【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー75
「地獄路」
向井はドセとともに特別室へ向かいながら、
「ドセ君は仕事に戻ってもいいですよ」
と彼を見た。
「いえ、手が空いているのが僕だけなんで、
一応、部屋まではご一緒します」
二人は特別室の前に立つとドアをノックして中に入った。
いつもの如く道川のだみ声が響いてきた。
「このボンクラが!! 呼んだらすぐ来んか!! 」
「申し訳ございません」
向井は深々と頭を下げると、
「冥王から伝言を言付かってまいりました。
お忙しいとは思いますが、
道川様と灰田様のお二人には冥王から話がございますので、
別室の方へ移動していただきます」
「用があるなら、そっちからここへ来んかい!! 」
「お言葉ですが、ここでの全権は冥王にございます。
全ての権利はあなた方ではなく、
冥王が握っているという事をお忘れなく」
「何だと!! 生意気な!! このままですむと思うなよ」
怒鳴る道川に向井の横にいたドセはビクッと体を震わせた。
向井は何も言わずに道を開けると、
ドアから出るように頭を下げた。
廊下にはアートンが待機しており、
「どうぞこちらへ」と、
地獄路へと二人を案内していった。
「ドセ君はもう下がっていいですよ」
ドセはホッとしたような顔をすると一礼して部屋を出て行った。
大沢と須原は何も言わずに見ていたが、
ドアが閉まるのを待って大沢が口を開いた。
「確かに私らは死んでいるわけだからな。
ここにいるとつい忘れてしまうが。
あいつらもそろそろ成仏させられるという事か。
だがな、この国を支配しているのは間違いなく私らなんだよ」
大沢は椅子に腰かけるとニヤリと笑った。
この国で何が一番の問題なのか………
それはメンツだ。
大沢が以前向井に言った言葉を思い出していた。
「私はメンツをつぶされるのが何より気に食わない。
それはたった一人の命でも、
メンツを保てるのであれば私は切り捨てる。
考えてもみろ。
いつの時代も火の粉が自分にかかれば、
正義の味方でも共犯者になるもんだろう」
だれが責任を取るのか。
結局誰も取らないから、
こういう事件はいつまでもなくならない。
大沢が向井を嘲笑するように見た。
「冥王などと偉そうに言っても、
結局私らがここにいることで全て証明されているじゃないか?」
「…………」
向井は反論することもせずに大沢と須原をじっと見ていた。
「私らのやり方に不満があるなら抗議でもなんでもすればいい。
下界を見てみろ。
不満はあれど誰も私らに逆らいはしない。
国民に選ばれている以上、
私らにこの国の生殺与奪の権利は与えられている。
それも分からんお前らに、
私らの生き死にに権利があるというのは笑止千万。
片腹痛いわ」
大沢は哀れだと向井は思った。
死んでも自分は神だといい、
そんな大沢を国は神だと崇め狂った歯車は止まらない。
冥王が言った凶行と大沢の握るカード。
恐らくそこに何か秘密があるはずなんだが……
向井はどこまでも不遜な大沢をただ黙って見ていた。