【感想】ど素人でもわかる経営学の本
経営について学ぶのなんていわゆる経営陣だけでいいんじゃないかと思ってないでしょうか?
と偉そうな書き出しをしてみましたが、私もわざわざ学ぶ必要なんてないなと思っていました。
今回取り上げるのは中川功一さんの『ど素人でもわかる経営学の本』という一冊です。この本、元大阪大学の准教授であり、立ち見が出るほど人気だった講義の内容がぎゅっと詰まったもので、2019年に出版されて以来、重版が続いている名著です。
この本を手に取った理由は、現在私は営業部長という立場で「経営とは何か?」というテーマをしっかり学びたいと思ったから。やっぱり役割が変わっていくとしっかりと基礎から知らないと、構造理解も出来にくくなっていって結果に繋がっていかない場面も多いんですよね。
この本は大学生向けに書かれているだけあって、難易度も低く語り口もわかりやすいんです。学びたいけど難しそうな経営学を、気軽に楽しみながら理解できる素敵な一冊でした。
今日ははその中でも、一般的な用語解説やフレームワーク以外の部分で、特に印象に残ったポイントを紹介していきたいと思います!
リーダーシップ論 - 裏方リーダーの力
まず注目したいのは、この本で取り上げられているリーダーシップ論。特に青山学院大学陸上競技部の原晋監督の話がとても興味深かったです。
原監督は、選手としても指導者としてもこれといった実績がなかったにも関わらず、青山学院大学を駅伝の強豪校に育て上げた人物です。彼が実践したのは、目指すべき未来を示しつつも、選手たち自身に考えて行動してもらうというスタイル。練習内容の議論や目標達成のプロセスを選手たちに委ねた結果、彼らの主体性を引き出すことに成功したそうです。
リーダーと聞くと、前に立って引っ張るカリスマ的なイメージを持つ方も多いかもしれません。でも、原監督のように裏方に徹しながらチームを支えるリーダー像も現代においては非常に重要だと、この本を読んで感じました。
実際、私自身も最近、似たような経験をしたことがあります。ある優秀な営業メンバーが成長の壁にぶつかってしまったんです。営業成績は素晴らしいものの、自分のことしか考えられず、他人への影響力が弱い。彼が次のステージに進むためには、他人を支える力を身につける必要があると感じました。
そこで、彼に改善プロジェクトの役割を任せることにしました。部門全体への情報展開を毎週行ってもらい、自分の営業活動も言語化して他のメンバーと共有する役割を担ってもらいました。最初は戸惑っていた彼も、次第にその役割に慣れ、自然と周りに助け舟を出すようになっていきました。
その結果、彼は一皮むけたように生き生きとし、周囲に影響を与える存在へと変化しました。この経験を通じて、リーダーとは単に目標を管理する存在ではなく、チームの成長を支える裏方であるべきだと再認識出来ましたね。
PEST分析で未来を読む
次に注目したいのは、PEST分析です。経営学やマーケティングでよく使われる分析フォーマットですが、この本では「10年後のビジネストレンドを予測する」というテーマで紹介されています。具体例として挙げられていたのが、ライザップの成功理由。
ライザップが注目された背景を、PEST分析に当てはめると以下のようになります:
政治(P): 健康保険料の増額に伴い、健康への意識が高まった。
経済(E): 格差増大により富裕層が増えた。
社会(S): 美しさへの欲求が高まり、健康的な体型が価値を持つようになった。
技術(T): IT技術の発展により、むしろアナログ的な価値に注目が集まった。
これらを統合すると、「健康ボディを富裕層向けにコンサルティングで提供する」というビジネスモデルが非常に時流に合ったものだったことがわかります。
このように、未来を予測するためにはマクロ環境を理解することが重要です。この本では、PEST分析が単なるフレームワークとしてではなく、実際のビジネスケースでどのように活用されるかを具体的に示してくれます。
先日、大企業のCIOの方とお話した際に面白いことを言っていました。ITの専門家たちは、技術的な観点や法律の変化について深く語ることが多いものの、経済や社会的なトレンドについてはあまり提案に含まれないという話を伺いました。このような視点の欠如が、投資判断において惜しい結果を招くことがあるそうです。
私自身もこの話を聞いて、提案や意思決定の際にPEST分析の視点を取り入れることの重要性を再認識しました。政治・経済・社会・技術がどのように変化していくのかを考え、その影響を分析して提案に反映する努力が必要だと感じています。
学校で学んだフレームワークを「理論」で終わらせるのではなく、実践でどう活かせるか。これを問い直すきっかけとして、PEST分析は非常に有用なツールだと思います。この本を通じて改めて、フレームワークの価値を再発見しました。
営業はクリエイティブな仕事
最後に触れたいのは、「日本の営業はクリエイティブな仕事である」という視点です。この本では、営業職の国際的なユニークさや、その価値について詳しく紹介されていました。
営業と聞くと、「足で稼ぐ」「非効率」「予算達成のプレッシャー」といったネガティブなイメージが根強いかもしれません。実は違っていて、日本の営業職が持つ独自性と、その可能性の広がりはすごく大きいものでした。
海外の営業は、マーケティング部門が分析や戦略を立て、セールス部門が実行するという分業スタイルが一般的です。一方、日本では、営業が自ら売り方を考え、顧客のニーズを基に提案を行うケースが多いのが特徴です。そのため、営業職にはマーケティング的な視点や商品企画の発想力が求められます。
実際、私自身も営業職として、多くのクリエイティブな経験を積んできました。現場でお客様の声を直接聞き、真の課題や望む未来を共に描くプロセスは、非常にやりがいがあります。また、それを商品企画や新規提案につなげることで、マーケティングにも貢献できる。このような多角的な経験を通じて、営業は幅広い知識やスキルを身につけやすい職業だと感じています。
少し誤解を生みやすい職業だなとも思うので、認識を少しでも変えて貰えるようにしていきたいと思います。
最後に
今回ご紹介した『ど素人でもわかる経営学の本』は、基礎的な経営理論をしっかり学べる「超良品」といえる一冊です。普遍的な内容が多く、経営のフレームワークやマーケティングの考え方を改めて見直すきっかけになります。
例えば、「ゲーム機を売りたければゲームを普及させる」といったマーケティング戦略の話や、フリーミアムのような現代では当たり前となったモデルについても、本書を通じて改めてですが、一から学ぶ面白さがありました。
この本は、経営学の教養を深めるだけでなく、現在の仕事でしっかりと成果を出したいと考える社会人にも大いに参考になる内容が詰まっています。特に経営や営業に携わる方には、仕事の実践に直結する学びが多いと感じました。
経営学に興味がある初心者にも、経験豊富なプロフェッショナルにもおすすめです。ぜひ、皆さんも手に取ってみてはいかがでしょうか?