コントな文学『余命3ヶ月10年目に誓う』
コントな文学『余命3ヶ月10年目に誓う』
「余命3ヶ月です」
社会人1年目で医者からの余命3ヶ月宣告。
目の前が真っ暗になった。
頭の中が真っ白になった・・・
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余命3ヶ月宣告から5年が経った。
「余命3ヶ月です」
今回の受診結果もまた余命3ヶ月。
奇跡的に病状は良くも悪くもならずに5年間、余命3ヶ月を維持した。
そして有り難いことに余命3ヶ月でも日常生活には支障が無く仕事も続けている。
だが流石に余命3ヶ月を長年キープし続けていると、周囲からの哀れみの目は疑いの目に変わって刃のように突き刺さる。
陰で『余命3ヶ月詐欺』って呼ばれているのも知っている・・・
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余命3ヶ月6年目の秋。
事態が急変した。
「余命2ヶ月です」
まさかの余命2ヶ月宣告だった。
初めて余命3ヶ月と言われた時の恐怖と絶望感が蘇る。
余命3ヶ月に慣れすぎて俺は、平和ボケならぬ余命3ヶ月ボケ状態だった。
だって余命3ヶ月ボケだからNISAもiDeCoも始めていたし、7年ローンで新古車も買っちゃった。
余命3ヶ月をナメてしまったと猛省した・・・
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翌月、俺はまた余命3ヶ月まで巻き返した。
あの日の喜びと安心は一生忘れないと思う。
改めて何気ない日常が、生きている事が、とても尊いものだと実感した・・・
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「余命3ヶ月です」
余命3ヶ月生活も、ついに10年目を迎えた。
俺は余命3ヶ月続きでも構わないと言ってくれた女性と結婚した。
「余命3ヶ月の嫁になっちゃった」とダジャレ交じりに彼女は笑う。
今日も俺は、二度とない目の前の一瞬一瞬を大切に生きていこうと誓った。