数学(2022/6/26):キューネン本2冊についての記事_11.ZFC集合論の公理のリスト_9(選択公理と、そのバリエーションとしての整列可能定理と、選択公理と等価である命題全般)
1.『基数としての自然数全体の集合』までのロードマップ
1_1.(ZFC集合論の公理8_1)『選択公理』本体
1_1_1.『選択公理』本体以前の下準備
さて、『集合一般における基数』を作るために、前回ZFC集合論の公理の1つ、『基礎公理』(より正確にはその等価なバリエーションである『万有クラス上の超限再帰』)の話をしたのでした。
別のやり方として、ZFC集合論の公理の1つ、『選択公理』(より正確にはその等価なバリエーションである『整列可能定理』)というものを使う方法があります。
それでは、選択公理、そして整列可能定理とは、どのようなものか?
これを説明する前に、いくつかの概念を構築します。
1_1_1_1.分割
“MECE“(「互いに重複せず、全体として漏れがない。つまりは、漏れなく、ダブりなく」(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive))や全体部分関係の話を考えると、こう思いたくなります。
「非交和は全体部分関係における全体と考えられる。
ならば、全体部分関係における部分とは何か?
たとえば、非交和の部分集合で、ダブりのないものを全部羅列したとする。
そうすれば、それらは正に全体部分関係における部分と考えられるではないか?」
実際にも、そういうことなのです。つまりはこれは要は全体と部分なのだから。
「全種類をさらに部分に分割する」ということは、「全体部分関係」をうまく言い表すのに適したたとえです。
あらかじめ言うと、この部分を『分割』と呼びます。
***
もう少し数学的な話をします。
まず、非交和の部分集合をとります。ここまでは着想のとおりです。
ただし、一つ、気をつけねばならないことがあります。
部分集合は、奇妙なことに、空集合や集合自身を取ることも可能なのでした。
今回の操作では、空集合は使わないことにします。
つまり、この部分集合は空集合でない集合のみを使います。
(空集合を使っていいことにすると、何らかの集合と空集合の和集合をとることになります。
が、この操作によって生じるのは、要は何らかの集合そのものに過ぎません。
なので、この操作は何か新しい数学的対象を構成する上では、端的に無意味です。)
これら空集合でない部分集合に「ダブりのない」ことを確認したい場合は、共通部分を取って、空集合である、つまりは共通の要素がないことを見れば良いのでした。ここは非交和の時と同じ要領になります。
こうして、これらの部分集合の一つ一つを、『分割』と呼ぶことになります。
***
ある集合を、その部分集合と、それと共通部分のないさらに別の部分集合に切り分けることができます。
このとき、「その部分集合」と呼ばれたものは、「ある集合」に『包含』されている訳です。
奇妙な話ですが、ある集合と、それに包含されている部分集合(今回は「その部分集合」)の、共通部分と差集合を考えることができます。
全体と、その部分との、共通部分と差集合、果たしてどうなるのか。
実は、共通部分は「その部分集合」そのもの、差集合は「それと共通部分のないさらに別の部分集合」そのものになります。
イメージとしては「きれいな」引き算になる、という訳です。
『差集合』の「きれいさ」は、『分割』の「きれいさ」に通じるところがあります。
というより、妙な話ですが、『分割』とは、差集合をとる引き算の操作を、何回かやるのと同じことです。
共通部分と差集合の切り分けられる性質が、『分割』に効いている、と考えても構わない訳です。
1_1_2_1.同値類
さて、同値関係のことを覚えていらっしゃいますでしょうか。
「関係同士を繋げられる」
「自分自身を含む約束の下で、以上以下めいた関係を作れる」
「異なる者同士、aとbの関係と、bとaの関係を、同一視できる。つまり、異なるもの同士でもある種の同等が成り立つ」
奇妙な順序関係でした。
「ある同じ性質を持つ異なるもの同士」を関係づけるときに、これらの性質が必要になるのです。
***
そして、これをやると、「ある同値関係にある要素たち」と「その他の要素たち」ができます。
この、ある同値関係にある要素たちを全て集めた集合を、『同値類』と呼びます。
1_1_2_2_A.代表要素
それぞれの同値類から何か一つ要素を取り出すことにします。この要素を『代表元』または(キューネン本風に翻訳すると)『代表要素』と呼びます。
1_1_2_2_B.商集合
また、同値類の集合を『商集合』と呼びます。
たとえば、同値類を使い、集合 {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7}を
「3で割り切れる数の同値類」
「3で割ると1余る数の同値類」
「3で割ると2余る数の同値類」
すなわち
{3, 6}
{1, 4, 7}
{2, 5}
に分割することができます。
これを集めた集合族 {{3, 6}, {1, 4, 7}, {2, 5}} は、元々の集合、{1, 2, 3, 4, 5, 6, 7} に似ていますが、別のものです。
この同値類と分割の合せ技が商集合です。
(見ての通り、これは部分集合の集合であるので、商集合は実は冪集合の部分集合だったりもします。)
1_1_3.『選択公理』本体
「空集合でない商集合に所属する、全ての空集合でない同値類の、要素として存在する代表要素から、新たな集合(『選択集合』)を作れる」
***
さて、今回の記事の本題です。
選択公理とは、上記のようなものです。
これを前提すれば、『選択集合』として、たとえば全種類の集合が常に作れる、という寸法です。
置換公理図式と同じく、かなり便利そうに見えますね。
これも、置換公理図式と同様、嫌う人もいたのですが、私はふつうに使います。(何も考えずに、「説明力が上がるので嬉しい」と感じます)
***
さて、この『選択公理』本体は、いくつもある『選択公理』と等価である命題の中でも、一番シンプルなものと言えます。
実際には、少なくともキューネン基礎論I章やキューネン集合論I章において、これをこのまま使うことはありません。
むしろ、その等価なバリエーションの方がよく使われます。
今から述べる『非空集合選択函数存在定理』、そしてそれ以上に後述する『整列可能定理』がそうです。
1_2.選択公理のバリエーション、非空集合族選択函数存在定理
「空集合でない集合の集合族は常に選択函数を持ち、個々の空集合でない集合の各々の要素を集めた選択集合を、終域として想定できる」
***
とある理由で、選択公理のバリエーション、非空集合族選択函数存在定理の話をします。
(この論理式に特に名前はなく、だからこういう名前で呼ばれているわけではないのですが、意味合いとしてはこれでよいはずです)
なぜか。
最終的には選択公理と、後述する整列可能定理の等価性を言うことができればよいのです。
キューネン基礎論では、選択公理と、この項目でいう非空集合族選択函数存在定理の等価性を示した後で、非空集合族選択函数存在定理と整列可能定理の等価性を示すことで、選択公理と整列可能定理の等価性を示しています。
この記事もそれに倣おうということです。
***
非空集合族選択函数存在定理とは、この項目の冒頭で述べた主張のことです。
「何らかの要素を選ぶ」というところは、選択公理本体で言っていた代表要素の選択と酷似していますね。
ただし、選択公理本体に比べ、大きなメリットがあります。
個々の空集合でない集合同士が共通部分を持っていようが持っていまいが関係なく使える、ということです。
(選択公理本体では、共通部分のない、『商集合』を前提としていました。
これは、MECEできれいではありますが、もしMECEでないものを扱いたい場合、選択公理本体はそのままでは使い物にならなくなってしまいます。
そういう時に、なおも選択集合が作れるので、非空集合族選択函数存在定理は便利なのです。)
***
選択公理本体と非空集合族選択函数存在定理が等価であることの証明はしません。
ただ、メカニズムは酷似しているので、難しくはありません。
また、今まで書いた以上の概念も必要ないはずです。
1_3.選択公理のバリエーション、整列可能定理
1_3_A.順序数でない場合でも「常に」濃度を求めたいが、その時は「「すべての」集合を整列可能集合に見立ててもよいものとする」という約束事が要る
特に順序数における基数の構成の一環で、濃度の構成の際に、
「「ある」集合を整列可能集合に見立てる」
プロセスを行ったのでした。
この手がいつでも使えるように、
「「すべての」集合を整列可能集合に見立ててもよいものとする」
という約束事を設けることもできます。
これをやると、順序数でない場合でも、常に集合のある種の大きさとしての濃度や基数が測れるわけです。
日常生活において様々な状況下で様々なものの個数を扱う我々にとっても、個数を数学的に扱いたいある種の数学者たちにとっても、この約束事は非常に便利なものです。
これを常に前提として採用したら、個数を数え上げるにも、数学的に扱うにも、何の問題もなくなるでしょう。
***
実際に『整列可能定理』の話をする前に、『非空集合族選択函数存在定理』と『整列可能定理』の等価性の話をしておきます。
まず、『非空集合族選択函数存在定理』から『整列可能定理』を証明するには、既に述べた『ハルトークス数』を代替的な基数として使う必要があります。
1_3_A_1_a_1.濃度における以上以下
ハルトークスの数を、基数の代替として使うためには、いくつかの段階を追っていきます。
濃度における以下
濃度において以下でないこと
ハルトークス数
また、とある理由で、『同濃度』の話を、ハルトークス数の説明の直前に挿入します。
***
濃度における以下は、実は既に説明してあります。
「函数が単射というものである」
ということは、
「始域の全ての要素が終域の全てではない要素に対応しているとき」
をさしており、これは
「始域がある意味で終域以下の大きさを持つ」
つまりは
「始域は終域以下の濃度を持つ」
ということであったのでした。
***
もうちょっと丁寧に考えてみます。
濃度は(広義の)函数によって定義できるのでした。
上記の話に則ると、始域が終域以下の濃度であった場合、2つの集合の間には、単射が成り立っています。
そして、函数は合成することもできます。
キューネン基礎論翻訳ではこれを『函数の合成』と呼んでいますが、世間的には『合成写像』とか『合成函数』とか呼ぶはずです。
考え方としては、函数 F と G があり、F の終域の要素と G の始域の要素で全て同じ変数が使われているもののみに着目し、F の始域の要素と G の終域の要素を順序対にした集合を考えれば良いのです。
この(集合論的な)関係は、函数でもあり、これを函数の合成と呼ぶ。という考え方です。
イメージとしては、
「F の終域の要素にして G の始域の要素であるものたちが、F と Gをつなげている」
と考えて下さい。
***
すると、
「AならばB、かつ、BならばCである。すると、AならばCである」
という推移性が、函数の合成をもって、濃度においても成り立ってしまっていることが分かります。
そして、
「自分自身と関係を持つ」
という反射性は、恒等写像をもって、濃度においても成り立ってしまいます。
(単射の中には全単射があり、その中には恒等写像があり、現時点ではこれを特に除外しないので、反射性が言えます。)
何の話か。
「推移性・反射性が成り立つ関係」のことを、『(広義の)前順序関係』、以上以下と呼ぶのでした。
つまり、濃度において、こうして(広義の)前順序関係、以上以下が成り立つことが言えます。
1_3_A_1_a_2.濃度において以上でないこと、濃度において以下でないこと
さて、妙な話をしますが、「濃度において以上でないこと」「濃度において以下でないこと」という考え方の話をします。
とはいえ、「濃度における以上」「濃度における以下」の否定論理式を作ればよいのです。簡単ですね。
***
「何の役に立つのか?」
ある集合を始域に、別の集合を終域に見立てて、
「始域は終域以下の濃度を持ち、終域は始域以下の濃度を持つ」
または
「始域は終域以下の濃度を持ち、終域は始域以下でない濃度を持つ」
ことが言いたくなる事態が、そのうち出てきます。
直感的に、前者は同濃度に関する何らかの話をしているように見えますし、後者はどうやら濃度における超過未満の話をしているように見えます。
つまり、後者の説明に、「濃度において以上でないこと」「濃度において以下でないこと」が役に立ってくるのです。(後述)
1_3_A_1_b.同濃度
後々のために、まず、同濃度の話を、少し丁寧にします。
濃度は(広義の)函数によって定義できるのでした。
同濃度であった場合、2つの集合の間には、全単射があります。
そして、函数は合成したり、始域と終域を同じ集合とすることもできます。
(後者の場合の(広義の)函数は、恒等写像というのでした。これは当然ながら全単射です。)
***
さて、濃度では
「AならばB、かつ、BならばCである。すると、AならばCである」
という函数の合成の推移性と、
「自分自身と関係を持つ」
という恒等写像の反射性が言えるのでした。
さて、特に同濃度ならば、全単射が成り立っているので、
「ある数学的対象から別の数学的対象へ、ある関係が成り立っている場合、別の数学的対象からある数学的対象から別の数学的対象へも、同じ関係が成り立っている」
対称性が成り立っています。
何の話か。
「推移性・反射性・対称性が成り立つ関係」のことを、『同値関係』と呼ぶのでした。
今までの話から分かるように、同濃度は、全単射という条件を用いた、同値関係の一種です。
(全単射と同値関係は別の概念ですが、だからこそ、同値関係を設ける時の条件に全単射を使っても、何の問題も生じません)
***
もう少し強い条件を設けると、ある集合と別の集合が、「全単射を持ち、順序的構造においても同一であると言える」、『順序同型』である場合、これらの集合は間違いなく同濃度です。
順序同型であることをもって同値関係を設けて同値類を区切り、この同値類、『真クラスとしての濃度』を、暫定目標(正確にはその中間目標)である『集合一般における濃度』の構成に用いることになります。
だから、実際にはこの定義を使うことになると認識しておいて下さい。
(詳しい説明は『集合一般における濃度』の記事で行います。)
1_3_B.代替的な基数としてのハルトークス数
ある集合から別の集合への(広義の)函数は函数の逆を取ることができます。つまり、別の集合からある集合への(広義の)函数です。
さて、函数の逆が単射でない場合、別の集まりはある集まりと比べて、「濃度において以下でない」訳です。
さて、ハルトークス数とは、正にそのような別の集合の要素である順序数のことだとみなすことができます。
元々のハルトークス数の構成は、
「函数の逆が単射でなく、別の集合が何らかの順序数の集合であった場合における、別の集合の要素である順序数」
のことでした。
この時点では、「濃度」という概念は必要ないようにしてあり、もっとはるかに弱い「順序数」の使用に終始していました。
今回はこれを代替的な基数として扱いますので、
「ある集合以下でない濃度を持つ最小の順序数「を、代替的な基数として見立てたもの」」
として扱ってよくなります。
***
これだけでは何のことかわからないので、もう少し説明します。
「代替的な」「基数」という言い方に含みがあります。
通常は選択公理(整列可能定理)を使って定義する『集合一般における基数』と違い、ハルトークス数では選択公理(整列可能定理)を使いません。
だからこそ、選択公理からの整列可能定理の証明に使っても、循環定義にならず、安全なのです。
また、選択公理を使わずに極力できるところまで数学を構成したい人たちにとっては、これは基数の代替として便利な代物である、ということです。
***
なお、順序数に対してしか意味をなさない『特に順序数における基数』と違い、ハルトークス数は、集合一般に対して適用できるのが大きな強みです。
(とはいえ、この記事ではふつうの『集合一般における基数』もきちんと正当化したいので、『ハルトークス数』と『整列可能定理』を使った構成を、後で行うことにします。)
***
『特に順序数における基数』は、
「集合を整列可能集合に見立て、これに対応しうる可能な目盛りとして必要最小限で済むようにした、最小の順序数」
である『特に順序数における濃度』を取り、
「集合としての『特に順序数における濃度』の要素の個数として、集合の大きさを最も正確に表すものとして、『特に順序数における濃度』そのものの値を採用した場合の、その順序数」
を取ることで定義できるのでした。
『ハルトークス数』は、
「ある集合以下でない濃度を持つ最小の順序数」
を取り、
「ある集合の大きさを最も正確に表すものとして、『ある集合以下でない濃度を持つ最小の順序数』そのものの数値を採用した場合の、その順序数」
を取ることで定義できるのです。
このように、メカニズムは似通っています。
使っているものが、整列可能集合なのか、単射なのかが違うだけです。
「集合の大きさを比べたい、測りたい」
という元々の動機からすると、単射を使うのは単純明快な発想に思えます。
***
ちなみに、いくつかの方法で構築した順序数は、ハルトークス数と同濃度であり、これらをハルトークス数の定義として同一視することも可能です。
これについてはキューネン基礎論I章11節が詳しいので、興味がございましたら読んでみるのも一興かと存じます(大変ですが)。
1_3_X.選択公理のバリエーション、整列可能定理
「いかなる集合をも整列可能集合に見立ててもよいものとする」
***
さて。
実は、「あると嬉しいもの」として提示していた、上記の仮定こそが、正に『選択公理』のあるバリエーション、『整列可能定理』だったりするのです。
『選択公理』と『非空集合族選択函数存在定理』と『整列可能定理』は論理式として等価です。
ただし、
『選択公理』は商集合と代表要素と選択集合を、
『非空集合族選択函数存在定理』は選択函数と選択集合を、
『整列可能定理』は整列順序と整列可能集合を、
用いているのが微妙に違うところです。
自然数や、あるいはそれより弱い順序数に比べ、整列順序や整列可能集合は弱すぎて有難味がいまいちわかりづらいところがあります。
ですが、実は集合のある種の大きさを測る時に意義があったし、そのために役立つZFCのある公理のあるバリエーションを記述するのに必要だったのですね。意外な話です。
歴史的経緯で選択公理やそのバリエーションを嫌う人たちも実はいますが、私はその経緯がどうもピンとこないので、そのまま使う派です。
「個数の扱いのため、是非とも選択公理は公理として採用していたい」というニーズを満たさないのであれば、その不満足な説明の体系は、端的に説明能力に劣る。としか言えないように思います。
1_3_X_1.非空集合族選択函数存在定理と整列可能定理の等価性
非空集合族選択函数存在定理と整列可能定理の等価性については、かなり長くなるので、説明しません。
ちゃんと書いたら、もう数学寄りの人以外には読めたものではない、外国語めいた数式まみれの記事になるでしょう。
***
とはいえ、整列可能定理から非空集合族選択函数存在定理を言うのは、まだ簡単です。
空集合でない集合の集合族の和集合をとり、これを介して個々の空集合でない集合に対し、後述の整列可能定理をもって整列順序を設定します。
整列順序は(狭義の)全順序関係と整礎的関係の組み合わせであり、だから最小要素が必ず存在します。
この最小要素でできた選択集合を作れば、選択函数の条件が満たされます。
これで、整列可能定理から非空集合族選択函数存在定理を言うことができます。
***
非空集合族選択函数存在定理から整列可能定理を言うのが大変なのです。
とりあえず、ハルトークス数を使う、ということだけお話しします。
(本当に大変なので、気合のある方はぜひキューネン基礎論I章12節に挑戦してみて下さい。)
***
ちなみに、キューネン集合論I章の章末問題における、整列可能集合の定義は、以下の通りでした。
「ある集合を考える。
その冪集合を考え、さらに空集合の単元集合を考え、これらの差集合を取る。
この差集合から元々の集合への(広義の)函数を考える。
(空集合の単元集合を取り除いたのは、空集合を始域とする函数はいろいろ扱いが難しくなるので、考えないで済むようにしたいためです。)
また、この函数においては、空集合でない部分集合の像が、空集合でない部分集合に所属するものとする。
このような函数が存在するとき、元々の集合は整列可能集合である」
これを、全ての集合において成り立つと仮定したものが、整列可能定理に他なりません。
その場合、
「ある集合を考える。
『その集合には空集合が所属しないものと考える。』
その冪集合を考え、さらに空集合の単元集合を考え、これらの差集合を取る。
『また、その集合が集合族だった場合に備え、要素を和集合の操作で全て並べておく。』
この差集合から『その和集合』への(広義の)函数を考える。
(空集合の単元集合を取り除いたのは、空集合を始域とする函数はいろいろ扱いが難しくなるので、考えないで済むようにしたいためです。)
また、この函数においては、空集合でない部分集合の像が、空集合でない部分集合に所属するものとする。
このような函数はある種の選択函数として機能する。
そして、『空集合が所属しない集合を考えた場合』、このような選択函数が存在することが『含意される』とき、これは整列可能定理と等価の主張である」
こういうことです。これが実は
「空集合でない集合の集合族は常に選択函数を持ち、個々の空集合でない集合の各々の要素を集めた選択集合を、終域として想定できる」
すなわち非空集合族選択函数存在定理の具体例にもなっているのです。
つまり、これは、非空集合族選択函数存在定理から整列可能定理を言う時の、より正確な表現になります。
(繰り返しますが、それでも残りの部分を説明するのがかなり大変であるため、これ以上の説明はしません。)
1_4.選択公理のバリエーション、タッキーの補題
この他にも、選択公理にはバリエーションはたくさんあります。
キューネン基礎論で示唆されているのは、以下の通りです。
二つの集合で片方の濃度が常にもう片方の濃度以上か以下である命題
タッキーの補題
ハウスドルフ極大原理
ツォルンの補題
どんなベクトル空間も基底を持つ主張
***
「ベクトル空間ってここで出していいんだっけ。かなり前提の多い高度な数学的対象では?
ベクトル空間は体上の加群というやつなので、集合と演算の順序対たる代数系、特に体と加群を要請する訳だ。
が、体くらい高度な代数系って、今まで出てきた数学的概念で作れたっけ…?」
(できなさそうな気もしますし、できそうな気もしますが、いずれにせよ後で検証しないといけません。
ここは個人的には宿題とします。)
***
他のものは、今まで説明した概念と、あと少しの説明をすれば、できます。
特に、タッキーの補題(キューネン基礎論翻訳表記による。世間的にはテューキーの補題と呼ばれているように見えます)では、未だ説明していない、ある重要な概念がいくつか使われていますので、その話をします。
1_4_1.シュレーダー-ベルンシュタインの定理
これは何かというと、
「ある集合が別の集合以上の濃度を持ち、かつ別の集合以下の濃度を持つならば、ある集合と別の集合は同濃度である」
ということです。
「かなり前に、半順序関係のところで、反対称性の話をしたでしょう。
以上かつ以下なら同等って性質。
あれでいいのではないのか?」
と直感的には見えるのですが、濃度でこうした反対称性が成り立つことを丁寧に証明しようとすると、これがなかなか大変です。
(濃度は順序数をそのまま使っており、だから整列順序です。
なので、当然半順序関係でもあるし、その条件である反対称性は、成り立っていなければおかしいのです。
これの証明は、できていて然るべきところです。)
***
以前、基数としての自然数、有限基数または個数と呼ばれるものの話をするために、数学者デデキントによる
「ある集合から部分集合に単射があるなら、ある集合と部分集合は同濃度である」
という補題(定理の証明に使える命題)の話をしたのでした。
実はこれを使うと、シュレーダー-ベルンシュタインの定理が証明できます。
***
さらに丁寧な話をすると、これの証明には、既に説明した『函数の合成』や、また『函数の逆』を用います。
***
最終的に、これらの手法を駆使し、ある集合と別の集合が全単射、すなわち同濃度であることが言えるようになります。
これがシュレーダー-ベルンシュタインの定理の意義です。
1_4_2.濃度における未満
さて、シュレーダー-ベルンシュタインの定理は、濃度における狭義の全順序関係、つまりは、超過未満を定義するのに使われます。
濃度における以上以下や、「以上でない」「以下でない」は既に定義できるのですが、超過未満はまだでした。
シンプルに考えると、
「ある集合は別の集合以下の濃度を持つが、別の集合はある集合以下ではない濃度を持つ」
という話をすればいい訳です。
ここに、シュレーダー-ベルンシュタインの定理とデデキントによるシュレーダー-ベルンシュタインの定理の補題を用いると、
「ある集合から別の集合への単射はあるが、全単射はない」
場合、
「同濃度ではない」
という定式化ができます。
つまり、濃度における以上以下から同濃度を取り除けるので、濃度における超過未満が残ることになります。
1_4_3.有限集合
ここで、奇妙にも、濃度における未満が、有限集合の構成に効いてきます。
有限集合の発想はシンプルです。
「中に何個かの要素がある集合」
ということです。
我々が集合について考えて、数え上げについて意識すると、ほぼこれになるでしょう。
もう少し数学的にお堅い有限集合の定義とは、
「ある順序数としての自然数以下の濃度を持つ集合」
です。
有限集合の要素は個数で数えられてしかるべきなので、この定義はもっともです。
また、特に順序数における濃度および基数の話を鑑みると、我々の直感である
「有限基数を持つ集合」
という話はそのまま正当化されます。
さて、実は、
「ある集合が有限であること」
と、
「その集合が整列可能で、かつその集合の濃度が、順序数としての自然数全体の集合未満であること」
とは、等価です。
すると、ここで整列可能集合と、順序数としての自然数全体の集合と、濃度における未満の定義が欲しくなります。
前者2つは既に構成してありますし、後者1つは今さっき構成したので、これで問題なく有限集合が構成できます。良かったですね。
1_4_4.タッキーの補題
「有限特性の集合族の全ての要素について、それらを常に包含する、極大な要素が存在する」
***
有限集合を使うと、様々なものが定義できます。
部分集合でかつ有限集合であることが保証されていたら、これを有限部分集合と呼びます。
ある集合の有限部分集合全体の集合を、キューネン基礎論では有限特性の集合族と呼びます。(冪集合の話をしたと思いますが、作り方から分かるように、有限特性の集合族は冪集合の部分集合になります。)
***
さて、タッキーの補題は、ご覧の通り、今言った有限特性の集合族を使うものです。
「それは分かったが、極大な要素とは何か?」
冪集合の部分集合における極大な要素とは、
「これを包含する別の要素なるものは存在しない」
という性質を持つ要素のことです。
冪集合の部分集合の要素は、何らかの集合の部分集合であるので、包含に従います。
そのうち、他に包含されない、ことさら大きいものがあるはずだ、ということです。
さっき言った通り、有限特性の集合族も冪集合の部分集合なので、この性質に従います。
***
タッキーの補題は妙なところに役立ちます。
先ほど述べた、「どんなベクトル空間も基底を持つ主張」とは、本当はタッキーの補題をベクトル空間に適用したものに他なりません。
つまり、これは本当は選択公理のバリエーションのうち、特にタッキーの補題のバリエーションなのです。
1_X.選択公理と等価である命題全般
ともかく、結果的には、非空集合族選択函数存在定理と整列可能定理の等価性が言えます。
そして、選択公理本体と非空集合族選択函数存在定理も等価であるので、この3つが等価であることが言えるようになります。
他にも、タッキーの補題や、「どんなベクトル空間も基底を持つ主張」など、等価な概念がたくさんあり、これらを一律に「『選択公理』と等価である命題全般」とみなしてしまいましょう。
2.次回予告
さて、いよいよ、集合一般における濃度を構成します。
これが終われば集合一般における基数を、基数における超過を、有限基数より大きい基数を、ひいては基数としての自然数全体の集合、"aleph-0" と呼ばれるものを、構成できます。
是非やっていきましょう。
(続く)