書籍レビュー『三四郎』夏目漱石(1908)明治末期ならではの恋模様
【約1400字/3.5分で読めます】
愛されようとして愛を得ない
複雑な愛の心理を描く
私が読んだ角川文庫版の裏表紙にある解説には、このような文句が並んでいました。
ここだけ読むと、恋愛小説のような印象を抱かれるかもしれません。
しかし、本作は恋愛小説というほど、恋愛を中心に描かれた作品ではなく(もちろん大きな柱ではあるが)、地方から上京した青年がさまざまな人たちと出会い、成長していく青春小説です。
主人公は九州から上京した小川三四郎
時は明治末期、多くの若者たちが立身出世を目指して上京していました。
そんな中で、主人公の三四郎は、東京帝国大学(現・東京大学)に合格するという恵まれた若者でした。
物語の中で特に大きな存在として登場するのが、里見美禰子です。
美人で英語も得意な彼女に三四郎は心を寄せていきますが、はっきりとそれを表さないところに、この時代ならではの風情を感じさせます。
「難しい」という評も見かけたが
文章的にはそれほど難しい内容ではありません。
古い文学によくある「一文が長めで意味が掴みにくい」面は多少ありますが、それでも一つひとつ丁寧に読んでいけば、理解できないことはありません。
「難しい」と言っている方は「意味」を考え過ぎなのかもしれません。
もちろん、作者にとっては深い意味を込めて書いた作品であり、深く読もうと思えば、深い意味が潜んでいるのでしょう。
それがわからないからと言って、本作が「難しい」ことにはならない気がするんですよね。
むしろ、難しいと感じられるのは、場面と場面のつながりにそれほど強い結びつきが感じられないところにある気もします。
実際、本作は頭から順番に読まずに、適当な場面から読んでも、それなりに楽しめるでしょう。
それは登場人物のキャラクターがはっきりしていて、性格がわかりやすいからです。
以前、『坊ちゃん』を読んだ時にも感じたのですが、夏目漱石の作品に出てくる登場人物は、少し読んだだけでどんな見た目で、どんな性格なのかがわかりやすい人物が多いです。
本作でいえば、主人公の三四郎よりも、友人の佐々木与次郎の方が動きが多く、わかりやすいキャラクターでした。
逆に、主人公は割と無個性というか、読者が「自分」を投影しやすいように、薄味のキャラクターに仕上げられている感じもあります。
ゆえに三四郎は動きが少なく、自分から進んで物語を展開させることができません。
だからこそ、与次郎のような活発な人間をそばに置いて、舞台をかき回すことによって、物語が展開していくんですよね。
この読み方が正しいかはわかりませんが、このようにキャラクターを自分の頭の中で想像して読むだけで、本作のおもしろさは一段と増すのではないでしょうか。
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