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これなら読めるぜ!現代語に訳して!「鬼哭寺の一夜」夏目漱石【解説編】

割引あり

鬼哭寺きこくじ一夜いちや

夏目なつめ漱石そうせき


長旅で心身が疲れていた私は、
見つけた古い寺で夜を明かす。
屋根を伝う雨音が寂しく響き、
辛い思いをしている私だけが、
世界の終わりのように感じる。
風もないのに寺の旗が揺れて、
不吉に暗い方へと傾いている。
仏様も寒く感じているだろう。
片隅で金色に光る蜘蛛の目が、
暗闇を縫うように動いている。
銀色に輝く蜘蛛の糸を見ると、
冥府よみの色より不気味に感じる。

 百里に迷ふ旅心、
 古りし伽藍に夜を明かす。
 甍漏る音の雨さびて
 憂きわれのみに世死したり。
 風なく搖らぐ法幢の、
 暗き方へと靡くとき、
 佛も寒く御座すらん。
 黄金と光る
 蛛の眼の、
 闇を縫ふべき計、
 銀糸に引く見れば
 冥府の色より物凄し。 


そのとき、枕元に何かが 
近づいてくる気配がした。
ぼんやりと目が覚めると、
夜中に灯る寺の明かりが、
不気味に青く漂っている。
誰かが私を呼ぶ気がして、
石を抱いたかと思ったら、
仏の目が血走って見えた。
立っているのは女なのか、
はっきりしないその姿が 
薄い布を通して白く透け、
かすかに眉が緑色に光る。
仏だと思ったのは女性で、
女性だと思ったその姿は、
化け物なのかもしれない。
喉元に呪いをかけたのか、
異世界ような声を出して、
細い声で語りかけてくる。
それは歌なのか詩なのか。

 折しもあれや枕邊に、
 物の寄り來る氣合して、
 圓かならざる夢冴えつ、
 夜半の燈に鬼氣青し、
 吾を呼ぶなる心地して、
 石を抱くと思ふ間に、
 佛眼颯と血走れり。
 立つは女か有耶無耶の
 白きを透かす輕羅に
 空しく眉の緑りなる
 佛と見しは女にて、
 女と見しは物の化か
 細き咽喉に呪ひけん
 世を隔てたる聲立てゝ
 われに語るは歌か詩か


『過去の思い出は宝石のようだ。
 まつ毛の涙に、今も君の面影。
 希望や夢が見えたかと思えば、
 はかなく砕け散ってしまった。
 周囲はつれなく、孤独を感じ、
 月さえも悲しく見えるものだ。
 私の願いも、月までは届かず、
 虚しくも二十年の時が過ぎた。
 夜空を見上げ、密かに祈れば、
 夜空に彷徨う星が落ちてくる、
 闇夜を貫く素早い流星の光が、
 古井戸の奥底に、響いていた。
 陽炎のように揺らめく黒髪が、
 長く乱れて、変わるのならば、
 蘭麝のような、高貴な香りが、
 土に還れど残るかもしれない。
 時間の経過と共に朝露が乾き、
 菫が枯れてしまったとしても 
 愛情は紫色に溶け込みにくく、
 恨みというのは、碧く蓄積し、
 消えることなく心にとどまる。
 果たされなかった恋に縛られ、
 その悲しみは強い誓いとなり、
 墓石さえも動かすほど激しい 
 その嘆きの声を、聞くがよい』
 …………………
 墓石を動かせと泣くその声に、
 秋風が墓も動くほど吹き続け、
 夜明けには白々と明るくなる。
 夜に見た夢の跡を見つければ、
 草花が生え明るくなるだろう。

『昔し思へば珠となる
 睫の露に君の影
 寫ると見れば碎けたり
 人つれなくて月を戀ひ
 月かなしくて吾願
 果敢なくなりぬ二十年
 ある夜私かに念ずれば
 天に迷へる星落ちて
 闇をつらぬく光り疾く
 古井の底に響あり
 陽炎燃ゆる黒髮の
 長き亂れの化しもせば
 土に蘭麝の香もあらん
 露乾て菫枯れしより
 愛、紫に溶けがたく
 恨、碧りと凝るを見よ
 未了の縁に纏はれば
 生死に渡る誓だに
 塚も動けと泣くを聽け』
  …………………
 塚も動けと泣く聲に
 塚も動きて秋の風
 夜すがら吹いて曉の
 茫々として明にけり
 宵見し夢の迹見れば
 草茫々と明にけり


呪文のような、このおはなし。
現代語に訳しても何が言いたいのか
はっきりしないって思う人もいるでしょう。
そんなキミのために、
ざっくりと、解説します。

この物語は、ある人が雨の夜に寺に泊まるところから始まる。寺は静かで、外は雨が降っている。主人公はその夜、いろいろな不思議なことを体験する。

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