蚊は最も人を殺す野生生物|『感染症の世界史』感想
マスクを着用しなければならない、人と会う時には距離をとって……。
私たちの日常は異様なものに変わってしまった。そしてこれは、もしかしたら、これから先ずっと続くのか。
私たちに、長い人類の歴史の中で幾度となく我々の祖先が感染症と闘ってきたことを教えてくれるのが、『感染症の世界史』だ。
本書は2018年1月に発行され、現在の新型コロナウイルスの感染が拡がる以前に書かれた本だが、共感できるたびに、それが何度も繰り返されてきたことだと実感できる。
東京に突如あらわれたデング熱
2014年に渋谷区の代々木公園でデング熱が発生したことは記憶に新しい。
そして、それはすぐに全国に広まった。
思えばそれを踏まえれば、今回の新型コロナウイルスの感染のスピードを予測できたかもしれない。
蚊が媒介していてこのスピードなのだ。
このデング熱。マラリア、黄熱病と並んでいることが多いため、熱帯・亜熱帯地域の病気だと思っていたが、1970年以降は、ほぼ全世界に拡大していた。
デングウイルスの起源は不明。
フラビウイルス科に属するウイルスで、黄熱病、西ナイル熱、そして日本脳炎もこの科に属している。
気づいていなかっただけで、以前からウイルスは身近にいたのかもしれない。
なにが感染を爆発させたのか?
では一地域で感染していたウイルスが、爆発的に全世界に拡がるようになった原因は何か?
石 弘之氏は人間の生活、環境の変化(進化)が原因だと考察する。
皮肉なことに、私たちが生活の利便性を追い求めた結果が、ウイルスにとっても快適な世界を作り出してしまったのかもしれない。
ウイルスはどこからやってくるのか?
原因になる病原性微生物は、いずれも アフリカが起源とみられる、と説明されている。
しかし、起源はアフリカだが、ウイルスがそのまま人に感染する訳ではないらしい。
米国野生動物保護学会は、そのうちの60%までが動物を介して人間に感染する 「動物由来感染症」と発表しているそうなのだ。
エボラウイルスはコウモリを食べたことが人への感染原因だと考えられている。
また、サルやチンパンジー等の霊長類を実験動物として移動させたことで感染したマールブルグ熱もある。
その他にも、家畜を飼うことによって、または環境破壊によって生息地域が狭まり、動物が密集することで集団感染が起こり、そこから(直接、または他の動物を介して)人へ感染するというのだ。
人が移動を捨て、都会に集中することを捨て、安定した食料の供給を捨てたら、あるいは感染症の脅威を克服できるのだろうか?
いや、それらは爆発的な感染を防げるだけで、感染そのものを防ぐものではないのだろう。
ならば、今後も我々の闘いは続く。
ワクチンや新薬で駆逐するのか、あるいは弱毒化したウイルスと共存しながら。
石 弘之氏は「赤の女王効果」というものを紹介している。
ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する赤の女王のセリフにこのようなものがある。
「いいこと、ここでは同じ場所にとまっているだけでも、せいいっぱい駆けてなくてはならないんですよ」
私たちは新型コロナウイルスの感染を終え、以前の生活を取り戻した後も、同じ場所にとどまるためには全力疾走を続けなければいけないのだろう。
今回は『感染症の世界史』のほんの一部を紹介したが、この他にもコレラ、ペスト、インフルエンザ、エイズ……と、沢山のウイルスが紹介されている。
興味を持ってもらえたら、ぜひ一読していただきたい。