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厚底シューズの弊害

マラソン界に厚底レーシングシューズが登場したのは2016年。2017年に一般販売がされてからは履くだけで記録が伸びる「魔法の靴」とも言えるような成果を上げてきました。長く競技を続けてきた人ほど厚底効果には衝撃を受けていることでしょう。


現在は様々な厚底シューズが発売されている

一方で、厚底シューズを使っているとだんだん記録が頭打ちになってくるランナーがいます。他でもなく私もそうでした。トレーニングは以前と変わらずに続けていて、それどころか厚底シューズを使いこなすのに必要と言われている股関節のトレーニングも取り入れたはずなのに、徐々に弱体化して気が付けば薄底を履いていた時よりも走力が落ちてしまったのでは?と思えるほどでした。

私はこれが厚底シューズの弊害だと考えます。結論から言えば、ふくらはぎや足首周りの筋力が低下したのだと思います。

そもそも、厚底レーシングシューズを使うことで得られる効果は以下のように考えられます。

1)クッションによる筋肉へのダメージ減
2)高反発ソールによる推進力
3)形状による足首・ふくらはぎへの負担軽減

これらが合わさることで筋力のダメージを抑えながらストライドを伸ばせるのが厚底シューズの特徴です。一方で厚底はソールが柔らかくて不安定な分、接地の際には左右にグラつく身体を筋力で支える必要があります。

研究によるとケニア人は日本人に比べて接地時の足の横ブレが小さいそうです。つまり、速いランナーほど接地時に足首を安定させて地面に力を伝えるのが上手だと考えられます。

しかし、厚底シューズを使いすぎると足首を固定するための筋力が低下してしまうという懸念があります。前述の通り、厚底シューズを使うと足首やふくらはぎへの負担が軽減されます。厚底でも左右の不安定さに耐える必要があると述べましたが、厚底シューズは接地が上手でなくとも推進力を生み出しやすい設計になっており、その際にふくらはぎや足首周辺の筋力はそれほど動員されません。すなわち、足首周りの強化には不向きなのです。

恐らくこの筋力はカーフレイズなどの筋トレで強化しても十分ではないと思われます。というのは、重要なのは走動作で接地した瞬間に発生する「起こし回転」を制御することであり、そのためには実際に走って起こし回転の動作を反復するほうが必要な動きや筋力が身につきやすいと考えられるからです。かつてトップランナーが薄底のシューズでトレーニングをしていたのもこの能力を高めるためだと思われます。

まとめると、厚底シューズを使い続けることの弊害とは、足首やふくらはぎの筋力が低下して接地時の起こし回転を制御できなくなり、不安定なソールの上で出力が発揮できなくなるからパフォーマンスが落ちる、ということではないでしょうか。

これを防ぐためには、反発が低めで起こし回転を自力で制御できるシューズ(≒薄底)を使い、「走りながら強化する」ことが最も効率的だと考えられます。もちろん、高クッションのシューズを使うことのメリットもあるため、故障のリスクを分散させつつ併用するのが賢い使い方と言えるでしょう。

もしくは、ふくはぎの筋力低下をさせないほど練習量を増やすという手もありますが、練習量を増やせば故障のリスクも高まりますし、刺激を与える所要時間も長くなるため、こちらは「物理的に可能であれば」という条件がつきそうです。

薄底を併用することの必要性は以前から感覚的には分かっていましたが、メカニズムを解き明かすと多分こういうことだと思われます。箱根駅伝でも早大駅伝チームが薄底を併用することで故障がなくなって強くなったと話題になりましたが、ここで述べた現象が起きていたのだろうと推察します。

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