SF小説をデザインツールとして活用する価値【Service Design Camp 2024レポート】
「サービスデザイン」の門戸を広げるイベント
顧客体験のデザインとともに、その提供を継続する仕組みや体制までもデザインしていく「サービスデザイン」というアプローチ。社会や事業環境の変化を受けて、近年その考え・手法への注目が高まっています。
その「サービスデザイン」をワークショップを通じて学び、実践するイベント「Service Design Camp 2024」が開催されました。当日にはトークセッションとともに、「自治体」「行動変容と組織」「食と健康」「地方課題」などさまざまなテーマを持つ8つのワークショップが催され、デザイナー、研究者、経営者から、学生まで、多くの人が集まり、活発な議論がなされました。
今回、「サービスデザインの門戸を広げる」というイベント主旨に賛同し、協賛したインフォバーンは、事業として企業のイノベーションとコミュニケーションの支援を行っています。特にイノベーションデザイン事業部では、「サービスデザイン」を軸として、クライアント企業の製品・サービス開発やビジョン策定、組織文化づくり、ブランドデザインなどをお手伝いしています。
当日には、「スポンサーライトニングトーク」のお時間をいただき、イノベーション・デザイン事業部に所属する阿部俊介から、「SF小説をデザインツールとして活用する価値」をテーマに話しました。
SF小説を「デザインツール」として活用する
「SF小説をデザインツールとして活用する」とは何か? その実例として紹介したのは、インフォバーンがパナソニック オートモーティブシステムズ株式会社からご依頼を受け、実際に「SF小説」を活用した共同プロジェクトです。
「このプロジェクトでは、パナソニック オートモーティブシステムズ様の事業領域に近しい「移動体験」をテーマに、未来の移動体験の明確化を目的として、ワークショップを行いました。その背景には、社員の方、特に若手社員が、目の前の仕事をこなしていくことに加えて、『自分たちがどうありたいか』『そのために会社で何をしたいか』を考え、自発的に会社の未来をつくっていく文化を育みたいというパナソニック オートモーティブシステムズ様からの要望がありました。
だから、ワークショップとしては、参加者の方々にとって『いかに腹落ち感のある未来の望みを抽出できるか』が肝でした。そのためにも、可能な限り未来の世の中に没入して考え、そこで自分が思うであろう望みを想像することが必要だと考えました」(阿部)
そこでデザインツールとして活用したのが、SF小説です。未来を想像する際に用いるツールとしては、未来洞察レポートや未来を分析・予測した資料を活用することが多いですが、そうした情報を解釈するだけでは、出てくるのは「他人事感の強い望み」になってしまうと考えたそうです。
そこでSF小説という「物語」を活用することによって、「未来の社会で生活する自分自身の姿を想像しやすくした」と阿部は言います。未来における「自分事化された望み」の仮説を得るために、具体的にはどのようにSF小説を活用したのか。
「大きく3つのステップがありました。まずは、みんなでSF小説を読み込んでいくこと。2つ目は、それぞれが読むなかで、自分自身にとって望ましいと感じる記述(『こういう未来になってほしい』)と、望ましくないと感じる記述(『こんな未来は嫌だ』)をそれぞれ抜粋し、そう感じた理由まで書き出してみる作業をしていただきました。
そこからは、それらをまとめたリストを参照しつつ、AIアシストなどのツールも使いながら、設定した時代(今回は2045年)に生きる自分自身のデモクラティック情報も仮説としてつくって重ね合わせ、対話をしてブラッシュアップし、自分が将来、望むであろうことの仮説を自分の言葉にしていく作業をしました」(阿部)
SF小説の活用はサービスデザインに通ずる
このプロジェクトで活用したSF小説は、事前にオリジナルの小説として作成したものです。未来を洞察した調査をし、そこから導き出された仮説を基にプロットを作成し、プロのSF作家との対話を重ねながら完成させたそうです。自作したことで、事業領域と関連性の高い小説となり、多角的に未来を検証しやすいツールとして機能しました。
「これらのプロセスを通して、参加された方々がわが事として想像できたことで、「実現すべき移動体験の姿」が明確になったのではないかと思っております。ワークショップのなかでは、個々人で望みを考えるだけではなく、望みが共通する人同士でチームを組んでもらうことで、『お互いに望む未来をどうつくっていくのか』を具体的に考える機会もつくりました。それが何かプロジェクトを立ち上げるきっかけになればと思います」(阿部)
このワークショップには、若手社員だけでなく、経営層も参加されていました。最後に「将来、この会社でこういうことをやっていきたい」という若手社員からの宣言をしてもらったことで、「若手社員の考えを会社の経営方針とどう接続させるか、経営層が考えるための素材提供にもつながったのではないか」と阿部は言います。
参加者からはプロジェクトへの好評の声があがり、自分自身の仕事に対する主体性の発揮、自分事化をうながしながら、多くの社員を交えるような新たなプロジェクトも、話題として上がっているそうです。
ライトニングトークの最後には、紹介したSF小説活用の事例とサービスデザインとの関わりについて話しました。
「SF小説を作成するために、いろいろな情報を集め、まとめていくプロセス。あるいは、SF小説を起点として、社員同士の望みを明確にするための対話機会をつくること。これらはサービスデザインのプロセスにも通ずる部分があるのではないかと思っております。
新しいサービスをつくることだけが、サービスデザイナーの仕事ではありません、サービスを生み出す手前にある、「こういうことをしたい」という社員の目的意識や主体性の醸成も、サービスデザインが提供できる価値の一つなのではないかと考えています」(阿部)