雨の日の子どもたち

雨降りの日、女の子が横断歩道を歩いていた。
白線から落っこちないように、傘を杖代わりに、とったとったと。
お母さんのたんたんたんたんに、だんだんと置いていかれて。
けれどもおかまいなしに、とったとったと歩き続ける。
いや、目に入ってもいないのだ。

雨の日の子どもたちは、街を遊びながら歩く。
傘を引きずる。コンクリートを叩く。
かららら。とんっ、とんっ。
長靴の両足で水たまりに飛び込む。
ぱしゃんっ。
音と、腕と足に走る感覚を楽しむ。

きたないよ。傘がこわれてしまうよ。
お母さんの声なんて気にしない。
未来なんて、知らない。
ただ、今の特別さえひとりじめできればいいのだ。

僕らが傘をぶら下げて持つようになるのは
きっと、想像力を手に入れるから。
柄の頭の白い傷。濡れた服、長靴。
水の溜まった靴で歩くのは気持ち悪くて。
洗濯やお手入れは大変で。
ものにも、なんだかかわいそうで。
ちょっとした未来や自分じゃないもののことを、
考えられるようになるから。
それは決して、さびしいことではなくて。
オトナになったということで。

だけれど僕らは
今も時折恋しくなるのだ。
雨の日の、わがままな子どもたちのことが。

お母さんもまだ、娘のひとり遊びに気づいていないみたい。
今だけは、僕と彼女しか知らない秘密。
うつむき歩く頭に微笑んで、僕は彼女を追い越した。

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