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物語に成れなかった言葉たち。
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獣のワルツ

獣のワルツ

毒をもつのはきっと容易い
かような姿は修羅の如く
研がれた刃と牙をもつ
ひと在らざる化身なり

ひとつ歩めば全てを切り裂き
ふたつ行けば荒野と化す
其はうつくしき獣なり
そうであるならすくわれた
そうであればワタシで在れた

見目ばかりが人だから
まわりは勝手に同列扱い
珍品列挙 奇異敬遠
誰もが知らぬ存ぜぬ繰り返す
己に自問を繰り返す

ワタシは私に成りました
牙を無くした私など
伽藍とカラの器

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輪郭

輪郭

風を撫でるように思い出の輪郭を辿った。

今、頭の中には君と過ごした、
吐き出した言葉たちが泳いでいる。

ふたりの秘密。
それを投げ掛けては、
知らないふりして薄く跡を残している。

同じ場所を、何度も何度も。
ゆっくりと刻みつけて、
深い溝になるように。

言えない言葉の代わりに、
目の前にない、君の輪郭に触れた。

ミンミン蟬

Twitter300字ss
第七十一回 眠

 ミンミン蟬の鳴き声を聞いてはいけない。

 そんな話を祖母から聞いた。冬の寒い山奥では、季節外れの蟬が鳴くという。

 一緒にいた姉は可笑しげに鼻で笑った。
「蟬は夏の生き物よ。そんな事あるわけない」

 僕もそうだと頷いた。この時までは確かにそうだと思い込んでいた。


 ーーみ゛ぃィいんン、み゛ミ゛ィぃいぃん 
 四方の木々が蝉のような鳴き声

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レモンミルクティー

思入れの深さを数えた。

ティースプーンいっぱいの残念さ。
ミルクピッチャー3杯分の優しさ。
スティックシュガー5本分の気遣い。
現実味のスライスレモンをひとつ。
入れた量で濃さは変わる。
だから私たちがこんなにも不安定なのは、きっと仕方ないこと。
優しさをこちらに、残念さをそちらに。
分け合えばよかったの、本当は知っている。 

ティースプーンいっぱいの気遣い。
ミルクキャップ3杯分の不真面目さ

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春の雪

都会の雪は
雨にはじまり
霙でおわる。 

気まぐれに積もり
跡を濁し
薄くアスファルトに張り付いていく。

神田川の底の底
桜並木の囲まれた
深さの下で雪は積もる。

雨になりて
霙になりて
春の雪を
待ち続ける。

捨てた花束

捨てた花束

あなたが簡単に捨てた花束を
私は後生大事に抱えている。

茶けて 朽ちて ばらけて
いつか 土に還るのに。

あまりに軽く あまりに脆く
あったことさえ 忘れていくのに。

名も 色も 匂いも すべて
いつかは 地球の肥やしとなる。

覚えておける保証がない。
私もいつか還るのだ。

それでも それでも
両腕がからになるまで。

(あなたは忘れてしまうのだ)
#全読 #詩

言葉の星座

言葉の星座

言葉 言葉 点 の よう
歪 な カタチ 繋がって

見えない カタチ 識らない カタチ
貴方 知らなきゃ わからない

私は ここ に いるのだ と
貴方は そこ に いるのだ と
星座 みたいに 私に 伝える

拙い糸 が途切れぬ ように
私と ワタシ  貴方と アナタ
振れない袖 は他人ばかり
例えば 交わること も無かったんだ

紡ぐ 繋ぐ 心が欲する
揺れる 解ける 波のように
連ねて溢

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海月になるころ

海月になるころ

ひとつとり溢す度に、
水辺の波紋がへっていく。
年々呼応する音がきこえなくなった。
酷く静かな波だけがよる。
きっとそれだけで生きてしまえる、
単純な細胞でありたかった。

真綿の朝を迎えて、
緩む髪が流れて、
あたらしい今日を聴く。
足裏の地を感じて、
のしかかる時間を思い起こして、
浅瀬のそこで息を吐く。

くりかえし、くりかえし。
粛々と、くりかえし。
空気が薄らになる頃まで。
くりかえし、

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表層二百メートルの水底

僕らはいつだって少しだけ、
息のしやすさを望んでる。  

大海は時として濁流のように、
此方の都合を見向きしない。

渦と、風と、砂と、鳥が
一枚の隔たりの向こう側で
方々に散る様を見上げる。

底の底、泡ぶくが溶ける様をおもう。
魚はあるがままに振る舞う。
藻屑は流れに身を任かせる。

どっちちかずの僕らは
羨んで憎むことすらできない。
とっくの昔に置いてけぼりで
満たせない胸腔は苦しさばかり

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ささめく 礫 頬を穿ち
惑うこころは 愁い帯び
しとどの己 何処にも行けず
明けぬ空を 見つめてる

弾く水玉にため息を ひとつ
冷える手先になみだを ひとつ
戻らぬ時間にこころを ひとつ
さめざめ流して さようなら

目映いひかり 差し込んで
開けた窓を 飛び降りる
誰も彼もが 空を見る
澄みわたる青に 惹かれてる
墜ちた鏡の 想い知らず
#詩 #現代詩 #全読

種子

肉体の死は己の死だと、
人は容易く受け入れる。

皮に入った魂よ、
箱が無ければ失せるモノよ。

その身 如何に汚されようと、
その実 如何に堕とされようと。
種と言うべき心が在れば、
空高く跳べさえするだろう。

実りの末が腐るのみとして、
種子は永遠に語られよう。
嘆きも喜びも得たその先が、
お前の種にも実ることを。

灰殻

誰かの願いが降ってやまない

お腹がぐずぐず燻ってる

あなたのことばが欲しいのだ
私の内を荒らして去った、

素知らぬあなたが欲しいのだ

ここにあるのは深い溝だけ

あなたとあるのはこの溝だけ

どうにも悔しい気がするのは

きっと私だけなんでしょ

後にも先にも散らばった心を

拾い上げることすら出来なかった
今日という日を

忘れやしない

忘れるものか
#詩 #創作 #雑文

順当

摺り合わせた熱に名残を見出して
たださようならを突き放した

隣だけなんていらなかった
求めるには余分が多かった
だからこれは、順当な結末

きっとね 明日には笑ってしまうよ
うろ覚えの昨日は何処かに行くよ
あったことはみぃんな夢だ
だから忘れたって 大丈夫だよ

何があってもこうなった
それは確かに言えるから
互いの目を見ず手を離そう
後ろを見たりはしないから
安心してね 大丈夫だよ

真心

真心を丁寧に丁寧に透いてゆく。

貴方に私が届かぬように
私が貴方に気づかれないように
薄く、薄く、薄氷を踏むが如く
丁寧に丁寧に透いてゆく。

脆くなった私のホントウ
どうか見つけないでくださいね。
砕け散って塵となった果てでも
追いかけないと誓ってよ。

紙のように引き千切って、
吹雪くさまを見せるから。