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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー86

「アニメと安達」

そして今は、TVを占領中という事か。

冥王から、

「安達君はしばらくはここで過ごしてもらって、
それから仕事に入るから、
君達もそのつもりでいてくださいね」

と言われたが、
これは少し様子を見ていた方がいいのかもしれないな。

冥王が俺だけに言ったという事は、
何か言えない理由があるんだろう。

向井は室内に入ると、安達に声をかけた。

「安達君? 」

向井の声も聞こえないのか、凄い集中力だ。

「アニメは面白いですか? 」

その声にやっと安達が振り返った。

「面白い。漫画は読んだことあるけど、
動くのは初めて。凄いね」

安達はアニメのことを話すときは特に幼くなる。

「うん、だけど疲れない? 少し休んだら? 
見たいものがあるなら録画しておけば、
いつでも見れるから」

「……そういえば、ちょっと疲れた。
でも、これ見たいんだ」

「だったら、録画しておいてあげるから少し寝ておいで」

「……分かった。眠ってくる」

安達はそういうと立ち上がり、
ふらふらしながら自室に戻っていった。

「向井はスゲエ~
俺があれだけ声かけても動かなかったのに」

向井がリモコンで録画をしていると、
牧野がびっくりした様子で近づいてきた。

「ちょうど眠くなってたんじゃないですか? 」

向井が笑って言った。

「あいつってやっぱ変」

牧野は安達の去った方向に目をやると、
ぽつりと言った。


その三日後―――

新たな大画面モニターが三台設置され、
牧野も寝ながらプロ野球を観戦していた。

「安達君はいませんね」

向井が聞くと、

「さっき、ディッセが来て、
安達を冥王のところに連れてったよ。
なんか、新しいリングがどうとか言ってた」

リングが出来上がったのかな?

向井はそんなことを考えながら牧野に声をかけた。

「俺はちょっと仕事で下界に下りるので、
アートンさんに聞かれたらそう言っといてください」

「何かあるの? 」

「ん~大したことじゃないんですけど冥王に話があるので」

「分かった」

向井が部屋を出ようとすると、

「お土産欲しい~食いもんがいい~」

牧野の声がかぶさってきた。

「買えたらね」

向井は笑うと下界に下りて行った。


――――――――

黒谷翔太。

高田に言われて気になっていたので冥王に尋ねてみると、

「ああ、彼ね。
どうも特殊みたいで特例が見えないように、
何度も消去を試みたんだけど成功しないんですよ。
調べてみたらどこを探しても彼のような人間はいないんです。
不思議ですよね。
彼が寿命を全うせずここに来たら、
即特例にするんですけどね」

「縁起でもない」

向井が渋い顔をしていった。

「特例になるというのは本当に特別なんですよ。
魂魄は魄が強いと鬼になり、人に害をなします。
鬼は人というのは嘘ではありませんよ。
特例は精神も肉体も強い存在のものにしか務まらないので、
子供は除外されます。鬼は陰、神は陽。
その両方を持った者が鬼神であり君達特例です。
誰でもなれるわけではないんです」

冥王はそういうと真剣な顔で向井を見た。

「それにね。人間は霊が好きなんですよね。
ほら、よく守護霊の話などもするでしょう。
でも実際は殆ど光の渦に乗って、
ここから成仏されてるのでいない人が多いんですよ」

「えっ? はっ? 」

向井が間抜けな声を出した。

「守護霊の多くは補導できなかった光の渦に乗らなかった霊です。
別に悪霊でもないので無理に祓いませんけど、
その人間と霊波動が合ったという事でしょう。
守護するわけではありませんが、
その人間のそばにいたければ守らないわけにいきませんから、
自然と守護しているというわけです」

冥王が笑った。

向井は人間だった時の情報がどんどん崩れてきて、
何が何だか分からなくなってきていた。

「そんなに難しい顔をしなくても、
ここにいれば自ずと分かっていきますよ。
君たちの先祖だって、
調べればいつ生まれ変わっているのか分かります。
もちろん君たちのその前のこともね」

冥王が笑いながら話す。

「その黒谷君と高田さんも不即不離の関係を保っていたので、
向井君も大丈夫です」

冥王にそういわれて、
黒谷が住むという団地に来てみたのはいいが……
引っ越しする人が多いのか、
人が次から次へと荷物をもって移動していた。

向井が不思議そうに眺めていると一人の男性が近づいてきた。

「もしかして高田さんの次の人? ん? 人でいいのか?」

そういって腕を組んで考え込むと言った。

中肉中背。

人懐っこい笑顔の作業着姿の男は、
向井を見ると話しかけてきた。

「俺、黒谷。高田さんから聞いてない? 」

「あ、いや、向井です。想像していたより若くて、
少し驚きました」

「えっ? 俺、カッコいい? 」

「いや、カッコいいとは……」

「まいっちゃったなぁ~あははは」

人の話をきちんと聞くタイプではないようだ。

「写真で見るともう少しがっちりして見えたので」

「どの写真? 見せて? 」

向井が高田に渡されたタブレットを見せると、

「これ、六年位前の写真じゃん。
この時はリストラにあって人生お先真っ暗だった時だな。
彼女にも振られて仕事も住むところもなくなってさ。
もう、死ぬしかないかって思ってたら高田さんに会ったんだよ」

「そうなんですか」

「今はこの時より年は食ってるけど体重落ちてるからな」

黒谷は明るく言った。


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八雲翔
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