コントな文学『田中明彦のピーク』
コントな文学『田中明彦のピーク』
田中明彦13歳の春。
学校から帰宅中に道端で倒れている妊婦を発見し、救急車を呼んだ。
迅速な対応のおかげで、妊婦は搬送先の病院で無事に女の子を出産し母子共に助かった。
翌日、田中明彦は学校で先生に呼び出されて校長室へ行くと警察から感謝状が贈られた。
助けた妊婦の旦那さんも来ていて、泣きながらお礼を言ってくれた。
この様子は夕方の全国ニュースでも放送された。
田中明彦は生まれて初めて脚光を浴びた。
普段は目立たない普通の中学生が一躍、学校のヒーローになった。
田中明彦は脳からドーパミンが出まくって多幸感に包まれた。
結論から先に言うと、この日が87歳で天寿を全うする田中明彦の人生でピークの日になった。
だが、田中明彦はピーク時のドーパミン分泌による高揚と多幸感が忘れられず、あの日を超えたいと思うようになっていく。
そして、田中明彦のピークを超える為の人生が始まった。
ピークを超える為に14からギターを始めて18歳で上京した田中明彦はシンガーソングライターになって武道館ワンマンLIVEを目標にした。
次に役者を志して、その次は声優に挑戦した。
30歳で地元に帰ると今度はYouTuber。
40代は起業家にチャレンジ。
50代の小説家志望、60代の発明家志望を経て、最終的に晩年はツチノコ探しに尽力したが、いずれもピークを超えるような結果には至らなかった。
田中明彦 享年87歳。
田中明彦の棺の中に、人生ピークの日に贈られた感謝状が入れられた。
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