父が教えてくれた大切なこと
仕事で関西へ行ったので、久しぶりに実家に帰り、父と一緒に酒を飲んだ。以前、一度紹介したスマホを使いこなすお茶目な父だ。
今では、スマホのフリック入力やスクショまでマスターしている。以前のような誤入力もなくなったが、切れ味は相変わらずだ。
産まれてくる子どもは男の子のようだ。と伝えた数日後に突然、エンジェルネームを提案してきたりする。が、私の問いには一切レスポンスがない。
これを父に問うと……
「面白いかと思って……ハハッー!」とスキンヘッドに白髪の長い顎ひげをなで、ゲソを口から出しながら、楽しそうに笑っていた。
酒を飲みながら話していると、ふと昔のことを思い出した。
父は破天荒な人だった。
駐車場
あれは、中学生の頃。日曜の昼下がり。
突然、警察から電話がかかってきた。どうやら父が何かやらかしたようだ。すぐに父は、呼び出され、家を出ていった。
父は逮捕されるのか?いったい何をしたんだ?
当時、住んでいたマンションから、警官に連れられ、歩いていく父をドキドキしながら見守った。警官と父は、車を停めている駐車場へ歩いていった。
駐車場は、お寺の裏にあり、車2台ギリギリ停められる小さな空き地だ。そこで、父は警官と20分ぐらい話をしていただろうか。
しばらくして、バツが悪そうな顔で、家に帰ってきた。
「一体どうしたの?」
「せっかくタダだったのに……くそっ!」
「えっ!?」
私たちにはたしか「この場所を借りている」と言っていた。間違いではなかったが、タダとも聞いていなかった。
家族みんな、開いた口が塞がらなかった。
半年は停めていたよね……。お寺から「知らない車が停まっている」と通報が入り、警察にこってり絞られたそうだ。それで、済むのだから良い時代だ。
しばらく母は怒っていたし、姉も、私も、父の破天荒さにビックリしたエピソードだった。
でも、どこか父は憎めない人だ。
強い男
父を語るのに忘れられないエピソードがある。
高校生の頃、阪神淡路大震災により自宅が被災した。住んでいた地域は、阪神地区で最も被害が大きい場所だった。
寝ていると、耳をつんざく轟音と、ミキサーでかき混ぜられたかのような揺れに、まったく身動きがとれず、気がつけば、私は衣装タンスの下敷きになっていた。
両親の寝室にも大きなタンスが3つあり、それらも全て倒れた。タンスが倒れた瞬間に、父は母を身を挺して守り、肋骨を骨折した。
家は半壊だったが、近所の方に救助してもらい、幸いにも家族全員が無事だった。
何度も余震が来る中、最低限の生活ができるよう倒れたもの、飛び散ったものを、みんなで片付けていた。
寝室のタンスも戻そうとしたが、一人では到底動かせそうにないくらいの重さだった。
中には、父のスーツ、母の着物など、よそいきの衣類と大事な通帳や私のへその緒まで入っていたそうだ。
「行くぞー、せーのっ!」
満身創痍の父の指示のもと、みんなで力をあわせ、タンスを起こそうとした瞬間、引き出しが、勢い余って丸ごと私たちの目の前に飛び出してきた。
そして、大量に目の前に落ちてきたものに目を奪われた。
ば、薔薇…………
それは、もうハンパない数の薔薇だった。
それを見た母は、恥ずかしそうな顔をして、すぐにタンスから手を放し、無惨に散らばった薔薇という名の避妊具を急いで片付けようとした。
「そんなもんほっとけぇぇ!今は、まずはタンスや」父が吠えた。
「はい!わかりました」と母もすぐに従い、タンスを元に戻し、その後も黙々と、部屋の復旧を行った。
しばらくの間、薔薇は所在なく畳の上に散らばったままだった。
あの時の、父はかっこよかった。震災は、辛く哀しい事ばかりだったが、今でも、私の心をパッと明るくしてくれるエピソードだ。
今の私があるのも二人のおかげ。父は、強い男だ。
アラームショック
飲んでいると、父が最近困っていることがあると言って、スマホを差し出してきた。
最近なぜか毎日、セットしていないiPhoneのアラームが4時頃に鳴るそうだ。しばらくすると、鳴りやむのだけど困っていると母も言っている。
そんな時間に毎日、アラームが鳴ったら早死にしちまう。どうにかしないと。しかし、iPhoneのアラームは設定されておらず、スマホに異常はなし。
調べると、どうやら同じトラブルで困っている方がたくさんいるようだった。iosアップデート後、まれにこのような症状が出るそうだ。
ひとまず、私が寝かせてもらう部屋にスマホをおいて様子を見ることに。
酔いも手伝い、熟睡していたが、夜中、突然のアラームに心臓がバクっと鳴り、飛び起きた。
結構な音量だ。毎日両親は、これを聞いているのか。さすがに寝ていられない。すぐにテーブルの上のスマホを確認しにいった。
しかし、待ち受け画面のショックアイは、蛇を見て固まったままだった。父は、なんの運を上げたいのだろうか。
どこだ?音の鳴る方向へ、暗闇の中を探すと、テレビ台の近くで音が鳴っていた。
テレビか…… ハッ! 違う!!
犯人
アラームはしっかり「4:23」で丁寧にスヌーズまでONにされている。こんな深夜にまで、話題を届けてくれるお茶目な父だ。
まさにアラームショック。
父から学んだこと
朝、起きてこの事を両親に伝えると「それは知らんな。お母さんやろ」と髭をなでながら、父は笑っていた。母は父を睨んでいた。
昔から破天荒さにビックリさせられたり、今でも母を困らせているが、父は、家族にたくさんの安心感をもたらしてくれている。
「ありのままでいいんだよ」という安心感。
今だから、そう思える。
そんな私も最近、奥さんから、父に似てきたと言われるようになった。
駐車場も契約しているし、今なら薔薇より家族を守ることも、きっとできるはずだ。
子どもたちに少しでも、安心感を感じてもらえるよう肩の力を抜いて、自分に正直に生きていきたい。
歳をとるのも悪くない。もうすぐ父の日だ。
感謝の気持ちを伝えよう。