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書籍レビュー『フェルマーの最終定理』サイモン・シン(1997)どれほどコンピューターが進化しても「考える」のは「人間」

世界の数学者たちを悩ませた
フェルマーの最終定理

「xⁿ+yⁿ=zⁿ」

この式において、
「n」が3以上の自然数だと
x、y、z が自然数にならない

(※自然数:
  0より大きい正の整数。
  正の整数は1、2、3…
  といった単純な数字)

というのが
「フェルマーの最終定理」です。

「n」が2だと、
以下のような答えが出せます。

x²+y²=z²
x=3、y=4、z=5
9+16=25

しかし、なぜか、
「n」が3以上になった途端、
x、y、z の数字が
導き出せなくなります。

つまり、この式の「n」は、
3以上の自然数だと、
成り立たないということです。

この定理は、
17世紀にフランスの
ピエール・ド・フェルマーが
提唱しました。

彼はなかなか、ひねくれた数学者で、
自身の定理の答えを
どこにも示しませんでした。

フェルマーは、
他にもさまざまな定理を発表して、
世界中の数学者に挑戦状を
叩きつけたのです。

そして、
「フェルマーの最終定理」は、
その後、3世紀もの間、

証明・反証されることもなく、
世界中の数学者たちを
翻弄し続けました。

「フェルマーの最終定理」は、
1995年にアメリカの数学者、
アンドリュー・ワイルズによって
証明されました。

本書は、ワイルズがどのようにして、
この定理を解き明かしたかを
追ったドキュメンタリーであり、

その中には、3世紀にもおよぶ、
人類の数学史を振り返る内容も
含まれています。

数学の歴史を進化させた証明

「フェルマーの最終定理」は、
長く解き明かされることがなかった
難問ではありましたが、

実際のところ、
それを解いたところで、
それが何かに役立つことはない、
とも言われていました。

しかし、それはある部分では
合っているかもしれませんが、
ある部分では間違っていました。

私も数学に詳しいわけではないので、
うまく説明できないのですが、

ワイルズは子どもの頃から
数学の歴史を学び、
それらの知恵を駆使して、

「フェルマーの最終定理」を
解いた時に、
その副産物として、

それまで関係がないと思われていた
いくつかの定理を
結び付けることにも成功したのです。

その結び付きが
発見されたことによって、
数学の歴史が大きく進歩したのは、
間違いありません。

例えば、数学の証明において、
なんらかの仮定をする場合、
その前提条件は「仮」のものでしか
ないんですよね。

言ってしまえば、
その「仮」の状況が崩れてしまえば、
証明は正しくなくなってしまいます。

ワイルズがこの定理を証明する際に、
「仮定」だった定理も
しっかりと証明して見せたのです。

これは誰もがたどり着く答えではなく、
ワイルズだからこそ、
成し得た成果と言えるでしょう。

どれほどコンピューターが進化しても、
「考える」のは「人間」

ワイルズが
「フェルマーの最終定理」を
解くうえで取り入れた
数学の原理には、

日本人が考えたものも
含まれています。

'50~'60年代にかけて、
谷山豊、志村五郎によって、
提唱された
「谷山-志村予想」です。

この定理の説明は、
難しくて私にも容易には
できないのですが、

「曲線」を使った定理でした。

ワイルズは、
「フェルマーの最終定理」を
解くにあたり、

この「谷村-志村予想」の
一部を証明しています。
(今でもそのほとんどが
 証明されていない)

私自身、この本を読むまで、
数学の世界はコンピューター任せ
なのだろうと思っていました。

しかし、実際には、
それは違っていて、

あくまでも数式を解くための
「考え方」は
人間が考えるしかありません。

たしかに、コンピューターは、
計算するのが、
人間よりも圧倒的に速いですが、

数式を解くための考え方を
考えることはできないんですよね。

どんな難問でも
延々とコンピューターに
計算させ続ければ、

いつかは答えが
出るかもしれないですが、

それでは自分の方が、
先に亡くなってしまうかも
しれないのです。
(実際には、そういう問題の方が多い)

そういう意味では、
数学という分野は、
人間の一切の「主観」を排除した
学問でありながら、

「人間」が不可欠な学問でもある、
ということがよくわかりました。

「数字」には、
感情がない冷たいイメージが
あると思いますが、
このドラマは熱いです。


【作品情報】
発行年:1997年
   (日本語版2000年)
著者:サイモン・シン
訳者:青木菫
出版社:新潮社

【著者について】
'64年、イギリス生まれ。
テレビプロデューサー、
ジャーナリスト。

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