持ちを持つな。
やがて、それはあなたの精神を蝕むこととなる。
今のあなたの少しの妥協が、今後を決めるかもしれない。

私はそれができずに、精神を壊してしまった。

何事もほどほどに。
それは、あなたの命を守ることになるから。

#仕事での気づき

いいなと思ったら応援しよう!

栖山 依夜
よろしければサポートをお願いいたします! いただいたサポートは活動費に使用させていただきますので、何卒、何卒……!

この記事が参加している募集