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#47 ”大物”ついに"ムショ入り"か?!~クエチアピンと魔女の処方箋 Ⅰ~
施設で保護された母の最初の夜が明けた2022年8月3日の朝、施設の管理者Aさんから着信。主治医に言って、「"クエチアピン錠"を処方してもらってきて欲しい。」との事。
クエチアピン?!
”幻覚や妄想・・・まさか・・・?!"
母は「アルツハイマー」なのに?!
幻覚や妄想は、「レビー小体型」に強く出るって・・・。
施設へ入所した昨日、日中帯は、穏やかに過ごした母だったが、夕方になると、やはり不穏な症状が出て来たという。
午後9時、寝る前に、メマリー錠と眠剤を飲ませ、床に就いたものの、23時頃、起きてきて、施設内をウロウロ。夜勤のスタッフに気がつくと、母は、床に正座をして、丁寧にお辞儀をし、スタッフBさんにこう言った。
「本日、入所しました、○○H子と申します。どうぞ、宜しくお願い致します。」と。
スタッフBさんは正確に自分の名前を名乗った母に驚いて、
「あぁ。これはご丁寧に。私は、○○と申します。どうぞ、宜しくお願いします。お部屋にご案内しますよ。こちらへ。」と。
すると母は、スタッフBさんに素直に従い、部屋へ戻って、ベッドに入った。
スタッフBさんは、「うわ。認知症とは聞いているけど、随分と丁寧な、素直な感じの”新人さん”で、良かったわ・・・。」と、思ったらしい。
ところが、30分程すると、また部屋から出て来て、先ほどとすっかり同じように、床に正座をして、「本日、入所しました、○○H子と申します・・・。」と繰り返した。同じことを、全部で3回、繰り返した。
”ヤバいわ・・・これ・・・朝まで続くのかしら・・・どうしましょ。眠剤、もう1錠増やせるかな・・・”
そうスタッフBさんが、思っていた矢先、3回目に部屋に戻った母は、いきなり、部屋の壁に、
ドーンッ!!
と体当たり!!
ええっ?!あーっ!! 危ないです!危ないです!
スタッフBさんが、慌てて母を制す。母は、スタッフBさんに必死に抵抗する。
「私は、間違ってここに入ったんです!!
私は無実ですっ!! 助けて下さい!!
ここから出して!! 誰かーっ!! 助けてーっ!! 」
スタッフBさんの制止を振り切って、母は、何度も壁にドーンっ!!と体当たりっ!!
「大丈夫です!大丈夫! H子さん?!
ほら、腕、痛くしちゃうから、座ろう!!
お話聞きますから。ね?私とお話しましょう。どうぞ、座って。ね?」
「どうやら、お母様、昨夜は”無実の罪”で”刑務所”に入れられたという、モードだった様です・・・。」
マジか・・・😱
スタッフBさんは、どうにかこうにか母をベッドへ座らせ、施設の方で常備してあった鎮静剤を服用させ、落ち着いた頃に、どこか怪我をしていないか確認した所、見た目は異常なし。とりあえず、朝まで様子を看て、”施設長”に相談。
施設長が、「万一、骨にヒビが入っていたり、骨折していたら大変だから、一応、レントゲンを撮りに行く。あたしが連れて行くから、あんた、娘さんに連絡を取りな! 」と、”指令”が下りたらしい。
「あ、それと、(娘さんに)主治医に”クエチアピン”を処方してもらう様に言いな!!」と。
「あぁ、承知しました。申し訳ありません。これから直ぐに、クリニックへ行ってきます。”クエチアピン”ですね?すいません。母がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません・・・・。」
私は電話口で、管理者のAさんに、何度も頭を下げていた。
"いやいや、まじか・・・、これじゃ退所させられるんじゃ・・・。”
すると、管理者Aさんは、笑いながら
「大丈夫ですよ。こういうのは、私達、慣れていますから。私も元看護師なんですが、母も元看護師で、”薬剤”の取り扱いも慣れてますし。母の見立ては、中々ですよ。」
「え?お母様?え?お母様って?!」
「当施設の施設長です。私の母なんです。母が、”こりゃ、久々の大物が入って来たねぇ~”とw やる気満々でw だから、どうぞ、ご心配なさらずに。」
「ええ?!あぁ、そうでしたか。ありがとうございます。助かります。じゃ、クリニックへ行って、お薬を頂いたら、そちらへお届けします。母の事、くれぐれも宜しくお願いします!!」
そう言って、電話を切ると、私は直ぐに支度をしてクリニックへ向かった。
”施設長=母か・・・。すげぇなぁ・・・。クエチアピンね、クエチアピンと・・・。”
クリニックの診察室で「クエチアピンを処方してもらうように、施設で言われたんですが・・・。」というと、主治医は、「あ、なるほど。”クエチアピン”ですか。なるほど、なるほど。では、調整ができる様に少し多めに出しておきますね。」と、仕切りに感心しながら、カルテに記入していた。
母が身を寄せた『小規模多機能型居宅介護施設』は、父が入院している病院のすぐ近くの閑静な住宅街にあり、元々は施設長の自宅(と言っても、かなりのお屋敷。)を改装して、母屋を事務所兼入浴施設兼食堂として使い、広い庭に平屋の、いわゆる小さな病棟(ベッド5床、スタッフの控え室、レクリエーションフロア)と廊下で繋がっている、という構造になっている。
通りからの見た目は、ふつーの”お家”だ。看板さえなければ、ちょっとわからない。駐車場も普通車3台止めるのがやっとこだ。これを、元看護師の母娘が、同じく看護師仲間を数名スタッフとして使って経営している。
薬を届けに行くと、管理者Aさんが、にこにこ顔でエントランスへ出て来てくれた。
「お世話になってます。”クエチアピン”、お届けしました。」
「ありがとうございます。お忙しい所、すいません。あの施設長が、少しお話があると申してますので、ちょっと、お待ちください・・・、施設長!! Ilsa子さん、おみえになりましたよぉー!」
"うわ、嫌だな・・・、怒られるのかな・・・。やっぱり、退所?なのかな・・・、
参ったなぁ・・・。”
「わかったよ。今、行く・・・。」
奥から何やら、しわがれた”老婆”のような声がして、スルスルとスリッパの音が近づいてきた。
「はじめまして。忙しい所、悪かったね・・・。」
”えっ?!だ、誰?!こ、この人が、施設長?!!!!”
”ゆ、ゆ・・・、湯ばぁーば・・・・・😱😱😱”
”湯ばぁーばだよね?!”
豊かな白髪を、頭のてっぺんでお団子に結い上げ、丁寧にお化粧をした、
まさに、リアル”湯ばぁーば”が、私の前に立ち、ジロリと私を見上げた。
”に、似ている・・・。湯ばぁーばに・・・。”
”もしかして、ここは、「油屋」かっ?!”
私は”千尋”の様に固まった・・・。
「どーも。お母さん、打ち身はあるけど、レントゲン、異常なかったから、大丈夫だよ。あの人は骨は丈夫な様だね。あんたは、夕べのお母さんの様子を聞いて、たいそう、驚かれたようだけど、大丈夫だから。
”クエチアピン”も手に入ったからね。コレを少しづつ、調整しながら、飲ませれば、2、3日で落ち着くはずだよ。コイツは、とても良い薬だ。よく効いてくれる。」
いや、もう・・・「夏木マリ」の声でしか聞こえない・・・・・😭
「あ、ありがとうございます・・・、あの、すいません。本当に。あの・・・。」
”湯ばぁーば施設長”のあまりの貫禄に、私は、しどろもどになってしまった。
「私達は、これが”商売”。気にすることはないんだよ。あんたは、今まで、よく頑張って来たね。あんたの母親だから、あの人は大丈夫さ。後は、私達に任せて。お父さんのこと、よぉく、看てやりな。ではね。」
そう言って、湯ばぁーば施設長は、にっかりと笑うと、また奥の部屋へとスルスルと戻っていった。
(いや、もう、「夏木マリ」の声でしか聞こえない・・・・。😱)
呆気にとられていると、娘の管理者Aさんが入れ違いに顔を覗かせ、
「あ、お話、すんだ様ですね。では、またw」
「あ、はい。また・・・、何かあったら、連絡ください。では、失礼します・・・。」
令和の今時、接客スキル0(ゼロ)。上から目線のあの、圧倒的な物言い・・・。あの物腰・・・。まるで、狐につままれた様な・・・。
”湯ばぁーば”だ・・・。あの人・・・。
でも・・・
あの人が、”湯ばぁーば”でも、そうでなくても、
あの人の言葉が、ただひたすらに、沁みた・・・。
悲しくて、嬉しくて、ありがたくて・・・。安心した・・・。
前の車のテールランプがポロポロと零れる涙で滲んでいた ――。
"湯ばぁーば”施設長をもってして、”大物”と言われた母は、果たして、施設に馴染めるのか?! それとも、やっぱり退所かっ?!
次回、
『老々介護の果てに。~母編~ 最終回!! クエチアピンと魔女の処方箋Ⅱ 』
乞、ご期待下さいw
Coming Soon!!-----☆
母が神隠しにあったのか、
私が神隠しにあったのか・・・。
あの人は、確かに、"湯ばぁーば"、だった・・・。