旗持ちを侮るなかれ
「パパ、今日旗持ちだよ…」
「えっ!忘れてた…」
久しぶりの休日。1歳次男とごはんを食べながら優雅な朝のひとときを送っていた。
7歳三女の一声で我に帰り、チョコのついた食パンを次男の口に詰めこみ、急いで部屋着のまま家を出る。あーマスクも忘れた…まぁいいか。
良かった。間に合った……。
まだ他の人も配置についていない。
「じゃあ今日はここの交差点やりますので、ローソンの方お願いできますか?」
なんてやりとりしてるうちに黄色い帽子をふわふわ揺らしながら小学生たちがこっちへ向かってくる。
半袖短パンで元気な子。
どうした?ってぐらい寝癖だらけの子。
友達との話に夢中で置いて行かれそうな子。
親に付き添ってきてもらっている子。
「おはようございます」
「早く渡っちゃってね」
普段あまり学校行事に参加できないので、旗持ち当番はいまどきの小学生とふれあう貴重な機会だ。我が子とも会えるし、ニコッと手なんか振ってくれたら最高だ。
そして旗をもつとサッカーの副審のように旗を振りたくなる。私だけ?
少年サッカーのコーチをやっていた時によくこの副審をやらされた。
副審はどっちのボールか?オフサイド?など毅然とした態度でジャッジして旗を振らなければならない。自信満々でシュバッ!旗でこんな音が鳴るくらいキビキビと動かすのがカッコいいのだ。
旗を持つと、無意識でついラインズマン的な動きになってしまう。赤から青に変わった瞬間、手と旗をまっすぐ伸ばしスナップを効かせシュバッ!
ちょっと気持ちいい。。これではただの旗振りに快感を覚える変なおじさんだが、せっかく朝早くから子どもたちと顔を会わせるのだから、背筋を正して元気よく見送りたいなと思っている。
一般的に、みんなあまりやりたがらない旗持ちだが、
「旗持ち?行く行く!」と言う私に奥さんは
「朝の忙しい時間にあなたみたいなモノ好き、そうはいないわ」
でも、とても助かっているとの事で旗持ちに行けるときは必ず行くようにしている。
集団登校なので15分ほどで子どもたちを見送った。今日はいつもよりたくさんの子どもが笑顔で挨拶してくれたな。マスクとってる子が多いからかな?
しかし楽しみにしていた我が子の姿が見えなかった。一度にたくさんの小学生が横断歩道を渡って見失ったか?
一仕事終えて旗をクルクルコンパクトに丸めながら、ふと手元を見ると濃い茶色のシミが手についてる。
なんやこれ……?
手をゆっくり鼻に近づけると、ちょっと香ばしい匂い。ん?チョコか!なんだか嫌な予感。口元を手でぬぐうと、人差し指が丸ごとダークブラウンに染まる。
まさか!?
息子と一緒に食べていたパンに塗ったチョコクリーム?
どうやら部屋着のスウェットに口元にチョコをまとったまま勢いよく旗を振っていたようだ。ご近所さんとも話したから余計に恥ずかしさがこみあげてくる。
みんな笑顔で挨拶してくれたのも「朝からなかなかヤバいやついるぜ。見ろ!」ってな感じで小学生がニヤニヤしていたのかもしれない。
「今日、旗持ちしてるパパ見た……?」
夕方学校から帰ってきた三女に恐る恐る聞いてみた。
「手振ろうと思ったのに、ちょうど近く通った時、車の方見てたよ」
セーーーーーフ!
恥ずかしくて友達の後ろに隠れて行ってしまったに違いない。と思っていた私は胸をなでおろした。
子どもたちの安全を見守る私が、子どもたちをビックリさせてはならない。これからもまだまだ旗持ちせにゃならんのに「パパは旗持ちやめて!」なんて言われちゃたまったもんじゃない。
翌日、ちょうど旗持ちの時間に仕事に出て、旗持ちしているパパを見て腰を抜かした。
スーツにグラサンをかけて旗持ちしとるではないか……。目立ちたいんか、シャイなんかようわからん。色んな見送り方があるものだ。
口の周りがチョコまみれのおじさんとこのハンターパパが対面の交差点におったらかなり面白かっただろうな。
そんなことを考えて朝からニヤニヤして少し元気になった。
これからも変なおじさんと言われない程度に元気よくシュバッと旗を振り、子どもたちを見守っていきたい。